制作年・国 | 2012年 日本 |
---|---|
上映時間 | 2時間14分 |
監督 | 西谷弘 |
出演 | 草彅剛 安田成美 夏帆 風間俊介・黒木メイサ(友情出演) 堺正章(特別出演)・ 杉本哲太 宇崎竜童 香川照之 |
公開日、上映劇場 | 2012年11月17日(土)~全国東宝系ロードショー |
~“ハマった”任侠ヒーロー草彅剛~
“任侠の心”を持ったヒーローが、よもや国民的アイドルSMAPにいようとは、夢にも思わなかった。任侠なる言葉が流行ったのは60年代。全盛を誇った東映任侠映画は反抗の時代を背景にして学生たちに受けに受けた。鶴田浩二、高倉健に藤純子…。義理と人情に生き、折り目正しい生きざまは、まったく虚構の世界ではあったものの、ある種の理想だった。
だが1972年、マキノ雅弘監督「関東緋桜一家」を最後に藤純子(現富司純子)は結婚、引退。東映は任侠映画に代わって深作欣二監督、菅原文太主演「仁義なき戦い」(73年)をはじめとする実録路線に転じ、義理と人情の任侠映画は表舞台から姿を消した。
その後も何本か任侠映画は作られた。86年からの岩下志麻「極道の妻たち」シリーズはその名残り。「夢をもう一度」と92年に大森一樹監督、真田広之主演で「継承盃」、99年には任侠映画の産みの親・俊藤浩滋プロデューサーが復活をかけて関本郁夫監督、高島政宏主演で「残侠」を撮ったが、時代はすでに遠くかけ離れていた。映画人からよく聞いたのは「役者がおらん」という嘆きだった。
高倉健は今も健在だが、銀幕を飾った鶴田浩二も若山富三郎もすでに亡くなり、着流し姿で粋なタンカがサマになる男など“絶滅危惧種”になっていた…。
だから「任侠ヘルパー」の草彅剛には驚いた。あのアイドルSMAPの一員がハンパもんとはいえやくざを演じてそれがピタリとハマるなんて。公開中の「あなたへ」で高倉健と共演して「任侠魂」を譲り受けたようだった。草彅の本質はSMAPよりもこちらの方が近いのではないか。それほど堂に入ったやくざぶりだった。今は亡き俊藤さんも彼を見たら唐獅子牡丹を作ってもおかしくない。
「任侠ヘルパー」は今の時代に合わせて、任侠精神と介護問題=ヘルパーを結びつけたところが新味。草彅は指定暴力団「隼会」を抜け、堅気として生きる決意でコンビニ店員をする男・彦一。だが、ある時、年老いた強盗(堺正章)を撃退した時に防犯カメラに入れ墨が写ったことから逮捕されてしまう。この出だしだけではみ出し者でコワモテの雰囲気満点。ヨボヨボの強盗を哀れに感じて金をやってしまうあたり、任侠精神にもあふれている。
この元極道の老人と刑務所で会ったことから、出所後に「旭鵬会」組長(宇崎竜童)を訪ねていくのだが、そこはもちろんやくざ組織。彦一が与えられたシノギは、破産した老人介護施設「うみねこの家」だった…。ここから、従来のやくざ映画とは大きく異なる展開を見せる。家族からも見放された老人たちを施設に入れて生活保護や年金をせしめる“貧困ビジネス”。そこには元極道の娘・葉子(安田成美)も認知症の祖母を連れて来ていた。彦一はある時、汚れ放題、最悪の施設を見るに見かねて組に黙ったまま「うみねこの家」を立て直す…。
理由などはない。損得勘定も抜き。「義理と人情を秤に」かけもしないが、やむにやまれずやってしまう行為、これこそ、やくざ映画が大衆に受けた庶民の正義だった。彦一が意図した訳ではないのだが、老人たちがくつろげる老人の家になる。老人たちが求めているのは豪華な施設や環境ではなく、人々が心から喜びあえる人間関係にある、という正論でもある。
組はもちろん彦一を目の敵にし、有力市会議員(香川照之)もまた「観光福祉都市プロジェクト」で貧困ビジネス撲滅を目指す。議員のプロジェクト入札の日、彦一が取った行動はおよそ無鉄砲なものだったが…。
終始一貫、突っ張り続ける草彅が堂に入っている。やくざ言葉が似合うところはやたら肩肘張ったたけしの「アウトレイジ」より相当自然でもある。東映任侠映画とは違ってドスも拳銃もない。だが、義憤に駆られて“殴りこむ”熱い任侠精神に違いはなかった。日本カワウソは絶滅してしまったようだが、絶滅危惧種が確かに生きていた。【安永五郎】
公式サイト⇒ http://www.ninkyo-helper-movie.jp/
(C)2012フジテレビジョン ジェイ・ドリーム 東宝 WOWOW FNS27社