原題 | Messenger |
---|---|
制作年・国 | 2009年 アメリカ |
上映時間 | 1時間52分 |
監督 | 監督・共同脚本:オーレン・ムーヴァーマン |
出演 | ベン・フォスター,ウディ・ハレルソン,サマンサ・モートン,スティーヴ・ブシェーミ |
公開日、上映劇場 | 2013年3月9日(土)~新宿シネマカリテ、テアトル梅田 他全国順次公開 |
~戦争の悲惨な現実を超えて,生きていく~
戦争では色んなものが失われる。米国軍兵士ウィルは,2003年に始まったイラクの自由作戦(イラク戦争)で負傷して帰国した。彼は,ストーン大尉の下で,戦死者の遺族に第一報を伝える新たな任務を命じられる。遺族は,イラクに従軍した夫や息子,娘を失ったという現実に直面し,様々な反応を見せる。その過程で,ウィル自身の過酷な体験やその精神面への打撃も明らかにされる。生還した兵士もまた生きることの意味を見失っていた。
マーティンは,息子の訃報を受けたとき,ウィルらに唾を吐きかけ,「お前はなぜ生きている」と罵声を浴びせる。オリビアは,夫の訃報を割と冷静に受け止めるが,それには理由があったと後で分かる。私が恋しかったのは昔の彼であり,その彼は私の中では既に死んでいた,とウィルに吐露する。夫は,戦場で変わってしまい,怒りと恐怖の匂いが染み,妻子に辛く当たったと言う。サマンサ・モートンが演じるオリビアには説得力がある。
ウィルは,オリビアに惹かれ,任務を超えて彼女と親しく接することで,戦場で負った心の傷が癒されていく。彼は,戦場で仲間を死なせたと自分を責め続けていた。その体験をストーンに語るとき,回想シーンが挿入されることはなく,ただカメラは2人の姿を映し続ける。それを観る者の脳裡には戦闘シーンが浮かんできて,ウィルの苦悩を追体験させられる。動きのない中で戦場の過酷な状況を表現するという,難度の高さをクリアした。
訃報を告知するという過酷な任務を描きながら,エンディングに悲壮感はなく,かえって清々しさが後に残った。マーティンが再びウィルとストーンの前に現れて「どうか許して欲しい」と言う。スティーヴ・ブシェーミが憎めない人物像を造形してなかなかいい味を出している。また,転居するオリビアとそれを見送るウィルは,別れではなく,新たな旅立ちのイメージを見せてくれる。そのため,穏やかで希望が感じられる幕切れとなった。
(河田 充規)