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『北のカナリアたち』

 
       

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作品データ
制作年・国 2012年 日本 
上映時間 2時間10分
原作 湊かなえ『往復書簡』(幻冬舎文庫刊)
監督 監督:阪本順治  撮影:木村大作
出演 吉永小百合、柴田恭兵、仲村トオル、森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮﨑あおい、小池栄子、松田龍平、里見浩太朗
公開日、上映劇場 2012年11月3日(土)~全国東映系ロードショー


~団塊サユリスト世代に“希望の灯”再び~

  健さん(高倉健)が東宝映画「あなたへ」で俳優生活56年目にしてなお味わい深いヒーローであり続けたように、吉永小百合さんもまた“永遠のヒロイン”に変わりなかった。浦山桐郎監督「キューポラのある街」で世に認められてから半世紀、北海道の離島にある分校の教師の役。生徒は6人の子供たちだけ…日活青春映画で何度も見た“優等生・小百合”のはじける笑顔は、時を重ねて憂いを帯びていた。だが、明るく生きようとする“小百合スタイル”は同じだった。健さん同様、年齢を超越した“俳優の奇跡”と見た思いがした。

kitakanaria-2.jpg 湊かなえ「往復書簡」が原案(那須真知子脚本)だけあって、小百合さんを媒介として、教え子たちのその後をたどるサスペンスフルな物語。図書館を定年退職した川島はる(小百合)は、教え子の一人が「殺人を犯した」と聞き、信じられない思いで北海道の離島を訪ね、6人の子供たちに一人ずつ会って謎を突きつめていく…。

 はるはなぜ島を出たのか、出てからの20年に何があったのか?  歌がうまかった子供たちはその後、どんな人生を歩んだのか、誰にもある秘密が、一人一人に会い話すことで明らかになっていくスリル。厳寒の北海道、木村大作キャメラマンによる雄大な自然の風景が、はると子供たちの過酷な運命を物語る。

 子供たちから慕われる教師はるは、みんなの歌の才能を認め合唱指導する。だが、はるの夫(柴田恭平)は脳腫瘍で死を目の前にして苦しみ、子供たちの間には独唱者をめぐる感情のあつれきがあり、あるいさかいから独唱女児が海に転落。はるは不在、救助に飛び込んだ夫は女児を助けた後、死亡する。その時、はるはどこへ行っていたのか? サユリストもびっくりの“意外な秘密”をはじめ、次々と明らかになるスリリングな展開に引き込まれていく。

kitakanaria-3.jpg 成人した子供たちが驚きの豪華キャストだ。満島ひかり、勝地涼、宮﨑あおい、小池栄子、いじめっ子で警官になった松田龍平、いじめられっ子で殺人容疑者として追われる森山未來。6人6様の20年間が複雑微妙に絡みあって小百合さんの過去と現在に収斂していく。ラスト、雪深い校舎での再会場面。“歌を忘れたカナリアたち”の20年後の歌声に阪本順治の思いが重なって響いた。

 小百合さんの日活青春映画は当時、まだ貧しかった若者たちの夢、理想だった。代表作「キューポラのある街」で貧困のどん底にありながら、強い意志を感じさせたジュンの眼差し。あの頃、日本の若者たちは「今は苦しくとも頑張れば明るい未来がくる」という希望を抱くことが出来た。「上を向いて歩こう」「いつでも夢を」「泥だらけの純情」…明るい未来を信じられた戦後民主主義、小百合さんの映画と笑顔はその体現にほかならなかった。

 長い女優生活の間、小百合さんに汚れ役はなかった、と言っていい。今作も小百合さんはただ一生懸命の女性であり続けた。「北のカナリアたち」は良くも悪くも吉永小百合の映画、いささかくたびれた団塊世代に、今一度送ったエールはやはり感慨は深かった。 (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.kitanocanaria.jp/
©2012『北のカナリアたち』製作委員会

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