原題 | LIFE OF PI |
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制作年・国 | 2012年 アメリカ |
上映時間 | 2時間7分 |
原作 | ヤン・マーテル著『パイの物語上・下』竹書房文庫刊 |
監督 | アン・リー |
出演 | スライ・シャルマ 、イルファン・カーン、ジェラール・ドパルデュー |
公開日、上映劇場 | 2013年1月25日(金)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、T・ジョイ京都他全国拡大ロードショー |
受賞歴 | 第85回アカデミー作品賞、監督賞、脚色賞他主要11部門ノミネート |
~究極の映像美で綴る、愛と勇気のサバイバル漂流記~
荒れ狂う波にのまれ、家族を失った少年が広大な海上でこともあろうに狂暴なベンガルトラと残されてしまうなんて、その時点で生きる望みを諦めてしまいそうな過酷な状況だが、そこから語られる物語に興味を示さずにはおれないだろう。メガホンを撮るのは、『グリーン・デスティニー』や『ブロークバック・マウンテン』など美しい情景の中で登場人物の心のひだを丁寧に描写するアン・リー。劇中でも動と静のメリハリをつけながら、自然の脅威に逆らうことのできない人間の限界と、それでも希望を捨てず生き続ける逞しさを圧倒的な映像美で提示する。
オープニングから主人公パイの両親が経営していた動物園の動物たちの色鮮やかさやシタールなど民族打楽器を用いたBGMに心奪われ、一瞬にして異国の世界へ飛び込んでいく。フランス文化の影響を受けたインド・ポンディシェリの光景は、日頃目にするインドの姿とはまた違った情緒があり、パイの心の支えとなる家族や動物たちとの幸せな日々がまぶしい。パイが後にボートで一緒になるベンガルトラのリチャード・パーカーと初めて対面したのもこの子ども時代だが、父親はいかに獰猛な動物であるかを教え、以来パイが近づくことのない存在だった。
一家と動物園の動物たちを乗せた貨物船が波にのまれる自然の猛威や、命からがら逃げ延びた救命ボートに潜んでいたリチャード・パーカーが飛び出す衝撃が、3Dならではの迫力で押しよせ、まさに遭難を疑似体験している気分だ。いかにリチャード・パーカーに襲われることなく生き延びていくか。助かる希望を捨てず、広大な海上を漂うちっぽけな人間でも、思考することを止めずに緊張感のある日々を過ごす。サバイバルな状況を冷静に捉える神や自分との真摯な対話は、人間らしく生きる普遍的な営みに通じる。青年パイがリチャード・パーカーと格闘する様子をビビッドに捉える一方、トビウオの大群が飛び交い、深海のクラゲや大クジラの姿が夜の海を照らす絵画のように美しい光景がスクリーンに広がり、アン・リーならではの豊かな映像表現に心酔させられる。
奇跡の物語の後には、もう一つの物語が語られ、「どちらを信じるのか」と現在のパイは問いかける。それはアン・リーから観客への投げかけのようにも映るのだ。黄金色に染まった海上でリチャード・パーカーとパイが静かに向き合う美しいシーンを想起しながら、「君がいたから乗り越えられた」と語ったパイの言葉に、決して味方とは言えなかった他者を尊重する真の愛情が滲んでいた。(江口 由美)
公式サイト⇒http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/
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