～ほのぼの描く“独女世代のリアル”～

　柴咲コウ、真木よう子、寺島しのぶと、どちらかといえばしっかり者のイメージが強い主演級女優たちが、３０代独女のあまりパッとしない日常を演じるというギャップにまずは驚かされるだろう。しかし、独女たちが日々悩み、傷つき、考えていることを優しく浮かび上がらせる益田ミリの『すーちゃん』シリーズの世界観を見事に作り出し、共感の渦に巻き込んでいくのだ。癒される音楽や、ナチュラルファッション満載でリアルなのに心地よい「静かな応援歌」のように柔らかく心に響く。

　カフェ店員のすーちゃん（柴咲コウ）、バリバリＯＬで不倫中のまいちゃん（真木よう子）、実家暮らしで母と祖母の介護をしているフリーランスのさわ子さん（寺島しのぶ）の日々を丹念に綴りながら、ブラックユーモアに富む心の声がさらりと聞こえてくる。仕事にあぶれているわけでもなく、特別不幸せでもないが、将来一人で生きていくかもしれないという不安を漠然と抱えている三人。結婚を夢見ながらも、譲れないことがあったり、４０代を目前に周りが無意識に口にする「結婚」という言葉にプレッシャーを感じる姿は３０代ならではの葛藤を映し出す。

　恋愛力が落ちてしまったすーちゃんの不器用な恋の相手で登場する井浦新が、女心をくすぐる天然男を好演。すーちゃんが働くカフェのアルバイト男子（染谷将太）の頑張って年上すーちゃんにアピールしている姿もいじらしい。主人公たちの恋はなかなかうまくいかないが、観ているこちら側は確実にこの2人に癒されている。一方、不倫を解消し、結婚、妊娠と順調な人生を歩み出したまいちゃんが呟く言葉、「もう一人では何も決められない」は、結婚への幻想を打ち砕く“リアル”だ。店長を任されることになったすーちゃんや、実家で親と祖母の面倒を見るため自由な一人暮らしができないさわ子さんなど、仕事や介護が人生の大きな部分を占めていく様子も共感度大だろう。

　些細なことに傷ついたり幸せを感じる日常も、全て未来に繋がっている。先の不安に苛まれるよりも、目の前にある幸せに気付かせてくれる優しさが溢れる作品。未婚、既婚に関わらず、今自分のいる場所で大事なものを見つけることができるかが、人生を豊かにする鍵なのだ。
　　　　　　　　　　　　　　　                                                       　（江口由美）

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© 2012 映画「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」