原題 | La terre outragee |
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制作年・国 | 2011年 フランス,ウクライナ,ポーランド,ドイツ |
上映時間 | 1時間48分 |
監督 | ミハル・ボガニム |
出演 | オルガ・キュリレンコ,アンジェイ・ヒラ,イリヤ・イオシフォフ,セルゲイ・ストレルニコフ,ヴャチェスラフ・スランコ,ニコラ・ヴァンズィッキ,ニキータ・エムシャノフ,タチアナ・ラッスカゾファ |
公開日、上映劇場 | 2013年2月9日(土)~シネスイッチ銀座、2月中旬~梅田ガーデンシネマ、3月~京都シネマ にて公開 |
~心の拠り所を奪われた深い哀しみが残る~
1986年4月26日,ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所の原子炉で爆発事故が発生した。監督は,近くの町プリピャチに住む人々や共生する自然の事故前後の様子を描いた後,そのときそこにいた3人の10年後の姿を追っていく。人間の脆さが焙り出され,“故郷”に象徴される心の拠り所を失った人々の姿が痛々しい。被災という枠を超え,予測しなかった事態に遭遇して急に眼前から将来が消えた人たちの心象を映し出した。
ヴァレリーは,事故前日,父アレクセイと一緒にりんごの木を植えた。アーニャは,事故当日,ピョートルと結婚式を挙げ,「百万本のバラ」を歌っていた。その様子をロングショットで映したカメラが,水上に浮いた魚や鳥,枯れた草木をアップで映す。前日に植えられたりんごの木も枯れている。死の影が歓喜に包まれた人々に忍び寄ってくる不気味さが視覚化される。詩情にあふれていた自然や日常の風景が音を立てて崩れていくようだ。
10年後,開業前の事故で誰も乗せられなかった観覧車は,廃墟のような町のランドマークになっていた。原発技師だったアレクセイは,既に存在しない,プリピャチ駅に停まる列車を求めて歩き回っている。事故を知りながら守秘義務のため町の人々に傘を渡すことしかできなかった,その無力感に耐えきれなかったのだろう。ヴァレリーは,母に連れられ墓参りのためプリピャチに戻ってきたが,実は父が生きていると信じ再会を願っていた。
アーニャは,故郷を離れられず,ツアーのガイドをしていた。まるで記憶を風化させまいとするかのようにバスの乗客に町の説明をしている。パトリックからパリで暮らそうと言われても,容易に応じられない。他の2人とは互いに意識しないまま擦れ違うだけで,3人の物語が重なり合うことはない。だが,彼らに共通する深い哀しみが迫ってくる。人生の途中で心の支えを突然奪われても,痛みを抱えながら長い旅路を歩まないといけない。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://kokyouyo.ayapro.ne.jp/
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