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【シネルフル】
HP管理者:

河田 充規
河田 真喜子
原田 灯子
藤崎 栄伸
篠原 あゆみ

〒542-0081
大阪市中央区南船場4-4-3
御堂筋アーバンライフビル9F
(CBカレッジ心斎橋校内)
cine1789@yahoo.co.jp


新作映画
 マリア
『マリア』

〜聖夜の奇跡は、この夫婦の絆から始まった。〜

監督:キャサリン・ハードウィック (2006 アメリカ 1時間40分)
出演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、オスカー・アイザック、ヒアム・アッバス
12月8日〜テアトル梅田、TOHOシネマズ泉北、高槻ロコ9シネマ、京都みなみ会館他にてロードショー

公式ホームページ→ 
 街中が色とりどりの光に包まれ、誰かを想って手に取られてゆくであろう少し特別なアイテムが店頭に並ぶ。サンタを待つ楽しみが懐かしくなってしまった今でも、クリスマスは年末の慌ただしくなりそうな気持ちを立ち止まらせてくれる大切な一日だ。

 何だか忘れそうになるけれど、そもそも、クリスマスとはイエス・キリストの生誕を祝う日。しかし、あまりにも有名なその人の父母のこと、誕生までの長い歩みを知る人は意外にも少ないのではないだろうか。どんな人達だったのか? 彼らに何が起こったのか? 本作は各分野の様々なリサーチを綿密に行い、史実に忠実に描こうと試みた意欲作である。
 ヘロデ大王による厳しい徴税に苦しめられていた町・ナザレ。親が決めた若者・ヨセフとの結婚話に戸惑う一人の少女・マリアがいた。彼女は天使から受胎告知を受け、あろうことか婚約中に身ごもってしまう。唯一、ヨセフだけは「神の子」を宿しているというマリアの言葉を信じる。「夫婦の絆」が産声を上げるのが聞こえるかのようだ。まだ互いをよく知らない若い2人が、目に見えないものを信じ、孤独と大きな不安とを分かち合おうとする姿がとても清々しい。
 「救世主」誕生の予言を恐れるヘロデ大王が街の人口調査を始めたため、2人はヨセフの故郷・ベツレヘムを目指すのだった。それは長く過酷な旅。しかし、それ以上に互いを思いやり慈しむ旅。そして、ベツレヘムの小さな馬小屋でその人は誕生した。

  マリアを演じるのは、「クジラの島の少女」のケイシャ・キャッスル=ヒューズ。憂いを帯びた神々しいまでの眼差しは健在だ。あどけなさも残るような一人の少女が、妻として母として成長していく様を自然体で表現。マリアの母性を、春の光のような柔らかさと輝きとして昇華させたラストシーンは彼女らしい。

  クリスマス―救世主の誕生は、一組の男女が貫いた「信頼」の証である。
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 その名にちなんで
『その名にちなんで』
〜 愛につまずいている人、この作品にと〜まれ!〜

(2006 アメリカ 2時間2分)

監督:ミーラ・ナイール 
出演:カル・ペン、タブー、イルファン・カーン
12月22日〜テアトル梅田、京都シネマ、三宮シネフェニックス他
公式ホームページ→ 
 忘れてはいないだろうか? 「愛」は育てるものだということを。無関心を装ってはいないだろうか? 「絆」が持つ力の重さに。

  見合い結婚をしたインド人のアショケとアシマは、新天地・ニューヨークで夫婦生活を始めた。異国の地で徐々に愛を育み、支え合う2人に待望の長男が誕生。息子の幸せを願い、父のアショケは「ゴーゴリー」と名づける。その名には、彼の命を救った「奇跡」が込められていた。

  インドとアメリカ、親と子。普遍的な家族の愛を、文化を縦糸に世代を横糸にダイナミックかつ丁寧に織り上げた力作。この作品の終わりは、ゴーゴリの新たな人生の始まりでもある。そして、観客もまた共に前へ進む事ができる作品なのだ。
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 スサンネ・ビア監督特集
@『アフター・ウェディング』

(2006年 デンマーク 1時間59分)
出演:マッツ・ミケルセン、ルフ・ラッセゴード、シセ・バベット・クヌッセン
12/22〜梅田ガーデンシネマ、1月下旬〜シネカノン神戸、京都シネマ
公式ホームページ→  
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A『ある愛の風景』

(2004年 デンマーク 1時間57分)
出演:コニー・ニールセン、ウルリッヒ・トムセン、ニコライ・リー・コス
12/29〜梅田ガーデンシネマ、1月下旬〜シネカノン神戸、来春〜京都シネマ

公式ホームページ→  
〜確実に心に残る映画を観たい人のために〜

  デンマークのスサンネ・ビア(前作の「しあわせな孤独」での表記はスザンネ・ビエール)監督の新作2本が続けて公開される。2作品とも,人工的な照明を使わず手持ちカメラでロケーション撮影するという手法が用いられており,カメラが監督の眼となって人々の心の状況を鋭く描き出す。そこでは孤独な辛さや苦しみが描かれるが,その根底には人の弱さを包み込むような温かさが流れている。

  Aでは妻子への愛のために人の命を奪った男の苦しみが,@では死を目前にした男の孤独と妻子への愛が,いずれも非凡なストーリーとカメラワークで語られていく。口元や眼のクローズアップが印象的で,まるでサイレント映画のように映像が実に雄弁に物語ってくる。男は2人とも妻の前で慟哭し心情を吐露するのだが,このような形で男の弱さと女の優しさを示す視線には独特のしなやかさが感じられる。だからこそ,胸を鷲づかみにされるような苦しさの中にも安らぎがあるのだ。

  また,2作品とも,Aの「何があろうと愛してる」というフレーズに象徴されるように,家族に関する愛にあふれている。男とその妻子という家族の中に,@では娘の実父,Aでは男の実弟が入り込んでくる。これにより喜びや悲しみ,期待や不安が交錯し,あるいは罪悪感が表面化し,身動きの取れなくなった状況の中,周囲の人への愛おしさが募っていく。その様子を描写した監督の手腕の確かさとその背後にある観察眼の鋭さに圧倒される。
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 ナショナル・トレジャー リンカーン大統領暗殺者の日記
『ナショナル・トレジャー リンカーン大統領暗殺者の日記』

〜歴史ミステリーの最高峰!
     黄金都市(エルドラド)トレジャーハンティングへの誘い〜

(2007年 アメリカ 2時間15分)
監督:ジョン・タートルトーブ
製作:ジェリー・ブラッカイマー、ジョン・タートルトーブ
出演:ニコラス・ケイジ、ダイアン・クルーガー、ジャスティン・バーサ、ジョン・ボイト、ヘレン・ミレン、ハーヴェイ・カイテル、エド・ハリス、ブルース・グリーンウッド
12/21(金)〜全世界同時公開!!
記者会見記事→  
公式ホームページ→
 あの“秘宝に魅せられた冒険家にして天才歴史学者”のベン・ゲイツが帰ってきた!
ニコラス・ケイジ扮するベン・ゲイツは、ユニークなニューヒーローとして、前作『ナショナル・トレジャー』で一躍脚光をあび、世界中でトレジャーブームを巻き起こした。今回は、先祖の“リンカーン暗殺者の一味”という汚名を晴らすため、再び謎が謎を呼ぶトレジャーハントに挑戦していく。


 製作者のジェリー・ブラッカイマーは続編を作るにあたり、同じスタッフ、同じキャストにこだわったという。続編への出演を嫌うニコラス・ケイジも、この作品では仲間との再会を楽しみにしていたようで出演を快諾したとか。それはダイアン・クルーガーやジョン・ボイト、ジャスティン・バーサなども同様で、役柄同様ファミリー意識は定着しているようだ。さらに、今回はベン・ゲイツの母親役に「クイーン」でアカデミー賞主演女優賞に輝いたヘレン・ミレン、彼を追い詰める謎の男にエド・ハリスが参加して、作品に重みを持たせている。
 1865年4月15日、南北戦争終結直後に起きたリンカーン大統領暗殺事件。アメリカの歴代大統領の中でも最も敬愛されているリンカーン大統領。その暗殺事件に、暗号解読のエキスパートであったベン・ゲイツの先祖が関わっているという。わずかに焼け残った暗殺者の日記の一部には、秘密結社にまつわる暗号が秘められており、ベンは父親のパトリックや天才ハッカーのライリー、そして今では破局してしまったアビゲイルと共に、ひとつの謎を解いては新たな暗号を探して求めていく。彼を罠にかけたウィルキンソンの魔の手に追い詰められながらも、パリ・ロンドンを駆けめぐっては謎に挑んでいくベンとその仲間達。さらに、今回は大統領誘拐という大罪を犯してしまい、FBIからも追われる羽目に・・・果たして汚名は晴らせるのか?ウィルキンソンの本当の狙いとは?アビゲイルとの恋の行方は?
 今回ベンの母親が古代インディオ文字のエキスパートとして登場する。33年前別れてから一度も口を利いてないという父親との絡みが面白い。特に、ヘレン・ミレンの理路整然とした攻め口に圧倒されながらもジョン・ボイトが反論する辺りは、ベテラン俳優ならではの味と風格がある。同じ夢を求め、お互いを認め合っていた昔の二人の絆は、ベンとアビゲイルにも影響を与えていく。この辺りは、ただの“謎解きアドベンチャー”に止まらない作品に厚みを感じさせてくれるところだ。

  さらに、誰でも知っているような観光名所が舞台となっているので、かなりエキサイティングな旅行気分が楽しめる。「パリの自由の女神の謎」「バッキンガム宮殿の謎」「ホワイトハウスの謎」「大統領秘密文書の謎」「サウスダコタにあるラシュモア山の謎」等々。それらが導く「伝説の黄金都市」とは・・・?

  さあ、あなたも〈ナショナル・トレジャー〉になって、息もつかせないジェットコースター・スリリングをお楽しみ下さい!!!
(河田 真喜子)ページトップへ
 いのちの食べかた

『いのちの食べかた』

〜私たちの“食べもの”ができるまで……
          今、食品生産の現場の実態は?〜


(2005年年 オーストリア・ドイツ 1時間32分)
監督:ニコラウス・ゲイハルター
上映中〜3月30日滋賀会館シネマホール
3月22日〜モーニングショー・梅田ガーデンシネマ
4月12日〜アンコールショー・
神戸アートビレッジセンター
公式ホームページ→

 とにかくサプライズの連続。といっても、知らないだけで、映画の撮影されたオーストリアやドイツだけでなく、ヨーロッパ全土、アメリカ、日本でも、規模の差はあれ、同じようなことが行われているにちがいない。
牛や豚がどのように解体され、肉となっていくのか。吊り下げられたり、ベルトコンベアーで運ばれ、次々と処理されていく。私たちの食べものがどんなふうにつくられていくのか、大量生産の現場を、目の当りにすることになる。

  卵が孵化し、ひよこが生まれる。大量のひよこがベルトコンベアーに乗って、ピッチングマシンのような機械で選別されていく。そして巨大な養鶏場で飼育され、鶏となり、お肉となっていく…。あるいは、子豚がベルトコンベアーで次々と運ばれ、手作業で去勢され、犬歯を切られていく。“いのち”が生まれ、成長し、“食べもの”となるまで、すべて機械により管理され、効率的に生産され、加工されている。
 家畜だけに限らず、魚や野菜、果物の生産現場においても機械化は限りなく進んでいる。

  この作品のユニークなのは、解説も音楽も全くないことだ。聞こえてくるのは、もっぱら機械の動く音。カメラは、そこで黙々と働いている人たちの姿をとらえていく。

  車や機械の製造現場もオートメーション化が進んでいるとはいえ、ここまで殺伐とした光景には見えないだろう。同じ流れ作業でも運ばれるのが“生き物”だと、イメージはまるで違う。
 正直なところ、ここまで機械化が進んでいるとは、思いも寄らなかった。きっと、観客の誰もが、目の前に展開する光景に驚き、圧倒されるだろう。これでいいのかと疑問を抱くかもしれない。しかし、私たちが安く食べものを購入できるのも、この効率的な大量生産のシステムがあってこそ……。

 この作品を観たからといって、肉や魚を食べるのをやめるわけにはいかないし、私たちの“食”は果てしなく続く。でも、この映画は、私たちの知らなかった食料生産の現場の姿を教えてくれる。1個100円のホールトマト缶の安さの裏側に、こういう世界があったのだと、思いをめぐらすことができる。

  機械の力を借り、食物が生み出されていく光景は、無機的で、どこか残酷にもみえるが、観終って、決して嫌な気持ちにはならない。むしろ美しささえ感じられ、不思議な感銘が残る。ぜひ、この作品を観て、食の現場について想像の翼を広げてほしい。
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 エンジェル
『エンジェル』

〜いつだって、美しい女〜

(2007 ベルギー・イギリス・フランス 1時59分)

監督・脚色:フランソワ・オゾン
出演:ロモーラ・ガライ、シャーロット・ランプリング、サム・ニール
12月22日〜テアトル梅田、シネカノン神戸、1月中旬〜京都シネマ 
公式ホームページ→
 夢か現実か・・・。幸か不幸か・・・。美か醜か・・・。ふんわりとしたヴェールを纏ってはいるが、徐々にボディーブローを打ち出してくる感覚―、F・オゾン監督の新作である。

  1900年代初頭のイギリスを舞台に、下町で暮らす少女・エンジェルが大きな夢を自らの力で引き寄せていく人生の軌跡を描く。キャリアも財産も、恋だって手に入れた先に待っていた結末とは・・・。
 たとえどんな状況にあっても、自身で線引きしたり迷ったり後戻りしない自家発電できる女は段違いに美しい。彼女の心を映しているかのような、色とりどりの趣向が凝らされたドレスや小物は見所の一つ。「エンジェル」というキャラクターの一部として活きているから楽しめる。
(原田 灯子)ページトップへ
 ルイスと未来泥棒
『ルイスと未来泥棒』

(2006・アメリカ 102分) 12/22
配給 ウォルト・ディズニー モーション ピクチャーズ ジャパン
監督 スティーヴ・アンダーソン
声の出演 ダニエル・ハンセン スティーヴン・ジョン・アンダーソン ウェズリー・シンガーマン イーサン・サンドラー
★ 取材記事 小林幸子舞台挨拶→  奥村ゆうこ(アニメーター) 
公式ホームページ→
 世界初の長編アニメーション『白雪姫』が誕生してから実に70年。その間、数々の夢ある作品を世に送り出してきたディズニースタジオが初めて“未来”を題材とした物語を誕生させた。

  主人公は養護施設で育った発明が大好きな天才少年ルイス。母親のぬくもりを知らずに育ったルイスは、母に会いたい一心で忘れた記憶を取り戻す装置“メモリー・スキャナー”を開発する。だが、その完成品を未来からやってきた怪しい男に盗まれてしまったルイスは、同じく未来からやってきた少年ウィルバーの協力で、盗まれた発明品を取り戻しに未来へ向かう!そこでルイスは予想を超えた大冒険と、家族のあたたかさを経験することになる。
(中西 奈津子)ページトップへ
 onceダブリンの街角で

『ONCEダブリンの街角で』
〜恋のときめきを歌に乗せ、
           音楽を紡ぎだす喜びが切なく甘く‥‥〜


(2006年アイルランド1時間27分)
監督・脚本:ジョン・カーニー
出演:グレン・ハンサード、 マルケタ・イルグロヴァ

★第80回アカデミー賞 歌曲賞受賞記念 凱旋上映!!!

3/8
(土)〜梅田ガーデンシネマ、 4/15(火)滋賀会館
4/19(土)高槻ロコ9シネマ、4/26(土)ジストシネマ和歌山 にて公開

★公式ホームページ→

 歌が生まれるピュアな瞬間を映しとった新しい音楽映画が生まれた。
 おんぼろギターを抱え歌う男性ストリート・ミュージシャンと街頭で花や雑誌を売るチェコから移民してきた女性が出会う。

  男が奏でるギターの旋律に女がピアノを重ね、ラブソングが生まれる。この最初のセッション、はじめは恐る恐る、次第に二人の息が合い、曲が紡ぎだされていく様子がリアルに伝わり、すばらしい。

  二人の間に芽生えるほのかな愛。しかし、男にはロンドンに別れたけれども思いの消えない恋人が、女には娘や母がいた。容易には愛を口にできない二人。それでも互いのときめきを歌に乗せ、次々と新しいハーモニーが生まれていく。劇中の音楽はどれも美しい旋律で、心の奥深くに響いてくる。
 新しい恋に臆病で優柔不断な男。その姿は素朴で好感が持てる。少し距離を置いた二人の関係は切なさを感じさせながらも、妙に心地よい。スタジオでの録音風景やデモテープを聴きながらの早朝ドライブシーンは、音楽ファンにはたまらない。

  今は永遠には続かない。でも、いい歌は残り続ける。
 演じるのはどちらもプロのミュージシャン。男を演じるグレン・ハンサードは、13歳で学校をドロップアウトし、街角で演奏していたというつわもので、アイルランドの実力派バンド、ザ・フレイムスのフロントマン(リードボーカルとギター)。女性を演じるマルケタ・イルグロヴァはチェコの新鋭シンガーソングライター。劇中の音楽は、すべて二人が本作のために書き下ろした音楽。

  ジョン・カーニー監督もグレンと同じバンドにベースギタリストとして参加していた経験がある。「僕は元ミュージシャンとして、音楽を使ったシンプルなラブストーリーをずっと作りたいと思っていたんだ。ただし昔の『ミュージカル映画』のようなスタイルじゃなく、あくまで現代的でリアリティのあるオリジナルな作品をね」と、脚本も担当した監督の言葉どおりの世界がスクリーンに広がった。

  二人のつつましやかな恋の行方は…?さりげないエンディングは暖かい気持ちを呼び起こし、観る者を深い感動に包み込むにちがいない。
(伊藤 久美子)ページトップへ
 Little DJ 小さな恋の物語(河田バージョン)
『Little DJ 小さな恋の物語』
〜大阪出身で30歳代半ばの女性による映画〜

(2007年 日本 2時間08分)
監督:永田琴
出演:神木隆之介、 福田麻由子、 西田尚美
石黒賢、 広末涼子

12/15〜シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸 他にて公開
公式ホームページ→
 安直な闘病モノではなく,薄っぺらい初恋モノでもなく,しっかりとしたドラマが重すぎず軽すぎず程良いサジ加減で描かれる。時代は1977年4月から主人公の高野太郎が13歳の誕生日を迎える12月までの約8か月間だ。

  監督は,太郎だけでなく,彼を取り巻く人たちをきっちりと描き,ドラマを引き締めている。太郎のマドンナで1歳上の海乃たまきはもちろん,同じ部屋に入院中の大人3人のキャラを巧みに描き分ける。そして,「素直に気持ちを伝えることの大切さ」というテーマをはっきりくっきりと浮かび上がらせた。
 捨次は,その実体験から太郎に「好きなら好きって言っちまいな」とアドバイスする。結城の息子は,太郎に「レコード買ってくれたんだろ,いいお父さんじゃないか」と言うが,このとき画面の奥で母親が顔を覆って泣き伏す姿がしっかりと映されるなど,父親と息子が互いに意識しながら素直に話せなかったことが手際よく示される。もう1人のおばあさんは何もしゃべらず,いつも背を向けているが,あるとき決然と自分の意思を伝える。
 たまきは,交通事故で入院したとき,その姿を見ていた太郎に「ミイラ人間」と命名される。彼女が退院後に太郎が聞いていたラジオ番組へのハガキでペンネームを「ミイラ」とするところなど,さり気なく彼女の太郎への心情が示されていて,細やかだ。また,カメラがこの2人のどちらにも感情移入することなく,適度の距離を保っているのも良い。特に2人の函館山でのシーンが印象に残る。

  プロローグとエピローグで15年後のたまきが登場する。夢が叶ってラジオのディレクターをやっているが,何だかな〜という今日この頃だ。そんなとき,そもそもの出発点を振り返って,現在の自分を見詰め直す。そこから,人は決して独りぼっちではなく,他の人たちと同じ時間を共有できるのだということに改めて思い至り,幸せ感に包まれる。さらに,エンディングの後に”星”がキラリ…。
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 椿三十郎(伊藤バージョン)
『椿三十郎』 
〜時代を超え人々を魅了する“侍”像を再現


(2007年 日本 1時間59分)
監督 森田芳光
出演 織田裕二、豊川悦司、松山ケンイチ、鈴木杏、佐々木蔵之助
12月1日〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸 他
記者会見記事→       
公式ホームページ→
 腕組みをし、じっくり案を練る。あわてず動じず、機知に富み、欲得もない。無精ひげの素浪人、でも、意外に頼りになる男。それが1962年公開、黒澤明監督作品で三船敏郎が演じた椿三十郎だ。45年の歳月を経て、森田監督がリメイクに挑戦。

  優れた脚本ならあえて変える必要はない、と監督はオリジナル脚本をそのまま使用。黒澤版をリスペクトしつつ、笑いのセンスは今風にアレンジ。自分なりに演出を加えていく監督の意図が、音楽、殺陣、美術にも現れ、旧作とは違う新しい味付けが楽しめる。常に旧作と比較されるプレッシャーの中で、スタッフ、キャストが一丸となった、熱い思いが映像に結晶した。
 家老達の陰謀を暴き、藩の危機を救おうとする9人の若侍達(松山ケンイチほか)を偶然助けることになる三十郎(織田裕二)。迫力ある殺陣だけでなく、敵方との間で繰り広げられる知恵比べもみどころ。生真面目で一途なあまり、危なっかしい若侍達を放っておけず、共に考え、策を講ずる。三十郎が繰り返し諭しても聞かない若侍もいれば、すぐかっとなって口答えする者もいる。その個性はさまざま。味方の陣内の掛け合いもユーモラスで、捕虜の押入れ侍(佐々木蔵之助)が登場の度、笑いの渦が広がる。
 野性味にあふれ、豪快さを体現した三船敏郎とは違い、織田裕二演じる三十郎は、どこか身近で、一緒に同じだけ汗をかいてくれる兄貴のようで、新しい“平成版、椿三十郎”ができあがった。室戸半兵衛(豊川悦司)との一騎打ちも、思わず息を飲む緊張感で、みごたえがある。

  黒澤版が大傑作であるだけに、今回のリメイクについては、当初から手厳しい評もあっただろう。しかし、若い人達がこれを観て面白いと感じ、黒澤版に興味を持ち、その底知れぬおもしろさを知って、日本映画が育んできた時代劇の裾野が広がれば、というのも監督がこの作品に賭けた思いの一つだろう。

  ぜひ、その奮闘ぶりを劇場で確かめてほしい。人間味たっぷりの侍達が繰り広げる群像劇を、存分に楽しめるはずだ。
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 君の涙 ドナウに流れ
『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』
〜迫力ある映像と繊細さが光る人間ドラマ〜

(2006年 ハンガリー 2時間)
監督:クリスティナ・ゴダ
出演:イヴァーン・フェニェー、 カタ・ドボー、 シャーンドル・チャーニ、
カーロイ・ゲステシ、 イルディコー・バーンシャーギ

12月1日〜シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、
‘08、2月9日〜京都シネマ

公式ホームページ→
 1956年,ソ連共産党第一書記フルシチョフによるスターリン批判が世界の共産党に大きな衝撃を与えた。ハンガリーでは,多数の学生や労働者がブダペストなどで自由を求めてデモ行進を行ったが,ソ連軍部隊が侵攻してハンガリー全土を制圧し,カーダール第一書記による新政府が誕生した。これが本作の背景となったハンガリー動乱で,同国では1956年革命と言われるそうだ。同じ年にオーストラリアのメルボルンでオリンピックが開催され,ハンガリーは水球で金メダルを獲得する。
 本作は,当時12歳で祖国ハンガリーを離れたプロデューサーのアンドリュー・G・ヴァイナの念願の映画化であり,歴史的な事実を忠実に踏まえているという。だが,政治的なメッセージではなく,自由が抑圧された時代の中で純粋に人としての自由を求めた人々の姿が表現されている。そして,当時のハンガリーの情勢を知らなくても,違和感なく映画の世界に入り込めるように工夫されている。
 主人公カルチは,水球と異性にしか関心がない生活をしていたが,祖父から「自由のため反抗すべき時がある」と言われたり,幼友達の死や女子学生ヴィキとの出会いを通じ,社会情勢にも目を向けるようになる。何も知らない観客も彼に感情移入して映画の中に入っていける。一方,ヴィキは,秘密警察に騙され両親を殺された暗い過去を背負っている。自らの信念に従って果敢に行動する彼女の強さには,カルチでなくても惹かれるだろう。

  カルチは祖国の人々のためにメルボルンで戦い,ヴィキは亡くなった仲間のためにも祖国に止まって抗戦する。この2人の姿を交互に描きながら結末へと向かう展開は,力強さを感じさせると同時に,時代によって運命が左右されることの哀しさを想起させる効果を上げている。また,ハンガリーの警察官が民衆に協力する場面があるし,ソ連軍の兵士たちにもふと物悲しさを感じてしまう。時代に翻弄される人々の姿が丁寧に描かれた力作。
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 カンナさん大成功です!
『カンナさん大成功です!』
〜169 cm 95kgから48kgのパーフェクト美女に大変身〜

(2006・韓国 116分)12/15公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:キム・ヨンファ   原作 鈴木由美子
出演:チュ・ジンモ キム・アジュン イ・ハヌィ キム・ヨンゴン ソン・ドンイル 
12月15日(土)〜梅田ブルク7,なんばパークスシネマ、MOVIX京都、シネカノン神戸 他にて
公式ホームページ→
 久しく鳴りをひそめていた韓国映画に勢いが戻った!地元、韓国でもあの大ヒット作『猟奇的な彼女』を抜き去りラブコメのナンバー1ヒットに躍り出たスーパームービーがついに日本でも公開される。

  容姿と体系にコンプレックスを抱えるカンナは、トップアーティスト・アミの代わりに舞台裏で歌を当てるゴーストシンガー。そんな彼女のささやかな楽しみは、優しくハンサムな音楽プロデューサーのサンジュンを見つめること。だが、ある時カンナは「美貌のないカンナは憐れんで利用すればいい」と言う彼の本音を聞いてしまう。絶望に陥ったカンナは、脂肪と共に不幸な自分を捨てる決意を固め、命がけの全身整形に踏み切るのだった!

  一年後、169cm95kgから48kgの誰もがふり返るパーフェクト美女に変身したカンナは、新人歌手としてサンジュンに近づこうと試みるが…。
 「もっと私が可愛ければドラマのような恋ができるのに」という女性の願望を地で行くキュート&ポップなラブコメディ。だけど、見た目が変わっても好きな人を落とす手練手管が身につくはずもなく、中身は恋愛経験ゼロのカンナのまま。それゆえ好きな人の前で空回りばかりしている姿が最高に可笑しい。それに整形がバレてはいけないと、せっかくのいい雰囲気もキス止まり。鼻が曲がる!!胸はシリコンが!?!お尻がくずれる$%#〜と心ここにあらずの大慌てぶりが笑える。
 そんな“美人だけどちょっと変な女”(そのギャップがgood!)のカンナを、超大型新人のキム・アジュンがクルクル変わる表情をもってチャーミングに演じる。本作のキャスティングの条件はなんと皮肉にも(?)“未整形”であること。整形大国の韓国では、さぞキャスティングが難航を極めたのではないかと勘ぐってしまう。しかし、そんな無理難題の末選ばれたキム・アジュンは『猟奇的な彼女』のチョン・ジヒョンと張るくらいの美人。しかも、歌唱力も抜群なのだ。劇中で歌手という役柄だけに、歌うシーンは数回あるのだが、聞き惚れてしまうほど。特に「Maria」を熱唱する場面が◎。

  しかし、楽しいばかりではない。トントン拍子にすべてが上手くいくほど人生そんなに甘くない!ということも本作はきっちり描いている。得るものがあれば、捨てるものが当然出てくる。カンナは、美を得た代償として父親と親友を切り捨てる決断を迫られるのだ。もともと、おとなしくやさしい心の持ち主のカンナは、良心の葛藤に苦しい思いをする。そして、見えてくる本当に大切なもの…。 ピュアなカンナの言動を見ていると、人は自分の手で幸福を掴むことが出来る、けど、それは片手にひとつずつくらいが丁度いいバランスなのだと思い知らされる。

  カンナの奇行に笑い、恋心に共感し、家族愛に涙する。鈴木由美子の原作をテンポよくスッキリ2時間弱に収めたパフォーマンスはみごと。クリスマスのデートムービーに失敗したくないなら本作を強くおススメする。
(中西 奈津子)ページトップへ

 Little DJ 〜小さな恋の物語〜(篠原バージョン)

『Little DJ 小さな恋の物語』
〜忘れていませんか?素直に気持ちを伝えること。〜

監督:永田琴   (2007年 日本 2時間8分)
出演:神木隆之介、福田麻由子、広末涼子、西田尚美、石黒賢、原田芳雄
12/15〜シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸 他にて公開
公式ホームページ→
 毎日“その時間”になると、アンテナを目一杯伸ばしてじっと耳を澄ませる。聴きなれたDJの声が聴こえてくると、なぜかホッとして、ワクワクして…。ラジオは、姿の見えない「声」だけの相手と、同じ時間を共有しているという不思議な幸福感をもたらしてくれる。しかし、TVや携帯電話、インターネットが中心の現代人にとって、ラジオと接する時間は極端に減ってしまった。

  『Little DJ 小さな恋の物語』は、そんな今だからこそ見るべき、想いを伝えることや人との繋がりの大切さを温かく描いた物語だ。
 1977年、函館。海辺の病院に入院することになった、ラジオが大好きな少年・太郎は、院長先生の部屋にぎっしり並べられたレコードやスピーカーに目を輝かせる。それを見た先生は、治療の一環として太郎がDJを務める音楽番組を院内放送しようと提案。太郎の放送は人気を集め、病院の人々を元気づけていく。そんなある日、太郎は交通事故で入院した少女・たまきと出会い、心を通わせていくが…。
 少年と少女の淡く切ない初恋の物語は、まさに“中学生版セカチュー”だ。いや、ともすれば“純愛ごっこ”にもなりかねないところだが、神木隆之介と福田麻由子の素晴らしさには、そんな懸念も適わない。とにかく、絵になるこの2人。片方ずつイヤホンをして一緒にラジオを聞いたり、隣に座って一緒に映画を観たり、寄り添いながら雨宿りをするといった何気ないシーンが本当に美しく、心の中に飾っておきたいほどだ。

 太郎と同室の入院患者たちのエピソードにも心を揺さぶられる。無愛想だが憎めない捨次、息子とのコミュニケーションに悩む結城、誰とも口をきかない老女・タエ。太郎との触れ合いの中で、彼らがどのように変わっていくのか。特に、おばあさんの心情が明らかになったときは、涙せずにいられなかった。

 この映画に爽やかな風を吹き込んでいるのが、70年代を代表するヒット曲の数々。フィンガー5、QUEEN、チューリップ、キャンディーズ…。今も昔も変わらないのは、音楽が人の心を癒やし、人の心を動かすパワーを持っているということ。それと同じように、想いが込められていれば、不器用な言葉でも、相手の心にしっかりと届くはず。何度も挫けそうになりながら、たまきに自分の素直な気持ちを伝えた太郎の姿は、何でもメールで済まそうとする現代人に“言葉で伝える勇気”をくれるに違いない。  
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 ベオウルフ
『ベオウルフ 呪われし勇者』
〜最先端の技術で描かれたファンタジーの原点〜

(2007年 アメリカ 1時間54分)
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ロバート・ゼメキス
出演:レイ・ウィンストン、アンソニー・ホプキンス、ジョン・マルコビッチ、ロビン・ライト・ペン
12/1〜梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条、神戸国際松竹、109シネマズHAT神戸 他にて全国ロードショー

公式ホームページ→
 少なくとも古いものと新しいものが合体している点で注目すべき映画だ。現存する最古の英雄叙事詩「ベオウルフ」を忠実に映画化していると同時に,最新のパフォーマンス・キャプチャー技術を用いて映像化されている。

  フリー百科事典「ウィキペディア」によると,原作の「ベオウルフ」は,8〜9世紀に成立した叙事詩で,英文学最古の作品の一つと考えられており,全体が2部構成で,第1部で若いときのベオウルフの巨人グレンデルとの戦い,第2部で老域に入ったベオウルフとドラゴンとの戦いが描かれているという。

  本作品のストーリーもシンプルで,フロースガール王やその跡を継いだベオウルフと,グレンデルとその母親やドラゴンとの関係について,原作に必要最小限の肉付けをしただけといった感じだ。グレンデルやドラゴンが王国を襲う理由も,必ずしも明らかでない。
 憎しみと復讐の連鎖から生じる戦いの虚しさが描かれていたら,もっとインパクトが強くなっただろう。王冠と引換えに悪魔に魂を売り渡したベオウルフの欲望や苦悩,グレンデルの悲痛やその母親の魔性などにも,物足りなさを感じる。もっとも,原作の持つ空気を忠実に映像化すること自体が目的だったとすれば,その点では相応の効果を上げている。
 映像的には,かなり楽しめる部分が少なくない。たとえば,宮殿を映し出すカメラがほぼ仰角にどんどん引いていき,そのままグレンデルの母親の住処と思われる場所まで至る長いカットがあった。グレンデルの母親が宮殿のある王国を睥睨(へいげい)している様子が脳裏に浮かんでくるという効果がある。

  しかし,何よりも注目すべき点は,同じロバート・ゼメキス監督の前作「ローラー・エクスプレス」と同様,パフォーマンス・キャプチャー技術が用いられていることだ。これは,実際の俳優の演技を複数のカメラで全方向から捉え,コンピューターに取り込んで加工し,CG映像を創り上げていく技術である。

  監督は,前作の記者会見のとき,今後もこの技術をアニメーションでも実写でもできないストーリーに使っていくつもりだと語っていた。確かに,本作品では舞台が6世紀のデンマークで,ストーリー的にもダーク・ファンタジーであるから,その世界の視覚化のため最適な技術が用いられたといえるだろう。

  ただ,前作でも指摘されていたが,人物の表情にどうしても違和感が残る。また,戦闘シーンは,かつてテレビで観たアメリカ映画に登場するモンスターのように,動きは素早いものの重さが感じられない。3Dでなく2Dで観たためかも知れないが,もう少し不自然さが改善されることを願わずにいられない。

  ともあれ,本作品は,CGが巧みに使われていた「フォレスト・ガンプ/一期一会」の監督の最新作であり,「ベオウルフ」の原典に触れると同時に,最先端のパフォーマンス・キャプチャー技術を体験できるので,その意味で一見の価値があることは間違いない。
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 ディセンバー・ボーイズ
『ディセンバー・ボーイズ』
〜誰もが通り過ぎてきた“あの夏、あの青春”に思いを馳せる〜

(2007年 オーストラリア/イギリス/アメリカ 1時間45分)
配給:ワーナー・ブラザース映画 監督:ロッド・ハーディー
出演:ダニエル・ラドクリフ、クリスチャン・バイアーズ、リー・コーミー、ジェイムズ・フレイザー
12/1(土)全国ロードショー
公式ホームページ→
 オーストラリアの孤児院で暮らす4人の少年・マップス、スパーク、ミスティー、スピット。彼らは、いつか養子として温かい家族に引き取られることを夢見ているが、10代の自分たちよりも幼い子が選ばれるのが現実。そんなある日、4人は夏休みを過ごすことになった海辺の村で、子供を授からない若い夫婦と出会い…。

  “4人の少年の友情の物語”といえば名作『スタンド・バイ・ミー』が思い浮かぶが、どちらかというと本作は“兄弟愛”の物語だ。まるで日課のようにケンカし、誰か1人でも様子がおかしければすぐに感づく。年長のマップスが、村の人に「兄弟みたいだな」と言われ、「兄弟だよ」と言うシーンがある。血の繋がりはなくても“ひとつ屋根の下”で共に育ってきたからこそ言える、胸を打つ言葉だ。
 舞台となっている南オーストラリアの雄大な景色も見応え十分。カンガルー島の巨大な岩がそびえたつリマーカブルロックスや、リトルサハラの真っ白な斜面を少年たちが勢いよく滑り落ちていくシーンは素晴らしく爽快で、観終わったあと、必ず訪れたくなるだろう。
 “養子の座”を奪い合って、少年たちの間に亀裂が生じるところからが物語の肝。大人たちの目を盗んでタバコを吸い、こっそり拝借したお酒を回し飲みし、女性の着替えを覗き見…と、少年たちの背伸びしたやんちゃぶりには苦笑してしまうが、親を求めるその心はまさに“純粋な子供”で、そのギャップに切なくなる。それでもまだどこか無邪気な3人に対して、マップスだけが大人への第一歩を踏み出す。村で出会った少女とのひと夏の恋。甘さ以上の痛みを経験するマップスの感情の揺れや爆発を、ダニエル・ラドクリフがリアルに体現し、役者としての新たな一面を見せてくれる。

 当たり前のような存在や場所こそが、自分にとって最も大事だということに、人はなかなか気付かないもの。悩み、傷つきながらも“自分の居場所”を見つけることができたときこそ、本当の意味で人生は動き出すのかもしれない。だが、一方で1ページ、また1ページとめくられていく人生を止めることができない名残惜しさもある。そういう意味で本作は、これから始まる未来よりも、もう戻ることのできない宝物のように特別な“あの頃”に魅力を感じる人にとってはたまらない、ノスタルジックな作品だ。
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 再会の街で (篠原バージョン)
『再会の街で』
〜愛する者を失い、絶望しても、人はまた、人を求めずにはいられない〜


(2007年 アメリカ 2時間4分)
監督:マイク・バインダー
出演:アダム・サンドラー、ドン・チードル、リブ・タイラー

12月下旬〜梅田ガーデンシネマ、2008年1月〜京都シネマ、シネリーブル神戸にて公開

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 どんなに一人でいることのほうが楽でも、人は人と関わり合わずには生きていけない。何らかのカタチで必ず「出会い」は訪れ、互いの人生に影響を与えるのだ。

 キャリアを築き、愛する家族にも囲まれ、順風満帆な人生を送る歯科医のアラン。そんな彼が、9.11テロで家族を失い、消息不明だった大学時代のルームメイト・チャーリーと偶然再会。アランのことを「知らない」と言い、社会から“はぐれた”暮らしを送るチャーリー。再び友情を育んでいく中で彼らは、目を背けてきた“現実”と向き合うことができるのだろうか…?
 9.11テロを題材に2人の男の魂の交流を描いた作品だが、事件そのものについて多くを語ることはしない。だが、ボサボサの頭にくたびれたコートを羽織り、耳には常にヘッドフォンをつけたチャーリーの姿は、人と関わることを拒絶し、家族の「死」以来ストップしてしまった人生を象徴しており、テロに対する恐怖と憤りと悲しみが一気に押し寄せてくる。
 チャーリーを演じたアダム・サンドラーが秀逸。中でも、頑なに閉ざしていた心を絞り出すように吐露し、やがて感情のダムを決壊させる場面は“終わりなき悲しみ”を見事に表現。彼の放つ圧倒的な“磁気”が観客の心を強く引きつける。また、一見対照的に思えて実は様々なしがらみを抱えているアランを演じたドン・チードルは、チャーリーと過ごすときに見せるやんちゃな表情が新鮮で魅力的。コミカルな役が多いサンドラーと、シリアスな役が多いチードル、それぞれの新たな一面も本作の見所の一つだ。

 チャーリーの心の傷は、もはや施しようがないほどに深く、大きい。だが、決して“手遅れ”ではない。彼を何とかして暗闇から救い出したいと願うアランがいて、人との関わりを避け続けてきたチャーリーも、いつしか彼を必要とし始める。それを“自覚”することができた、そのときこそが本当の意味での“再生”ではないだろうか。

 オープニング、チャーリーが“愛車”のエンジン付きキックボードで街を走り抜けていく姿が映し出される。風景は美しいのに、どこか虚無感漂う街並。このシーンが、実はラストシーンへの伏線となっている。その時、キックボードに乗っているのは…。

  “喪失と再生”というテーマを、ありきたりでもなく、重過ぎるでもなく、これほど温かく心に響く物語に仕上げたマイク・バインダー監督の手腕に脱帽。余韻はしばらく消えそうにない。    
  
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 中国の植物学者の娘たち
『中国の植物学者の娘たち』
〜響き合う孤独な魂と魂〜

監督:ダイ・シージエ(2005年 カナダ・フランス 1時間38分)
出演:ミレーヌ・ジャンパノワ、リー・シャオラン、リン・トンフー

12月15日〜梅田ピカデリー、MOVIX京都 他
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 人と人との絆はどんなときに結ばれるのだろうか?相手が自分にないものを持っていたとき?あるいは自分とよく似ていたとき?前者は刺激を、後者はやすらぎを与えてくれるだろう。しかし、もっとも強烈な吸引力を発揮するのは、互いの抱える孤独がシンクロ(同期)したときではないだろうか。 
 
 舞台は湖に浮かぶ小島の植物園。早くに妻を亡くし娘(リー・シャオラン)と二人で暮す厳格な植物学者(リン・トンフー)は、植物それぞれの特性に応じた管理に余念がない。そして、それは家庭内にも及んでいた。食事の時間から茶の淹れ方に至るまで完璧な秩序が保たれていたのだ。そこへ孤児院から派遣された一人の実習生(ミレーヌ・ジャンパノワ)がやってくる。
 ダイ・ジーエ監督は、小さな秘め事がやがて一国をも揺るがす大事件へと発展してゆく様を独特のタッチで描き出す。はじめは牧歌的に、しだいに幻想的に。花の刺繍のついたシーツをスクリーンにして、明かりに群がる蛾の様子を影絵で見せた映像は夢のように美しい。そして妄想の世界へ誘い込んだ後、まるで催眠術を解くように現実に引き戻した。
 『小さな中国のお針子』よりも先に企画があったという本作だが、中国ではタブーとされるテーマを扱ったことで国内での許可が下りず隣国ベトナムでの撮影となるなど、映画化への道のりは険しかった。モントリオール世界映画際で贈られた観客賞がその苦労に報いる形となった。(最優秀芸術貢献賞も同時に受賞)

  98分という短い時間でありながらそこには濃密な時間が流れている。食虫植物に餌を与えるシーンや前述の蛾のシーンなど、おぞましさと美しさが同居したものが効果的に使われている。そして、その最たるものは主演の二人だろう。とくにロシア人の母と中国人の父を持つジャンパノワの、前半の素朴な印象から後半の退廃的で妖艶な雰囲気への変化には目を見張るものがある。

  幸福な夢を見て目覚めたら、頬に涙の跡が残っていたような、そんな作品だ。
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 ふみ子の海
『ふみ子の海』

(2006年 日本 1時間45分)

監督:近藤明男
出演:鈴木理子、高橋長英、高橋惠子

12月1日〜梅田ガーデンシネマ、
12月8日〜京都シネマ、シネカノン神戸

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 「奇跡の人」でポンプの水を手に受けながら“ウォーター”と叫ぶシーンはつとに有名だが、実在したことは知っていても「偉人」であって生身の人間だという実感がなかった。そのヘレン・ケラーが昭和初期の日本ですでに認知され、来日も果たしていたという。そして、日本にも彼女に触発され、その後の人生を視覚障害者教育に捧げた人物が存在した。

  昭和6年、新潟県の貧しい農村でふみ子(鈴木理子)は突然、光を失った。わずか4才のことだった。絶望した母親チヨ(藤谷美紀)はふみ子を連れて真冬の海に入ろうとする。しかし、潮の香りや波音から初めてふれる海を感じ取り、無邪気に喜ぶふみ子の様子にチヨは正気を取り戻す。4年後、ふみ子はタカ(高橋惠子)の元へあんま修行に出るが、熱心な教師との出会いから初めて点字というものに触れ、次第に学ぶ喜びに目覚めてゆく。そんな折、かのヘレン・ケラーが来日するというニュースがとびこんできた。
 ふみ子のモデルとなったのは粟津キヨさん。(1919〜1988)32歳のとき自らも学んだ高田盲学校の教師となる。二女によれば“まったく怒らない人”。共に教鞭を取っていた市川信夫氏が粟津さんの人柄に感銘を受けたことから、小説「ふみ子の海」が誕生した。自らも携わった『はなれ瞽女おりん』で助監督を務めた永井正夫氏(本作プロデューサー)との出会いが実り、今回の映画化が実現した。
 美しい新潟の自然とともに物語は淡々とすすんでゆく。春は桜の花びらを、秋には落ち葉を口にして匂いと舌でふみ子は季節を味わう。春の桜、山の緑が美しければ美しいほど、雪に閉ざされた冬の厳しさが際立ち、観る者の胸を衝く。

  この映画は多くを語らない。いわれのない迫害も身を切るような別れも、鈴木理子の澄んだ瞳がありのままに受け止めてゆく。決して美化している訳ではなく、それが粟津さんのものの見方だったのだろう。「偉業」は「偉人」がつくるものではないということを、静かな情熱で訴えかけてくる作品だ。
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