『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』
原題 | HERB & DOROTHY 50X50 |
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制作年・国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 1時間27分 |
監督 | 佐々木芽生(ささき めぐみ) |
出演 | ハーバート&ドロシー・ボーゲル、リチャード・タトル、クリスト、ロバート・バリー、パット・ステア、マーク・コスタビ |
公開日、上映劇場 | 2013年3月30日(土)~新宿ピカデリー、東京都写真美術館ほか全国ロードショー |
~アート作品に埋もれる生活におさらばしたドロシーの決断~
ニューヨーク在住のハーブ&ドロシーの夫婦は、公務員として勤めながら半世紀に渡って5000点に及ぶアートコレクションを収集してきた。それらを売却することなく、新婚当初から住んでいる狭いアパートに収納してきた、世界でも珍しい個人コレクターとして注目されるようになる。まだポップアートにスポットが当たる前から早くもその魅力を認知し、有名無名にかかわらず少しずつ収集されてきたモダンアートの数々。その様子を捉えたドキュメンタリーが前作『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』。その後、コレクションはナショナルギャラリーに寄贈され、全米50州の美術館に50作品ずつ分配するという「50×50プロジェクト」と、その後の夫婦を追ったものが、今回の『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』である。
寄贈計画では、5年以内にその展覧会を開催させるとことが条件だが、ラスベガスの美術館では寄贈した直後に美術館が閉鎖されて、さらに寄贈先を探すなど、問題も多かったようだ。そんな中、最初にコレクション展を開催したインディアナポリス美術館では、今までニューヨークのアパートに半ば埋もれていたアート作品が、初めて脚光を浴びた瞬間を見ることができる。夫婦にとっては、子供の初舞台ともいえる瞬間だ。
ひとつひとつの作品が装丁されライティングが施されると、また違った作品のような輝きを放つ。展覧会に訪れた人々の反応も面白い。子供たちの素直な反応や、さらに想像を膨らませる反応など、各地で多くの人の目に触れる機会となった。さらに、2012年夏にハーブが89歳で亡くなり、ひとり残されたドロシーが一大決心をする。全てのコレクションを寄贈し、今後は作品の収集を止めると宣言したのだ。ハーブと共に始めたコレクティングは、その役目を終え、それぞれが旅立った。アパートから一切合財のコレクションが運び出され、広々とした壁面が現れた時のドロシーの表情がいい。
公民権運動、ウーマンリブ、ビートルズ旋風、ミニスカートの流行、ベトナム戦争、宇宙開発、あらゆる分野に変化をもたらした1960年代。特に、アートの中心はパリからニューヨークへと移行し、才能豊かな若手のアーティストが、それまでの価値観を覆す作品を自由に製作していった。そんな時代の大きな流れの中で生まれたニューアートの価値をいち早く見出してコレクションにしたのが、ハーバート・ボーゲル、すなわちハーブだった。だが、それを世に出すこともなく、ずっと狭いアパートに仕舞い込んできた。ベッド下に積み重ねられるたびに高くなるベッド。その質素な住まいを見るにつけ、何とも不思議な生活を送ってきたものだと感心する。夫婦の間にも時には意見の衝突もあっただろう。だが、そのお陰で作品が散逸することなく、今こうしてまとまった作品群として一般公開される。現代だけでなく、未来に残せるアートに触れる歓びを我々に残してくれたハーブ&ドロシー。その偉業に感謝したい。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://herbanddorothy.com/
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