原題 | Holy Motors |
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制作年・国 | 2012年 フランス |
上映時間 | 1時間55分 |
監督 | レオス・カラックス |
出演 | ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、エリーズ・ロモー、ミシェル・ピコリ |
公開日、上映劇場 | 2013年4月、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー 4月上旬、梅田ガーデンシネマ、5月、京都シネマ、神戸アートビレッジセンターにて公開 |
~脳髄を刺激する!めくるめく映画的至福感~
鬼才レオス・カラックスの最新作は何と大胆で、何と濃密で、何とミステリアスなのだろう。1999年に発表された『ポーラX』はいまいちピンと来なかったのだが、13年ぶりのこの長編には、ガツンとやられた。SFのようであり、ファンタジーのようにも不条理劇のようにも見える。ジャンルを超越した不可思議な世界が繰り広げられ、受け取る人の感性によって、変幻自在に形を変え得るポテンシャルを備えている。
ある一室で目覚めた男が、汽笛とカモメの声を聞きながら、映画館へと続く隠し扉を見つける…というプロローグからして、ワクワクしてしまう。この男を監督自身が演じているのも、顔のない観客でいっぱいという映画館の風景も意味深だ。そうして、オスカーと呼ばれる男の一日が始まる。彼は、女性ドライバーが操るリムジンの中で変装して、街へ飛び出していく。物乞いの女だったり、ある少女の父親だったり、殺人者だったり、怪物だったり…。11もの役柄あるいはつかの間の生を“生き切る”のだ。
この仕事を依頼する人間があり、同業者もいる。俳優という職業への示唆なのか。あるいは人生そのものが演劇であるということなのか。観ているうちに、いろいろな考えが頭の中を去来する。最後のチンパンジーが意味するもの、また、リムジン同士の会話は、デジタル社会への一つのアンチテーゼのように思えてくる。しかし、そういうメッセージ性を探すより、次から次へと繰り出されるドラマの残響を楽しみたい。それは観る者の中で不協和音となったり、美しい和音となったりするのだ。
カラックス監督の“アレックス3部作”で主人公を演じたドニ・ラヴァンの演技は圧巻だ。身体的能力の高さを証明しつつ、痛ましさ、むごさ、哀しさを突きつけてくる。カイリー・ミノーグが劇中で歌う『Who Were We?』も印象的だ。「私たちは誰だったの?」…その問いを探し続けるのは、オスカーのみならず、私たちも同じなのだろう、と。
(宮田彩未)
公式サイト⇒ http://www.holymotors.jp/
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