(C) 2012『ポテチ』製作委員会
制作年・国 | 2012年 日本 |
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上映時間 | 1時間8分 |
監督 | 中村義洋 |
出演 | 濱田岳(今村忠司),木村文乃(大西若葉),大森南朋(黒澤),石田えり(今村の母親) |
公開日、上映劇場 | 2012年4月7日より仙台にて先行公開、5月12日より新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹ほか全国公開 |
~味はいろいろ,舞台とは違うテイストで~
伊坂幸太郞原作の同名小説の映画化だ。蓬莱竜太の脚本・演出で2010年に舞台化されている。今村は,同じ日に同じ病院で生まれた野球選手の尾崎に格別の思いを抱いている。今村の母親は,「同い年の人間でこうも違うのかねえ」と言いながら,何だか満足そうな表情をしている。大西は,今村と出会い,その茫洋とした強かさと突き抜けた優しさに触れるうち,ものの見え方が変わってくる。人間同士の関わりが愛おしく思えてくる作品だ。
映画は,小説や舞台と異なり,今村が黒澤と並んで腰掛けているシーンから始まる。今村が黒澤を頼りにしており,何か話そうとしているようだが,今一つ煮え切らない。こないだの健康診断で凄いことが分かったなどと話している。そのため,今村が抱える問題に焦点が絞られ,大西の存在が背後に退いてしまった。物語のスケールが小さくなったような気がして,ちょっと残念だ。68分でまとめるためには仕方がなかったのかも知れないが。
コンソメ味のポテチを頼んだのに,食べてみると塩味だった。だけど,意外と美味かった。それで大西が「間違えてもらって良かったかも」と言ったとき,今村は涙を流す。ここに本作の核心がある。彼は,コンソメ味のポテチに憧れのような感情を持っているが,塩味がコンソメ味になれないことはよく分かっている。尾崎と逆の立場にはなれない。一方,今村の母親は,ポテチと違うものも欲しかったが,ポテチは塩味で十分満足している。
原作と舞台は大西の視点で描かれているので,観客は今村がなぜ尾崎の家に空き巣に入って何も盗らないのかという疑問を大西と共有する。だから,ホームランはただボールが遠くに飛ぶだけと言っていた大西の「ただのボールがあんなに遠くに」という最後の言葉に感銘を受ける。映画ではクライマックスの球場のシーンで今村が尾崎に向かって大きく手を振る。2人が1つのフレームに収まってストップモーションとなるラストが決まった。
(おまけ)
舞台は,今村が加藤晴彦,大西が星野真里,黒澤が山本亨,今村の母親が岡本麗というキャストで,2010年10月14日~24日,青山円形劇場で上演された。
(河田 充規)
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