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原題 | Monsieur Lazhar |
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制作年・国 | 2011年 カナダ |
上映時間 | 1時間35分 |
監督 | フィリップ・ファラルドー |
出演 | フェラグ,ソフィー・ネリッセ,エミリアン・ネロン、ブリジット・プパール,ダニエル・プルール |
公開日、上映劇場 | 2012年7月14日(土)~シネスイッチ銀座、8月4日(土)~テアトル梅田、8月11日(土)~シネ・リーブル神戸、8月25日(土)~京都シネマ、ほか全国にて順次公開 |
~悲しみを越える強さが,明日への輝きに~
モントリオールの冬の朝,小学校の校庭を俯瞰するショットで始まる。その後も,カメラは客観的な第三者の視点を保ち続け,登場人物の心象風景は映さない。それにもかかわらず,主要人物3人の心が痛いほど伝わってくる。その小学校では,先生が生徒を叩くのはもちろん,ハグも含めた身体的な接触が禁じられていた。そんな状況で迎えるラストシーンは,ラザール先生と生徒アリスの固い絆を端的に示して,観客の胸に深く突き刺さる。
アリスやシモンがいる11~12歳の生徒たちの教室で,担任のマルティーヌ先生が首を吊った。そんな衝撃的な出来事で幕を開ける。アリスは夜によく思い出すと言う。彼女はシモンに「謝れたのに」と意味深長な言葉を向ける。彼は,教壇に立つマルティーヌ先生の写真を持っており,ある日それに天使の羽と首吊りのロープを書き込んでいた。彼と担任との間に何があったのかと緊迫感が高まり,彼が心に抱える葛藤の大きさがズシンと響く。
バシール・ラザールは,良い知らせと幸運を意味するそうだ。彼は新聞で事情を知って校長を訪ねてきた。カナダの永住者で,アルジェリアで19年教えていたと言う。だが,バルザックを書き取りの教材に使うなど昔風の授業をする。しかも,難民認定の申請をしており,永住者ではないことが明らかになる。ウソをついて教職に就いたのだった。実は,妻が教師で祖国の政策を批判し,家族が脅迫を受け,家に火を放たれ妻子を亡くしていた。
シモンは,彼を軽くハグしたマルティーヌ先生が「キスした」と大袈裟に非難したことが自殺の原因ではないかと思い悩んでいる。彼が教室で心の奥深くに籠めていた思いを吐露するシーンは,単に彼だけではなく,思い悩む人々の普遍的な姿を捉えている。そのような人々を,救うことはできなくても,受け止めることはできる。ラザールが最後の授業で語る彼自身の寓話「木とさなぎ」が,全てを集約して包み込むようで,心に染みてくる。 (河田 充規)
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