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『アンナ・カレーニナ』

 
       

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作品データ
原題 Anna Karenina
制作年・国 2012年 イギリス 
上映時間 2時間10分
原作 レフ・トルストイ
監督 監督:ジョー・ライト 脚本:トム・ストッパード
出演 キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウ、アーロン・テイラー=ジョンソン、ケリー・マクドナルド、マシュー・マクファデイン、ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィキャンデル
公開日、上映劇場 2013年3月29日(金)~TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、他全国ロードショー

 

~イギリスの映画・演劇・バレエ界の最高のスタッフが紡ぐ、未体験ゾーンの【アンナ・カレーニナ】~

 

anna-1.jpg 19世紀の帝政ロシア。華やかな社交界で美貌の誉れ高い政府高官の妻アンナ・カレーニナは、若い将校と恋に落ち、駆け落ちまでした挙句、息子に会えない辛さや恋人への不信感で気を病み、列車に身を投げて自殺してしまう。あまりにも有名な文豪トルストイの悲劇は、これまでに映画やバレエ、ミュージカルなどでどれほど演じられてきたことか。それを、『プライドと偏見』『つぐない』のジョー・ライト監督が、『恋に落ちたシェイクスピア』『ローゼンクランツとギルデンスターン』で有名な脚本家トム・ストッパードとタッグを組み、この秀麗にして悲愴的な物語を、かつてない斬新さと魅力で圧倒する。

 ”アンナ・カレーニナ”という役は、演じる女優またはバレリーナによって、作品自体が大きく変化して見えるくらい難しい役と言われる。グレタ・ガルボはサイレントとトーキーで2回もアンナを演じているが、カトリーヌ・ドヌーヴはこの役を切望したが叶わなかったという。それを今回、キーラ・ナイトレイが挑む。まだこの時代の女性は夫に従順で貞淑な妻が理想とされていたが、それを主体的に行動する女性像は現代女性に近い。こんな気の強いアンナ・カレーニナ見たことない!?

anna-4.jpg 妻の不貞にも毅然と対処する冷静な夫をジュード・ロウが演じている。少し前なら、彼が恋人ヴロンスキーを演じているところだが、歳の離れた夫として、生え際をさらに深く剃りこむという役者魂で貫禄を出している。そして、誰もが魅了されるようなフェロモンぷんぷんの若き将校ヴロンスキーを演じたのは、『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』で注目され、最近では『野蛮なやつら/SAVAGES』でもその甘いマスクが光っていたアーロン・テイラー=ジョンソン。

anna-2.jpg 若きヴロンスキーの情熱に圧倒され、初めて感じる恋の焦燥と陶酔。この愛にすべてを捧げる決心をし、恋の逃避行に走るアンナ。だが、一人息子のセリョージャのことが忘れられず、その愛おしさに堪りかねて戻るが、夫が息子に会わせてくれない。夫に離婚を迫りながらも母親としての情愛を露わにしていく。久しぶりに社交場でもある劇場へ出向くが、世間の冷たい目にさらされ、さらにヴロンスキーがかねてから母親に勧められていた貴族の娘との縁談を知り、生きる力、すべての愛を失ったと悲嘆にくれるようになる。

anna-3.jpg 貴族社会の女性が陥った情熱的な恋は、激しい痛みと悲しみを生み出した。政府高官として社会的地位も高く誠実な夫を捨てて若い将校との恋に走ったアンナを愚かだと思うだろうか。女としての感情に正直に行動し、初めて知る愛の歓びを甘受した結果、失うものの大きさを知る。そんなアンナの生き方を許さなかった社会が、さらに彼女を追い詰める結果となってしまった。

 本作の大きな特徴は、劇場そのものを型どったセットを舞台としていることだ。ステージや客席、ロビーや舞台裏や天井まで、劇場のあらゆる場所を背景とし、まるで劇場全体を使って上演されているかのよう。めくるめく恋の変遷を、シャープな場面転換で表現。極めつけは、ステージ奥の壁が開放され、外の自然の風景が広がるシーンだ。(平成中村座の『夏祭浪花鑑』の最後で見せた手法だが、故中村勘三郎は唐十郎の舞台の影響を受けてこの手法を使った)それまでの閉塞感を一瞬に払拭するように、または、全く違う純粋な世界を表現するかのように、自然界の陽光が効果的に使われている。

anna-5.jpg さらに、今年のアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞したジャクリーン・デュランによる華麗な衣装の数々。さらにさらに、ダリオ・マリアネッリの音楽と、首藤康之や森山未来ともコラボしたことのあるバレエ・コンテンポラリーダンス界の寵児シディ・ラルビ・シェルカウイの振付が、登場人物の心象風景を優雅にして繊細に表現して、心奪われること必至。イギリス演劇界が総力を挙げて創造した斬新な本作は、未だかつてない『アンナ・カレーニナ』の世界を堪能させてくれる。

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://anna.gaga.ne.jp/
(C)2012 Focus Features LLC. All rights reserved. photography by Eugenio Recuenco,Laurie Sparham

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