原題 | HOWLING |
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制作年・国 | 2012年 韓国 |
上映時間 | 1時間54分 |
原作 | 乃南アサ『凍える牙』新潮文庫刊 |
監督 | ユ・ハ |
出演 | ソン・ガンホ、イ・ナヨン他 |
公開日、上映劇場 | 2012年9月8日(土)~丸の内TOEI、新宿武蔵野館、梅田ブルク7、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都他全国ロードショー |
~孤独に闘う魂が呼応する夜~
乃南アサの直木賞受賞作『凍える牙』といえば、過去に2度テレビドラマ化され、小説だけでなくドラマで作品の魅力に触れた人も多いだろう。このベストセラー推理小説が韓国で新しい息吹を吹き込まれ、見事なクライム・サスペンスとしてスクリーンに登場する。『マルチュク青春通り』のユ・ハ監督が、自ら脚本を担当。乃南アサ自身が「誰よりも『凍える牙』を理解していることが感じられた」とコメントしている通り、難事件に切り込む様子や主人公となる女刑事の職場での葛藤を描くと同時に、事件の鍵を握るウルフドッグの闇夜を駆け抜ける姿が脳裏に焼き付く。
車内で不可解な人体発火事件が発生、ベテランながら出世の道が険しいサンギル(ソン・ガンホ)は、新人女性刑事ウニョン(イ・ナヨン)とコンビを組まされ、難事件に挑みはじめる。遺体に残った獣に噛まれた跡や、腰に締めたベルトの発火装置で他殺と判断したサンギルだったが、被害者周辺を洗ううちに更なる連続殺人事件が発生する。狼と犬の交配種であるウルフドッグが噛み殺す現場を唯一目撃したウニョンは、署内の圧力にも屈せず、ウルフドッグの調教主を割り出そうとするのだったが・・・。
『悲夢(ヒム)』のイ・ナヨンが、男性社会のしかも警察という組織の中に蔓延するセクハラやパワハラを受け、上司が真相究明を諦める中、最後まで事件に喰らいつく芯の強いウニョンを凛とした美しさで好演。働く女性であれば一度は体験があるであろう苦々しい場面が度々描かれるからこそ、殺人鬼に変貌させられたウルフドッグの孤独な瞳に共鳴していくウニョンの気持ちに寄り添えるのだ。
一方、ウニョンの上司であるベテラン警部、サンギルを、名優ソン・ガンホが中年の悲哀を漂わせながら飄々と演じ、ちぐはぐコンビぶりを発揮。刑事魂と出世欲の間で葛藤する姿もまた、男ならではの孤独な闘いを映し出す。組織の中に波紋を巻き起こし、真相の追及に没頭するウニョンを次第に受け入れ、サンギルが上司として、刑事として一皮剥けるまでのドラマも映画版ならではの見どころだろう。
人間に調教されたウルフドッグの謎、事件があぶり出す社会の闇に迫るアクションシーンも圧巻だが、更なる犯行を重ねるかもしれないウルフドッグを単身バイクで追いかけるウニョンの真夜中の疾走は、切ないまでに美しかった。追う者と追われる者、もしくは人間と動物の垣根を越えた孤独な魂の共鳴が、サスペンスにとどまらない余韻を残す作品だ。(江口 由美)
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