原題 | The City of Your Final/Destination |
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制作年・国 | 2008年 アメリカ |
上映時間 | 1時間57分 |
監督 | ジェームズ・アイヴォリー |
出演 | アンソニー・ホプキンス,ローラ・リニー,シャルロット・ゲンズブール,オマー・メトワリー,真田広之,アレクサンドラ・マリア・ララ,アンバー・モールマン |
公開日、上映劇場 | 2012年10月6日(土)~シネマート新宿、10月20日(土)~シネマート心斎橋、他、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、シネ・ピピア にて順次公開 |
~微妙な関係を生きる人々はどこへ行く?~
南米ウルグアイを舞台とした,文芸作品の香りが立ち上る作品だ。ここには,パッションではなく,アンニュイに包まれた時間が流れている。久々にジェームズ・アイヴォリー監督の繊細な情感に触れることができる。主要な登場人物7人の綾なす微妙な関係が絶妙なバランスで構築されている。外から少しでも力が加わるとすぐ崩落しそうな感じだ。だが,オマーがウルグアイに持ち込んだ風は,歪みを修整し安定したバランスをもたらした。
オマーは,ただ1冊の本を残して自殺した作家ユルスの伝記を執筆しようとしていた。恋人ディアドラは,それが彼の進む道だと信じ,遺族の同意を得るためオマーをウルグアイに行かせる。そこでは,ユルスの妻キャロラインが愛人アーデンとその娘ポーシャと同居していた。兄アダムは25年来のパートナーのピートと暮らしている。5人は,それぞれの思いを胸に宿しながら,変えられない現状を前に,表面的に穏やかな生活を送っていた。
オマーとディアドラという部外者が入って来て5人の関係に影響を及ぼすというのは,典型的な展開だ。名画の模写に自己を埋没させていたキャロラインは,自分の心を直視して閉塞した空間から自らを解き放つ。ピートは,キャロラインの有する土地の一部を活用するという夢を実現する。更に本作では,外から来た2人も,互いの相違を強く意識させられ,大きな距離感を抱くようになる。アーデンとポーシャもまた,新しい風に包まれる。
帰国したオマーの4か月後が描かれる。冒頭で流砂に呑み込まれる靴は彼の人生が“伝記”の中に沈んでいく様子を示していたことに気付かされる。さらに,ディアドラとキャロラインが偶然再会するエピローグの形で後日談が語られる。2人だけでなくウルグアイに残った人々の近況も分かる。人にはそれぞれの安住の地があり,それが最終目的地だ。そこに辿り着けることを夢見て,また辿り着いたことの幸せを噛みしめ,人は生きている。(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.u-picc.com/saishu/
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