映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『君と歩く世界』

 
       

kimitoaruku-500.jpg

       
作品データ
原題 De rouille et d'os
制作年・国 2012年 フランス,ベルギー 
上映時間 2時間02分 R15+
監督 監督・脚本:ジャック・オディアール
出演 マリオン・コティヤール,マティアス・スーナーツ
公開日、上映劇場 2013年4月6日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他

 

~体内に活力がみなぎり,生命を謳歌する~

 

 アリは,5歳の息子サムを母親から引き離し,金も持たずに姉アナの処に転がり込んできた。ボクシング6年,ムエタイ2年の経験を活かしてナイトクラブの用心棒の仕事に就く。そこでは,ステファニーが美脚を見せつけ,男たちを誘惑してその気にさせていた。男と争いになったステファニーをアリが助けたことで,2人は顔を合わせる。それだけの関係に終わったかも知れない2人を,ステファニーの身に起きた不幸な事故が結び付ける。

 彼女は,シャチの調教師だったが,マリンランドのショーで事故に遭い両脚を失う。水上の楽しさとは裏腹の水中の不気味な静けさは,彼女の心の空洞だったのかも知れない。病室のベッド上に横たえられた彼女を取り囲んでいるのは,無機的な冷たさと仄暗い寂しさだった。自らの変化に驚がくし放心する彼女の姿には,鬼気迫るものがある。彼女の事故を知りながら,アリは電話で「元気か」と声を掛ける。その無骨さが何とも微笑ましい。

 絶望の淵に落ちた女性が生きる希望を見出していく再生の物語などという,陳腐な文章を吹き飛ばすパワーに溢れた映画だ。ステファニーがアリに誘われて事故後初めて海で泳いだとき,海面に反射する陽の光が躍動する生き物のように輝いていた。彼女の中で生きる歓びが広がる様子が見える。一方,アリは「戦うことが楽しいから」という理由で賭けボクシングに挑む。戦うアリを見詰めるステファニーの目には生きるパワーが映っていた。

 彼女は,やがて義足を装着して一本杖で歩き始め,義足を隠さずナイトクラブへ乗り込む。虚飾を脱ぎ捨て,見られるのが快感だという空虚な日々と決別する。一方,アリは彼女のお陰で荒んだ心に優しさを取り戻した。だが,アナが解雇され,責任を感じたアリがサムを置いて姿を消す。理屈を考えて落ち込んでも何も始まらない。感覚を信じて勝負することで活路が開ける。アリを通じて生きる意義を確信したステファニーの笑顔が眩しい。

(河田 充規)

公式サイト⇒ http://www.kimito-aruku-sekai.com/
(c) Why Not Productions ‐ Page 114 ‐ France 2 Cinema ‐ Les Films du Fleuve ‐ Lunanime

カテゴリ

月別 アーカイブ