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『脳男』

 
       

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作品データ
制作年・国 2013年 日本
上映時間 2時間5分
原作 首藤瓜於著『脳男』講談社文庫刊
監督 瀧本智行
出演 生田斗真 松雪泰子 二階堂ふみ 太田莉菜 大和田健介 染谷将太/光石研 甲本雅裕 小澤征悦 石橋蓮司/夏八木勲 江口洋介
公開日、上映劇場 2013年2月9日(土)~全国東宝系ロードショー

~美しすぎる殺人者”脳男”の静と動~

 本当に感情のない人間はいるのか。無表情のままロボットのように規則正しい動きを繰り返していたかと思えば、悪の匂いには鋭く反応し、超人的なアクションで悪人を抹殺する。ナイフが刺さろうが、車にひかれようが痛みすら感じない姿はまさに人間ターミネーターだ。 天才的頭脳を持ちながら、正義を貫くための殺人マシーンに仕立て上げられた感情のない”脳男”を通じて、人間の本質や各々の正義に鋭く迫るサイコサスペンス。美しすぎる殺人者”脳男”の静と動に魅了される。

nouotoko-2.jpg 連続殺人事件容疑者を追う熱血刑事茶屋(江口洋介)、鈴木一郎と名乗る男(生田斗真)に隠された真実を追求しようとする精神科医鷲谷(松雪泰子)、そして脳男にシンパシーを感じて追いかける爆破魔緑川(二階堂ふみ)らが、それぞれの思いから脳男の正体を探っていく。無表情のままロボットのように規則正しく、無駄のない動きを見せる一方、瞬き1つすることなく、鷲谷の質問に無味乾燥な返答を繰り返す鈴木こと脳男のただならぬ気配が、作品に得もいえぬ緊張感を与える。生田斗真演じる脳男の静寂を呼ぶ美しさと、驚くほど鍛え上げられた肉体から繰り出される瞬発力抜群の動きに、疑惑の人物であることも忘れて見惚れてしまう。

 鈴木の本当の姿や、殺人マシーンに仕立て上げられた理由、脳男と呼ばれる超人的な頭脳など、脳男の真相に切り込んでいく鷲谷は、自身も弟を殺されたトラウマを持ちながら必死で克服している女だ。殺人に手を染めた者でも再生できると信じ、自分の患者や脳男に人間の可能性を語り続ける。悪を裁くために殺人を犯す脳男との対峙や、再犯を防止できなかった衝撃など、自己とも闘う鷲谷の葛藤が、何よりも人間らしさを浮かび上がらせる。

 緑川が鷲谷の勤務する病院に乗り込み、病院を爆破しまくる後半は、ハリウッド映画さながらの迫力で緑川、茶屋、鷲谷、脳男がそれぞれの正義を胸に命懸けの闘いを繰り広げる最大の見せ場に相応しい。脳男の激しくも美しいアクションと、二階堂ふみ演じる緑川の破滅的な狂気が激しくぶつかるシークエンスは憎悪がぶつかりあい、ダークパワーが爆発する。撮影にロバート・アルトマン監督作品も手掛けた栗田豊通を迎え、緊迫した脳男の世界観を見事に表現した秀作。人間離れしたあまりにも孤独なダークヒーローがかすかにほほ笑むとき、脳男に感情が生まれた希望と新たなる展開の行方に胸がざわめいた。
(江口由美)

公式サイト⇒http://www.no-otoko.com/
(C) 2013 映画「脳男」製作委員会

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