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原題 | The Journals of Musan |
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制作年・国 | 2010年 韓国 |
上映時間 | 2時間7分 |
監督 | パク・ジョンボム |
出演 | パク・ジョンボム、チン・ヨンウク、カン・ウンジン |
公開日、上映劇場 | 2012年6月9日(土)~シネマート心斎橋、6月23日から元町映画館、京都シネマにて公開 |
受賞歴 | 2010年プサン国際映画祭 ニューカレント賞(グランプリ)、2011年ロッテルダム国際映画祭 タイガーアワード(グランプリ)、2011年東京フィルメックス 審査員特別賞 |
~立ちつくした男が見つめるのは…~
脱北者として差別され、理不尽な暴力を受けても無抵抗なままのスンチョルに共感できず、どうしようもない苛立ちを感じながらずっと観ていた。ところが、ラスト数分の長回しに、いきなり不意打ちを食らったように、凍りついてしまった。
スンチョルは、北朝鮮と中国の国境の街ムサンからソウルにやってきた青年。脱北者への差別が根強い中、定職にもつけず、街頭にポスターを貼ってわずかな日銭を稼ぐ。詐欺まがいの手口で金儲けをしている同じ脱北者で同居人のギョンチョルとは対照的だ。地元の不良達から袋叩きにされたり、バイト先のボスから手荒な扱いを受けても、されるがままのスンチョルを観ていて、どうしてこんなに無力なのか、どうしてもっと怒らないのかという思いが募ってくる。似合わないおかっぱ頭、小太りで丸まった背中、さえない服装で、おどおどしたスンチョルを、どこか嫌悪しながら観ている自分がいた。頑固なまでにまじめで、正直だが、不器用で、うまく生きられない姿が、観ていてもどかしかった。
教会の聖歌隊で歌う女性スギョンにあこがれ、彼女が営むカラオケバーで働けるようになったものの、すぐに辞めさせられてしまう。ひとりぼっちのスンチョルにとって、唯一の話し相手であり、友達だったのが、拾った白い犬のペック。ギョンチョルが、大切なペックを腹いせに捨てにいったことから、二人の間の溝は決定的になる。無事、ペックは見つかるが、スンチョルの中の鬱屈した思いも膨れ上がってゆく。そんなとき、トラブルで命を狙われ、追い詰められたギョンチョルから、大金を取りに、隠し場所へ行くよう頼み込まれ、スンチョルは必ず戻ると約束するが…。
ラスト、カメラは、夜の繁華街の道の真ん中で立ちつくし、じっと見つめ続けるスンチョルの姿をロングの長回しでとらえる。スンチョルが見つめているのは、まるでもう一人の自分自身のようだ。今までずっと大切にしてきた、心の中の真っ白で純粋なものを失ってしまったスンチョル。沈黙の時間が流れ、観客もまた、自分の心と向き合うことを余儀なくされ、スンチョルと同じ驚き、戸惑いで、ただ呆然と立ち尽くすしかない気落ちになる。ふいに自分自身の心の内側をのぞきこんだかのような気持ちにさせられ、苛立っていた自分が気恥ずかしくなった。
無言のまま、そこを立ち去ってゆくスンチョルの後姿を、あなたはどう感じるだろうか。この見事なラストゆえに、忘れ得ないインパクトを持つ作品となった。 (伊藤 久美子)
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