(C) 2011 MediaPark Film- und Fernsehproduktions GmbH
原題 | DIE VERLORENE ZEIT/Remembrance |
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制作年・国 | 2011年 ドイツ |
上映時間 | 1時間51分 |
監督 | アンナ・ジャスティス |
出演 | アリス・ドワイヤー、マテウス・ダミエッキ、ダグマー・マンツェル |
公開日、上映劇場 | 2012年8月11日(土)~シネ・リーブル梅田、8月25日(土)~シネ・リーブル神戸、秋公開予定~京都シネマ |
~封印された過去に向き合う勇気と“愛”~
あまりに酷くすさまじい戦争体験の中で、命をかけて愛し、守ってくれた人との記憶は、その人の死を知った時、つらい過去とともにすべて頭の中から消し去らなければ、戦後、前を向いて生きていくことができなかったにちがいない。でも、ある日偶然、その人が生きていることを知った時、封印した記憶は一気に流れ出てくる…。本作は、ナチスのアウシュヴィッツ強制収容所で恋に落ち脱出後、生き別れとなり、39年後に再会を果たした実在の人物をモデルにしている。勇気をもって過去と向き合い、一歩、前に踏み出した女性の胸に迫る愛の物語。
1976年、ニューヨークで優しい夫と娘に囲まれ、経済的にも裕福に暮らすハンナ。偶然、店の奥から聞こえてきたテレビの声に引き寄せられ、そこに映っていたのは、命の恩人であり、死んだものと諦めていた恋人トマシュだった。32年の時を隔てて、封印していた記憶を呼び戻していく旅に、観客は同伴するかのように、ハンナのたどった過酷な人生の軌跡をたどっていく。
映画は、現代と1944年当時とを交錯させながら描いていく。強制収容所での生活ぶりの描写がなんともリアルだ。ユダヤ人のハンナは、いつ命を奪われるかわからない恐怖におびえながら、命令されるまま地にはいつくばって耐える毎日。ポーランド人のトマシュはレジスタンス活動の任務のため脱出することになる。リスクが増しても、愛するハンナを一緒に連れて行くと決心するトマシュ。二人が無事脱出して、光あふれる森林の中で笑いあう場面は生の解放感にあふれている。
しかし、脱出後も次々とハンナに苦難が降りかかる。トマシュの家族のもとに身を隠そうとするが、ポーランド人の中にもユダヤ人への差別感情があり、かくまうことによる処罰を恐れるトマシュの母は、二人の結婚を決して許そうとはしない。任務を果たしに出かけたトマシュと別れてから、ハンナが一人で必死に生をつなぎとめようとする姿が心に迫る。息子を深く愛するあまり、ハンナの存在を受け入れられない複雑な人物としてトマシュの母が淡々と描き出される一方、ハンナを温かく世話するトマシュの兄嫁の存在が救いとなる。ハンナを演じるアリス・ドワイヤーの迫真の演技に引き込まれる。
戦後、トマシュが死んだものと思っていたハンナは、自分だけが生き残ってしまった罪悪感と、決して消えることのないトマシュへの愛とを、心の底に押し隠して生きていた。しかし、トマシュが生きていると知った以上、再会したいという思いを止めることはできず、家族にも少しずつ打ち明けるようになる。悩みながらも自分の信じるままに行動していく現代のヘレンをダグマー・マンツェルが演じ、情に流されない、抑制した演技で深い感動を呼ぶ。
映画が伝えるのは“愛”だ。ファーストシーンで、1944年にトマシュに向けて手紙を綴るハンナは、トマシュのことをかけがえのない人と呼び、永遠の愛を伝える。愛すること、それは他者を自分以上に想い、大切にすること。危険を覚悟の上で、ハンナを連れて脱走しようとしたトマシュと、トマシュへの感謝の念と深い愛を決して忘れることのなかったハンナ。二人が再会し、互いに生きていることの喜びを確かめ合うことができた時、真の意味で、二人の魂は、過去から、戦争から開放されるのだろう。ラストの無言の余韻をじっくり味わってほしい。(伊藤 久美子)
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