原題 | Terraferma |
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制作年・国 | 2011年 イタリア、フランス |
上映時間 | 1時間33分 |
監督 | エマヌエーレ・クリアレーゼ |
出演 | フィリッポ・プチッロ、ドナテッラ・フィノッキアーロ、ミンモ・クティッキオ、ジュゼッペ・フィオレッロ、ティムニット・T |
公開日、上映劇場 | 2013年4月6日(土)~岩波ホール、4月13日(土)~シネ・リーブル梅田、4月下旬~京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
~“難民救助”、甦ったイタリア写実主義の伝統~
魂を揺さぶられるほどのイタリア映画体験は実に久しぶりだ。遠く“ネオ・リアリスモ”時代以来のことではないか。エマヌエーレ・クリアレーゼ監督がシチリアの離島を舞台に撮りあげた『海と大陸』にはそれほどリアルな現実、庶民の生きざまと苦悩がこめられていた。
原題は「陸地」。主役が漁民とくれば当然、ヴィスコンティの『揺れる大地』(1948年)を思わせるが、現代の映画は貧しい離島にやって来た難民という、欧州諸国に共通するより深刻な問題を突き付ける。
地中海の小島リノーサ島に暮らす20歳のフィリッポ(フィリッポ・プチッロ)は老いた祖父と漁に出る日々。海で父を亡くし、叔父は観光業に転職、母も島を離れて人生をやり直したい…将来の見えないフィリッポはある日、人間がすし詰めのボートに遭遇。祖父は人道を重んじて彼らを助けるが、その温情が家族を苦しめることになるとは…。
明るい陽光降り注ぐ海が苦渋に満ちていた。まるで魚の大群のような激しい潮吹きが、必死に生きることを求める難民の群れだった。海に生きてきた祖父は当然のように彼らに救いの手を差し伸べる。フィリッポは警察に通報することを勧めるが祖父は耳を貸さず、難民の中にいた妊婦のサラとその息子を自宅ガレージにかくまう。
難民の妊婦サラ役に抜擢された素人俳優ティムニット・Tの物静かな表情がすべてを物語る。子供を抱えて懸命に生きようとする女にはたくましい生命力と誇りがあった。
ヴィットリオ・デ・シーカ『自転車泥棒』、ロベルト・ロッセリーニ『無防備都市』など戦後、世界を席巻したイタリアン・リアリズムの諸作は悲惨な世情をドキュメンタリー・タッチで撮ったことで名をあげた。素人俳優の表情が何よりも雄弁に監督たちの主張を代弁した。
貧しいシチリア島民であるフィリッポの母親は、サラに通じない言葉で「休んだらすぐに出ていって」と伝える。神のごとく感謝されても、そう言うしかない母親と、難民の母親。ともに困窮する人間としてのどうしようもなさが見る者に迫る。
解決策などない。祖父が出産したサラたちを、彼女の目的地トリノに送り出そうとした夜、当局は厳重警戒に当たっていて断念。だがその時、ずっと中途半端だったフィリッポが突然、難民母子を乗せて走りだし、船に乗せて暗い海に漕ぎ出す。船はどこへ向かうのか。いつまでもゆらゆらと漂う船が困り切った人間たちの行く末を見事に暗示していた。
(安永 五郎)
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