～欠点だらけの男が最後にみせる、ありったけの愛～

　恋人でも、夫婦でも、自分の思うように、期待どおりに、相手が動いてくれたら、そんな嬉しいことはない。好きになればなるほど、相手が身近な存在であればあるほど、つい期待してしまう。身勝手と頭ではわかっていても、思いだけが先走る。でも、自分の思いどおりに相手がふるまってくれることって、本当に幸せなことなのだろうか……。

　監督は、あの『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトン＆ヴァレリー・ファリス監督。『リトル～』でだめ息子を演じたポール・ダノが、本作では、恋に落ちた小説家の青年を演じる。切なくファンタジックなラブ・ストーリー。心の奥底に迫ってくる底力と、最後にふんわり着地するあたたかさは、前作と変わらない。欠点だらけの人間をみつめるまなざしが優しい。

　カルヴィンは、学生時代に小説家として華々しくデビューしたが、スランプで次作が書けないまま。恋人には５年前に捨てられ、友達もいない。夢の中に何度も現れた理想の女性を「ルビー・スパークス」と名づけ、彼女の小説を書き始める。ある朝起きると、小説の中のルビーが、本物の生きた女性として、家の中にいるのを見つけ、驚く。でも、幻ではない。不思議なことに、ルビーは、カルヴィンが書いた小説のとおりにふるまうことがわかってくる。パーティで他の男性作家と親密になったルビーを見て、嫉妬で怒り狂ったカルヴィンがとった行動は…。

　恋人が自分の思うとおりにふるまうことが、どんなに悲しく、つまらないことか、映画は教えてくれる。人が、自分の期待どおりに動いてくれることなんて、滅多にない。何度もぶつかって、試行錯誤しながら歩んでいくからこそ、人生はおもしろいし、それが恋人であり、夫婦であり、友達であり、人間というもの。カルヴィンも、一度はそのことに気付きながらも、寛容になれず、ルビーを致命的なまでに傷つけてしまう。神経質で、情緒不安で、欠点だらけのだめ男。ルビーを愛するあまり、自分の思いどおりにしばりつけようとしていた彼が、最後、涙をこらえて、より深い愛と勇気をふりしぼって、彼女を解き放つ……。そのなけなしの愛が、深い感動を呼ぶ。

　カルヴィンは、ある意味、私自身だった。スクリーンの中の彼を見つめながら、私は自分の愚かさを痛感してただ泣くしかなかった。心のもやもやに、鋭い剛速球を、ファンタジーという真綿にくるんで、懐深く投げ込んできた快作。ぜひご覧ください。

（伊藤　久美子）

公式サイト⇒　http://rubysparksjp.tumblr.com/

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