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『菖蒲』

 
       

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作品データ
原題 Tatarak
制作年・国 2009年 ポーランド 
上映時間 1時間27分
監督 監督・脚本:アンジェイ・ワイダ
出演 クリスティナ・ヤンダ,ヤン・エングレルト,パヴェウ・シャイダ
公開日、上映劇場 2012年10月20日(土)~岩波ホール、12月8日(土)~梅田ガーデンシネマ、12月22日(土)~シネ・リーブル神戸 にて公開


~流麗に重なり合う世界で交錯する生と死~

shoubu-2.jpg 女優クリスティナ・ヤンダの一人芝居のようなモノローグで幕を開ける。本作は,彼女の夫エドヴァルト・クウォシンスキに捧げられている。固定されたフレームの中で,彼女が位置を変えながら,夫の死について語っていく。その部屋の造形と彼女の衣装は,死者に対する敬虔な祈りを具象化したような厳かさがある。ドキュメンタリーとフィクションの違いは,ここでは全く意味がない。一人の女優が現実と映像の中に同時に実在している。

shoubu-3.jpg 本作では,アンジェイ・ワイダ監督が映画「菖蒲」を撮影するシーンが描かれる。ヤンダは,これにマルタ役で出演する。その初めの部分で,菖蒲には水の芳香と死の臭いという二つの香りがあることが示される。このように若さと老いはすぐ近くで実在している。「生はごく簡単に死に転じる」という,マルタの夫の台詞に託された死生観へと連なっていく。これはすなわち「灰とダイヤモンド」を撮った監督自身の人生観の表明に違いない。

 shoubu-4.jpg撮影シーンでカチンコが鳴らされると,そのまま本作中の映画「菖蒲」の世界に入っていく。この流れるような感覚が映画には欠かせない。その世界では,もうすぐ聖霊降臨祭だが,マルタは病気で夏を越せないかも知れない。夫は,妻マルタを慈しみで包んでくれる。それを知ってか知らでか,20歳のボグスワフの輝く若さに魅了される。ワルシャワ蜂起で息子2人を亡くした後も生きてきたことへの負い目に幻惑されているようにも思える。

 マルタは,死んだ人たちに対して生きていることが恥ずかしいと言う。彼女の家には開かずの間があった。それが息子2人の部屋であったことが10秒にも満たないショットで鮮やかに示される。まるでマルタの脳裡にフラッシュバックした情景が映されたようだ。だが,死はすぐ近くにある。ボグスワフが川で溺れるシーンは,撮影中だったことが分かってホッとする程の臨場感があった。その生死の境はヤンダの夫が置かれた状況そのものだ。(河田 充規)

公式サイト⇒ http://www.shoubu-movie.com/

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