～釣り人スピリッツは国境を超える！？奇想天外プロジェクトが運ぶ夢～

　嘘のようなタイトルだが、いたって本気なのが笑える！砂漠で鮭釣りをするプロジェクト実現に向けて右往左往する様子をユーモラスに描きながら、自分の夢を見つけていく大人の寓話。『スラムドッグ$ミリオネア』のサイモン・ボーフォイが脚本、『ギルバート・グレイプ』のラッセ・ハルストレムが監督を務め、真実味のあるキャラクター描写で夢のようなプロジェクトへぐいぐい引き込んでいく。

　真面目な水産学者ジョーンズ博士（ユアン・マクレガー）は、イエメンの大富豪から、「イエメンで鮭釣りをしたい」と代理人ハリエット（エミリー・ブラント）を通じて依頼を受けたが、バカバカしくて取り合う気にもなれない。しかし、緊迫している中東情勢から世間の目をそむけるため、明るいニュースを探していた首相広報官マクスウェル（クリスティン・スコット・トーマス）の目に留まり、遂行必須の国家プロジェクトとして始動することとなる。

　「イエメンで鮭釣り」プロジェクトに巻き込まれる主人公を演じるのは、”運命に翻弄されていく普通の人”を演じたら右に出る者はなし！のユアン・マクレガー。冷めた夫婦関係もやりすごし仕事と釣りだけに生きがいを感じていた男が、大きな夢を持つシャイフや無茶ぶりも意に介せずプロジェクトに邁進するハリエットに出会い、止まっていた人生が動き出す様子を自然に演じている。戦地で恋人が行方不明になったハリエットとの恋や、純粋に釣りを愛する依頼主シャイフとの友情など、ジョーンズを取り巻く人間関係を、ラッセ・ハルストレム監督らしい温かな描写で魅せる。一方、クリスティン・スコット・トーマス演じるマクスウェルが、首相広報官らしい露骨な世論扇動手法で笑わせるブラックユーモアも随所に挿入され、政治利用された名ばかりの国家プロジェクトの行方は最後まで煙に巻かれるのだ。

　幾多の苦難を乗り越えた末に目にする奇跡は、現実ではありえないけれど、スクリーンで映し出された時にいいようのない感動が胸に迫る。バカバカしい話に振り回されているつもりが、いつの間にか一緒になって夢を追いかけているジョーンズのように、観客をもマジックにかけてしまうラッセ・ハルストレム監督の意欲作。政治の思惑や、国家を超えて、人が気持ちを一つにすることや、信じる心が人生を切り開くことを”釣り”という題材で表現したサイモン・ボーフォイの脚本も光った。（江口由美）

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