原題 | Barbara |
---|---|
制作年・国 | 2012年 ドイツ |
上映時間 | 1時間45分 |
監督 | 監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト |
出演 | ニーナ・ホス,ロナルト・ツェアフェルト,ライナー・ボック,ヤスナ・フリッツィー・バウアー |
公開日、上映劇場 | 2013年1月19日(土)~Bunkamuraル・シネマ、2月9日(土)~テアトル梅田、2月16日(土)~シネ・リーブル神戸、順次~京都シネマ ほか全国順次公開 |
~ヒロインの美しい究極の選択に息を呑む~
東ベルリンから来た女バルバラの人生最大の選択が描かれる。彼女は,東ドイツの地方の病院に赴任してきた医師だ。ギターの哀切な音色が流れ,バスから窓外を見ている女性が映される。その視線は,景色ではなく,もっと遠くを見ているようだ。バスが止まり,他の人たちの後から彼女も下りて来る。2階の窓から見下ろすアンドレの視線で,その姿が捉えられる。その口から「彼女か?」という言葉が出たとき,監視という言葉が浮かぶ。
中程でラジオ放送からソ連の陸上選手タチアナ・カザンキナの名前が流れてきて,そんな時代の話だと分かる。バルバラは,数時間でも行方不明になると,シュタージ(国家保安省)の職員に居室を捜索され身体検査まで受けさせられる。その屈辱にじっと耐えながら,監視下に置かれ猜疑の中で生きなければならない国から脱出できる日を待っていた。ごうごうと吠える風が静まることのない世界で,人間らしく毅然とした姿勢を保っていた。
バルバラの日常を支えていたのは,患者を守るという医師としての信念であることが,次第に明らかになる。ステラは,矯正収容施設から逃走中に髄膜炎を発症したが,バルバラに励まされ,アンドレの血清に救われる。だが,抑圧の国から逃げたいとの願いも虚しく,人民警察に連行されてしまう。もう一人の患者マリオの開頭手術が予定されていたとき,ステラが再びバルバラの前に現れて助けを求める。バルバラの決行の時も迫っていた。
彼女が下した決断は,2人の患者だけではなく自分自身をも救うという,崇高とさえ言えるものだった。しかも,その選択がごく自然で合理的なものに感じられる。彼女に最も大きな影響を及ぼしたのがアンドレだった。自分が住む社会の価値観と妥協しながらも医師として誠実に生きるアンドレの存在感が大きい。別の世界での新しい人生を求めることだけでなく,今いる世界で人間としての誇りを持って生きることも,選択肢の1つである。(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.barbara.jp/
© SCHRAMM FILM / ZDF / ARTE 2012