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『駆ける少年』

 
       

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作品データ
制作年・国 1985年 イラン 
上映時間 1時間31分
監督 監督・脚本 アミール・ナデリ
出演 マジッド・ニルマンド、ムサ・トルキザデエ、アッバス・ナゼリ
公開日、上映劇場 2013年2月2日(土)~シネマート心斎橋 にて公開 

 

~少年のエネルギーあふれる姿が心に刻印される~

 

 少年の怒涛のようなエネルギーが画面からはじけ出る。勝気で負けず嫌い。走るのが大好きで、誰よりも早く、ただひたすら一番を駆け抜けたい。細い手足で大地を駆ける少年の姿が心に深く刻みこまれた。

kakeru-2.jpg 親も兄弟もいない11歳の少年アミルは、ゴミや空き瓶を拾ったり、労働者に冷たい水を売ったり、水兵相手の靴磨きをして生活費を稼ぎ、廃船で生活している。ひとりぼっちだが、友達はたくさんいる。アミルと同じく親のない子どもばかり。時に、サッカーをしたり、列車を追いかけての駆けっこに夢中になる。

 少年は傷つきやすく、誇り高い。靴磨きをした水兵に、ライターを盗んだと犯人扱いされ、怒りをあらわにし、小さな身体でぶつかっていく。売り物の水を飲んで、金を払わず逃げていく自転車の大人を、とことん追いかける。卑怯なことは許せない。自分の思いに、あまりにまっすぐな少年。1本でも多くの瓶を集めてお金を稼ごうと、小さな身体で踏ん張る。生きていくため、食べ物を手に入れるため、必死になる姿が痛々しい。

 「ほかの子どもはペルシャ語を読めるのに」という露店で雑誌を売る青年の一言が、少年のプライドを深く傷つけ、少年の心に火をつける。文字を覚えたい…。夜間の学校に通い、一から文字を覚えようとするエネルギーは半端じゃない。海に向かって、習いたての言葉を大声で叫び、繰り返す。言葉を身体にたたきこんで、覚えていく。激しく岩を打つ波しぶきの勢いは、少年が言葉を学びたいという欲求の激しさそのままだ。日本の恵まれた環境にある子ども達とは、およそエネルギーの桁が違う。

 少年は、好きなものを見つめる時、子どもらしい、無邪気で屈託のない笑顔を取り戻し、白い歯を見せて笑う。大好きな飛行機、汽船を見ては、思い切り大きな声を張り上げて、叫ぶ。高く飛びたい、遠くへ行きたいという願いが空高く響く。

kakeru-3.jpg 圧巻はクライマックスの駆けっこ。天然ガスが燃えさかる砂漠を、少年たちの競争が始まる。遠くに置かれた、氷の塊を目指して、一斉に走り出す。互いに押しあったり、足をひっかけたり、ぶつかったりしながら、氷が熱さで溶けてしまう前に、一番に手にしようと、懸命に走る。カメラは、勢いよく燃え盛る炎の音の中、スローモーションで彼らの姿をとらえる。そうして一位の者が手にした氷を、次々と、順に走りついた者に手渡し、冷たさを共有し、狂喜する少年たち。ただがむしゃらに生きるエネルギーが、燃え上がる炎となり、スクリーンに結晶する。むきだしの生のエネルギーに圧倒される。

 イランのアミール・ナデリ監督の初期の作品。監督は幼い頃両親を失い、叔母夫婦に引き取られ、正式な教育は12歳までしか受けていない。本作は、監督自身の体験を濃密に反映している。幼い頃、映画館でコーラを売るバイトをして、映画監督になろうと決意し、その夢を諦めることなく、まっすぐに追い求めた監督の姿は、そのまま、映画の中の少年が走り続ける姿に重なる。たったひとりで生きるため、目標に向かって走り続ける少年のたくましさをスクリーンの中に見つけ、心に刻み付けてほしい。

(伊藤 久美子)

公式サイト⇒http://runner-movie.jimdo.com/ 
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