原題 | Like Someone in Love |
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制作年・国 | 2012年 日本・フランス |
上映時間 | 1時間49分 |
監督 | 脚本:アッバス・キアロスタミ |
出演 | 奥野匡、高梨臨、加瀬亮 |
公開日、上映劇場 | 2012年9月15日(土)~ユーロスペース、梅田ガーデンシネマ、10月6日~神戸アートビレッジセンター、10月13日~京都シネマ |
~始まりも終わりもなく、それぞれの愛が交錯する~
イランのキアロスタミ監督が日本で日本人俳優をつかって撮った作品。こんな映画があるんだと正直驚いた。ラストシーン、こちらに向けて突き破ってくる衝撃が体中を突き抜ける。
タカシは初老の元大学教授。ある晩、風俗のバイトをしている女子大生の明子を家に呼ぶ。亡き妻の面影に似た明子に魅かれるタカシ。翌朝、明子を車に乗せ、大学まで送るタカシの前に、明子の婚約者と名乗るノリアキが現れる。執拗につきまとうノリアキに怯える明子を守ろうと懸命になるタカシ。ノリアキがタカシを明子の祖父と勘違いしたことから、事態は混迷を極めていく。
映画は、夜のおしゃれなバーから始まる。携帯電話で話をしている女性本人の姿はなかなか映らない。人物や場面についての説明もなく、観客はいきなり混沌としたドラマの中に投げ入れられ、いつしか引き込まれていく。わずか1日にも満たない間の出来事は淡々と描かれているようにみえて、描きとるシーンは巧みに計算され、それぞれの思い、愛が切実に伝わってくる。ガラスの向こうにいる人物と、ガラスに反射した外の景色が二重写しになった美しい映像は、虚実ない交ぜの現実を象徴するかのようだ。とりわけ、タクシーの中から見た夜の繁華街の賑わい、駅前の広場、翌朝のフロントガラスに映る青空が印象的だ。車の外を歩く人の足音や、通り過ぎる車の音、明子が聞く留守電の声と、監督が切り取った音にも注目してほしい。
人は恋をすると、どこか浮き足立って落ち着きを失い、好きな人にはどこまでも優しく温かくあろうとする。車で居眠りしている明子を乗せて大学に向かう道中の、おだやかで居心地のよい時間は、まさに恋に落ちたタカシの胸中を伝えるよう。一方、ノリアキのように、恋する者の感情はときに激しく爆発し、思いも寄せぬ姿を見せる。
積極的な嘘と、あえて誤解を解こうとしない消極的な嘘。人は誰しもいろんな顔を持つし、小さな嘘を重ねてしまう。どれが本当でどれが嘘か、どこまでが真実の思いなのか。観る者の想像力を刺激してやまない魅惑的な作品。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://www.likesomeoneinlove.jp/
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