原題 | Trouble with The Curve |
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制作年・国 | 2012年 アメリカ |
上映時間 | 1時間51分 |
監督 | ロバート・ロレンツ |
出演 | クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョン・グッドマン、ロバート・パトリック、マシュー・リラード |
公開日、上映劇場 | 2012年11月23日(金・祝)~丸の内ピカデリー 他全国ロードショー |
~野球が結ぶ仕事一途の父と娘、絆の再生~
年老いたプロ野球スカウト、ガス(クリント・イーストウッド)が見せた人生の“最終章”にはしみじみ感じ入った。男の仕事は有望新人を探してあちこちを渡り歩く。彼らはドラフトの日に1年の成果が問われるし、発掘した選手が期待通り育つかどうかまで気に掛けていたら休まる時がない。「人生の特等席」はそんな大変な仕事に人生を捧げた男の映画。妻を早くに亡くし娘にもかまってやれなかった、仕事一筋の男には孤独な悲壮感が漂う。
スカウトの命である視力が衰えてきたガスは、引退まであと3か月で最後のドラフトに臨む。弁護士事務所で将来を嘱望される娘ミッキー(エイミー・アダムス)は父とまともに話したこともないのに、父の友人から「目が良くない」と聞かされ、自分の仕事を置いて父の仕事場に駆け付ける。「何しに来た」といつものようにそっけない父に腹をたてながらも、幼いころに見覚えた野球の魅力にいつしかハマっていく…。
仕事一途にやってきたガスが目が悪いために球場の階段を落ちかけるシーンが無残だ。アカデミー賞5部門の西部劇「許されざる者」(92年)で、老カウボーイ(クリント)が馬から落ちかける姿をほうふつさせる。仕事と老い、男は年を取ったことを認めようとせず、いつまでも自らの仕事に忠実であろうとする、そんな哀れなまでの「男の矜持」が胸を打つ。映画はクリント映画のプロデューサーを長年務めてきたロバート・ロレンツの監督デビュー作。それだけに、映画は枯淡の味わいを深めるクリント監督作とは違って、単純明快に父と娘の絆の再生を描く。
アトランタ・ブレーブスのスカウト・ガスの“プロの目”が主題。彼は地元チーム、グリズリースの有望選手ボー・ジェントリーの力量、才能のチェックに赴く。アスレチックスなどライバル球団も狙う大物が本物かどうか、そこにはガスがスカウトしてプロ入りさせながら肩を壊してスカウト業に転職した“火の玉”ジョニー(ジャスティン・ティンバーレイク)もいて最後の仕事も楽ではない。娘はそんな父親の手助けをしようと隣の席に陣取って協力する。そこは、彼女が幼いころから父親に連れられて野球にのめり込んだ“人生の特等席”だった。
山田洋次監督が小津安二郎監督の名作をリメイクした「東京家族」は、今の生活に追われて家族の絆が希薄になってしまう“現状”を、悲哀を込めて描いた。ほぼ同年代のクリント(製作・主演)が国も事情も違うのに同じようなテーマを映画にしたことが驚きだ。山田洋次監督が情の薄い家族よりも次男の婚約者(蒼井優)の優しさに未来の希望を託したように、クリントも娘の理解を得ることで家族の絆を確認した。どこの国でも、どんな時代でも「家族に関する映画には関心があり強い」(山田洋次監督)ことを実感させた。
プロ野球記者時代、身近な存在だったスカウトだが、一度涙の抗議を受けたことが忘れられない。こちらは今はなき阪急(現オリックス)ブレーブスのベテランスカウトで、ジョニーのように鳴り物入りで入団しながらプロでは芽が出ず、彼の第2の人生を聞きこんで「ゴルファー転身」と記事にした。間違いではなかったが、当該スカウトには勝手に第2の人生を決めると見えた許しがたいものだったのだ。スカウトの選手発掘はそれほど責任の重いものだった。本作でも、ガスがジョニーのトレードに反対したというセリフがあり、世界共通のスカウト魂を感じさせた。
スカウトの世界は結果が出るのに最低1年はかかるが、そこは娯楽映画、素早く結果が明らかになるスピーディーな展開で分かりやすい。ガスはボー・ジェントリーが「カーブを打てない」と見抜き、1位指名をやめるよう球団に進言する。彼の最大の欠陥はスイングの時「手が泳ぐ」からで、それを娘が見極めたり、ガスが音で聴き分けたりするところがミソ。「手が泳ぐ」ことなど、相当の知恵者でないと見極め不能なのだが、そんな裏技級の決め手が野球映画の醍醐味であり、快感でもあることは確か。弁護士事務所の出世争いのくだらなさに気づいたミッキーが、ジョニーと新たな世界を見出す展開など、野球好きのアメリカ文化が国民に深く浸透していることを感じさせる、希望に満ちた父娘の野球映画ではあった。 (安永 五郎)
公式サイト⇒ http://wwws.warnerbros.co.jp/troublewiththecurve/
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