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『愛について、ある土曜日の面会室』

 
       

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作品データ
原題 Qu’un seul tienne et les autres suivront
制作年・国 2009年 フランス 
上映時間 2時間
監督 監督・脚本:レナ・フェネール
出演 ファリダ・ラウアッジ、レダ・カテブ、ポーリン・エチエンヌ、マルク・バルベ、デルフィーヌ・シュイヨー
公開日、上映劇場 2013年1月12日(土)~梅田ガーデンシネマ、2月9日~神戸アートビレッジセンター、2月16日~京都シネマ にて公開

 

~それぞれの愛のかたち、現実に向き合う勇気~
 

ainituite-2.jpg 刑務所……そこは、世間と隔てられた世界。恋人や家族たちが、面会に訪れ、愛を語り、励まし、ときに喧嘩したり、思いがすれ違うこともある場所。レア監督は、登場人物の心情を繊細にすくい取り、3つの愛をめぐる物語を描く。

 サッカーをするのが大好きな16歳の少女ロールは、ちょっと風変わりな少年アレクサンドルと出会い、恋に落ちる。反抗心旺盛なアレクサンドルは、警官に暴行して刑務所に入れられてしまう。未成年のため、一人で刑務所に面会にいくことができないロールは、偶然知り合った、病院で働く青年アントワンに保護者役を頼み、二人で刑務所を訪れる……。
 

ainituite-3.jpg アルジェリアに住むゾラのもとに、フランスで暮らしていた息子の遺体が帰ってくる。ゾラは、息子が殺された真相を突き止めたくて、一人フランスに渡り、息子を殺した青年の姉セリーヌに偶然を装って近づき、子守として働くようになる……。
 

 金に困り、恋人ともうまくいかないステファン。刑務所に入っている瓜二つの男と入れ替わってほしいという奇妙な依頼を受ける。仕事も失い、恋人も出て行って、八方ふさがりの中、ステファンは多額の報酬にひかれて依頼を引き受けるが、踏ん切りがつかずにいる……。

 それぞれの登場人物の苦悩が淡々と描かれる。悲しみがにじみでるような、抑えた演技に注目したい。とりわけ、セリーヌとゾラのエピソードがいい。おとなしかった弟が殺人を犯すとは信じられず、弟の悩みに気付けなかった自分を責めては、涙を流してばかりいるセリーヌ。ゾラの優しい慰めに、セリーヌは少しずつ思いを打ち明けるようになる。セリーヌの人を信じる温かい気持ちが静かに伝わってきて、感慨深い。ロールを演じるポーリン・エチエンヌもこれからが期待できる役者だ。恋する嬉しさと楽しさに輝くあどけない表情や、妊娠を知って戸惑い、思い悩む表情と、どちらも素直でまっすぐですばらしい。

 クライマックスの土曜日、3人はそれぞれ刑務所の広い面会室に入っていく。ドラマは交錯するわけではないが、どの人物も、これからどう生きていけばいいのか、自分自身の気付かなかった思い、感情に向き合うことになる。映画は最後まで描かない。その後、ゾラがどう生きていくのか、ロールがどんな選択をするのかはわからない。でも、爽やかにアントワンに挨拶をして去っていくロールの後ろ姿からは、今までの重苦しい表情と打って変ってどこかすっきりとして希望が感じられたし、ゾラの涙を浮かべた表情からは限りない愛を感じた。
 
ainituite-4.jpg 原題は「ひとりが持ちこたえよ。そうすれば後に続くものが出るだろう」。状況がどれだけ深刻で、自分を思い悩ませ、追い込むものであったとしても、現実に向き合う勇気を持つこと。それだけで、本人だけでなく、まわりの人たち、たとえばセリーヌの弟も、アントワンも、ステファンの恋人もまた、その影響を受けて、少しずつ何かが変わっていくにちがいない。変わるきっかけをみつけたという微かな予感が伝わる。レア監督は、人と人との関わりをさらりと描きながらも、そのさりげなさ、淡々とした味わいの中から、一人ひとりの優しさ、慈しみ、勇気が力強く浮かび上がり、深い余韻をもたらす。

(伊藤 久美子)

公式サイト⇒http://www.bitters.co.jp/ainituite/

© Rezo Productions

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