原題 | Tyrannosaur |
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制作年・国 | 2011年 イギリス |
上映時間 | 1時間38分 |
監督 | パディ・コンシダイン |
出演 | ピーター・ミュラン、オリヴィア・コールマン、エディ・マーサン他 |
公開日、上映劇場 | 2012年10月20日(土)~新宿武蔵野館、梅田ガーデンシネマ、10月27日(土)~京都シネマ、12月1日(土)~シネ・リーブル神戸 にて公開 |
~傷つき、傷つけられた果てに出会った二人~
人生の折り返し地点をとうに過ぎた男と女の出会いとその変化を描く。互いに重すぎる過去を背負い、傷だらけで、若い時のように真っさらではない。でも、だからこそ、言葉をこえてわかりあえるもの、伝わるものがあるはず。
ジョセフは、失業中の男やもめ。酒を飲んでは、酔って暴力を振るい、荒れ狂う毎日。酔いがさめては自己嫌悪にとらわれるが、結局、同じことの繰り返し。ある日、賭けに負けた怒りを愛犬にぶつけ、蹴り殺してしまう。生きる気力も支えも失いかけていたジョセフは、バーで喧嘩をして、チャリティ・ショップに駆け込む。そこにいたのは、笑顔の美しい女性ハンナ。自分のために祈ってくれるハンナの優しさにひかれ、ジョセフは頻繁に店を訪れるようになる。しかし、ハンナには夫がいて、その夫が家庭内暴力を繰り返していたことがわかってくる…。
原題は『ティラノサウルス』。ジョセフは、亡き妻のことをそう呼んでいた。優しさや愛情を伝えられないまま、妻は病死し、やりきれなさだけが残る。すぐかっとなって、感情を爆発させる一方で、自暴自棄の生活から抜け出せない自分を責め、深く悩む姿は、どこか突き放せず、見入ってしまう。ジョセフをピーター・ミュランが好演。親しくなりかけたハンナにさえ、時に、自分の心に塀をつくって、内にこもってしまう。孤独の重さは、二人を近づけると同時に、時に、二人を隔てる…。
家庭内暴力の深刻さに、体がすくむ。いい家、いい車、いい生活があっても、夫の暴力が続けば、家庭も人生も苦痛でしかない。ハンナの落ち着きのなさや、夫にみせる、不安の裏返しのような、とりつくろった微笑みがリアル。オリヴィア・コールマンが、夫の暴力が怖くて家に帰れないハンナを演じ、痛々しい。夫は、妻を力でねじふせることでしか、自分の威厳を保てない。一時的に謝って許しを乞うても、結局、何も変わらない暴力の構図が続く。どうしたら抜け出せるのか、切実な問題として迫ってくる。
とりかえしのつかないのが人生だとしても、マイナスだらけの二人が、自分たちの行為への責任は引き受けた上で、なんとか人生をやり直そうとするラストに希望が残る。ハンナが最後に見せるすがすがしい表情は、罪深さと引き換えに、彼女の魂がやっと解放されたことを示すようで、強い印象を残す。(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://www.tyrannosaur-shisyuuki.com/
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