制作年・国 | 2012年 日本 |
---|---|
上映時間 | 2時間 |
原作 | 久保寺健彦 |
監督 | 共同脚本・監督:中村義洋 |
出演 | 濱田岳、倉科カナ、永山絢斗、波瑠、ナオミ・オルテガ、田中圭、ベンガル、大塚寧々 |
公開日、上映劇場 | 2013年1月26日(土)~テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、2月16日(土)~京都シネマ、 他全国順次公開 |
~飛び出せ悟くん! 世界は君を待っている~
高度経済成長期、各地に作られた大型団地。学校も病院もショッピングセンターもあり、“独立した街”として快適に機能していた。そんな団地で生まれ育った12歳の少年が、ある理由から「僕は一生、団地の中だけで生きていく!」と断言し、学校へも行かず、就職も結婚もすべて団地の中だけで済まそうとする。同級生も少しずつ引っ越していき、団地も変容していく中、少年も大人へと成長する。ちょっと変わった青春ドラマだが、12歳から30歳までを違和感なく演じた濱田岳の純朴さに魅了されながら、こよなく愛する団地のためひたむきに生きようとする姿に、エールを送ると同時に勇気付けられる思いがした。
悟くんは決して引きこもりではない。看護師をしている母親と二人暮らしの悟くん。毎朝5時に起きて寒風摩擦、ランニング、朝食、ラジオの教育番組でお勉強、さらにスローガンを設けて日々努力するという、実に規則正しい生活を送っている。特に、大山倍達に憧れ、極真会空手の鍛錬に励む姿は、団地を守ろうとする悟くんの本気度が分かる。就職は小さい時から行きつけのケーキ屋さんでと勝手に決めて、初キッスも初エッチも団地の中、婚約までしちゃう。
悟くんは決して孤独ではない。“オカマラス”といじめられ、同じく学校へ行かなくなった薗田くん(永山絢斗)と友達になり、一緒に夜の団地をパトロールするようになる。また、鍛錬の成果を悪友たちに見込まれ、他校とのタイマンに駆り出される。しかも、場所はいつも団地内のグラウンド。みんなの役に立ち喜ぶ悟くん。でも、みんな外の世界に飛び出していき、取り残される悟くん。その内、団地はお年寄りと外国人が目立つようになり、ある日、サッカーの上手なブラジル人の少女と出会う。彼女はある大きな問題を抱えていて、悟くんの力がまた発揮されることとなる。
悟くんは決して英雄ではない。西部劇のヒーローのようにクールに登場して悪い奴らをやっつける訳ではないが、終盤の悟くんの決闘シーンもかなりそれに近いクールさがある。一番の見どころと言ってもいいだろう。さらに、映画は、その時々に同級生の数を大きく映し出す。その数の変化は団地の変容を示し、悟くんの環境の変化を効果的に表していた。どんなことがあっても団地の中で生き抜こうとした悟くんにも、その殻を破る時が突然やってくる。
人生、一度は大きな壁を乗り越えなければならない時がやってくる。それまでの殻を破って成長できる機会が、必ず訪れるはずだ。悟くんの生き方は特殊かもしれないが、誰よりも積極的に自助努力をしている。体を鍛え、友達を大事にし、他の人のために尽力する日々を送っていた。ラストシーンで、団地から俯瞰で捉えた街が映し出される。遠くに分譲一戸建住宅の集合が見えてくる。狭い領域で生きているのは別に団地の人間だけではない。いつの間にか自分の環境に慣れてしまい、大きな視野を失っているような気がする。それまで悟くんが大きく両手を振って友達を見送ってきたように、悟くんの行く末を大きく手を振って見送りたくなるような、切なくも爽やかなラストだった。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://minasan-movie.com/
(C)2012「みなさん、さようなら」製作委員会