制作年・国 | 2012年 日本 |
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上映時間 | 1時間20分 |
監督 | 阿武野勝彦、片本武志 |
出演 | ナレーション:宮本信子 |
公開日、上映劇場 | 第七藝術劇場にて公開。2013年1月26日(土)~2月1日(金)12:50~、2月2日(土)~2月8日(金)10:00~ |
~長良川河口堰問題に見える日本の政治不毛~
東海テレビのドキュメンタリー映画第4弾は東海地方を流れる長良川河口堰にメスを入れた問題作。「農地が必要」と干潟を埋め立てながら放置し、「水が必要」だと川を堰止めておきながら、後で「堰など不要だった」とコロコロ態度を変える政治。経済発展か環境保護か、川とともに生きる漁師不在のまま、ブレる行政の在り方には、今、国家が抱える原発問題にも通じる政治不毛が見える。
2011年「平成ジレンマ」で戸塚ヨットスクール、「青空どろぼう」で四日市公害問題、そして昨年の「死刑弁護人」と、常に社会問題を鋭く追及する東海テレビの第4弾は長良川河口堰問題。なじみの言葉「その手は桑名の焼き蛤」とストレートに主張する。共同監督も務めた阿武野勝彦プロデューサーは「長良川は岐阜、三重、愛知を通り、岐阜が一番長い。私は岐阜支局にいたことがあって、当時は事件ばかり追い掛けていたが、あれから16年経って、河口堰取材してみたらどうか、と発想した」。このアイデアに北京支局から帰ってきたばかりの若い片本武志監督が賛同して1本の意欲作が出来上がった。
河口から5・4キロ、海と川を遮断する全長661メートルの長良川河口堰構想が持ち上がったのは高度経済成長時代。漁業関係者たちは当然、激しく反対したが、1981年までに上流の漁協が次々に同意、補償交渉も決着していく中、最後まで反対し続けたのが赤須賀漁協の組合長・秋田清音(すずね)さんだった。この映画の主役はこの秋田さん。片本監督は「最初は何の思い入れもなかった。1~2カ月、どういう切り口で何を取材するか、どこを掘るか、考えた。10か所以上漁協があるし、みんな考え方が違う。秋田組合長と会って考え方を聞いて、この人を取材対象にしようと決めた」という。
秋田さんは「最初はウェルカムではなかった」そうで、威圧感もハンパじゃなく、取材中「メモ取るんじゃねえ」と怒られたこともあった。赤須賀漁協=秋田さんだけが最後まで反対し続け、当時は「エゴが発展を阻害している」「補償金つり上げ」と批判されながらの孤独な戦いは7年にも及んだ。秋田さんとの会話をさりげなく撮って見せる映像、その“信念の人”ぶりは、時に近年のクリント・イーストウッド作品を思わせもする。
片本監督は「このテーマは(東日本)大震災前からあった。ずっと我々はこういう状況にあった。“青空どろぼう”もそう。川をどんどん遠ざけて来たのが日本人の歴史。この映画は押し付けがましくない分、いろんなものが見えてくる」と自負する。
阿武野監督は「ニュースはその日起こったことを流すので画一的なものになりがち。ドキュメンタリーは時間軸を変えて多角的に見てみるという作業になる。この映画も40分テープ200本分の長い蓄積をまとめといて、多様な視点を皆さんに開示したい。自然と人間という大きくて普遍的なテーマが浮かび上がってくる」。 意欲的な同局のドキュメンタリーも本来はテレビ放送用。テレビだと47分だが「もっと多くの人に見てもらいたい」ものは90分余の映画にし、大阪、東京などの都市を中心とした「単館系」チェーンを結ぶネットワークにかける。「平成ジレンマ」の20館が「死刑弁護人」では32館にまで増えたという。
ドキュメンタリストとして目覚めたテレビマンの熱意が、映画館の大スクリーンで実を結びつつある。次回作第5弾は名張毒ブドウ酒事件の“冤罪裁判”を追及する「約束」ですでに出来上がっている。東海テレビのホットなドキュメンタリーから目が離せない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://nagaragawadokonjo.jp/
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