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★ 第18回大阪ヨーロッパ映画祭(2011)新作

 『ヘアードレッサー』”The Hairdresser”

(2010年 ドイツ 1時間46分)
監督:ドリス・ドリエ 
出演:ガブリエラ・マリア・シュマイデ、ナターシャ・ラヴィッツス


今年の大阪ヨーロッパ映画祭名誉委員長を務めたドリス・ドリエ監督が贈る超ポジティブコメディー。ダイナマイトボディーの主人公、カティが身に着けるカラフルなファッションをはじめ、効果的にビビッドな色づかいを配し、観ているだけで元気が出てくる。災いと見えることも包容力で乗り越え、娘との絆を取り戻すまでをパンチの効いたコメディーに仕立て上げた手腕は見事だ。困難や偏見に立ち向かい、転んでも立ち上がり続けるカティの姿は、3.11以降の日本へのエールにも見えた。

 『こころの部屋』”The Little Room”

(2010年 スイス=ルクセンブルク 1時間27分)
監督:ステファニー・シューア、ヴェロニク・レモン 
出演:ミシェル・ブーケ、フロランス・ロワレ=カイユ


高齢化を迎える中で、人生の終え方、終わらせ方や介護士との関係は世界共通のテーマなのだろう。本作では、糖尿病患者で息子との関係がうまくいかない老人と、子供を死産したショックから立ち直れぬまま介護の仕事に復職した女性を主人公に、それぞれが喪失感や対峙すべき人と再び向かい合うまでを描いている。女性監督らしく主人公二人の繊細な心の揺れを丁寧に描写、死や喪失を乗り越えた後の清々しさに静かな感動を覚えた。重い心の扉を開く主人公をユーモラスに表現した85歳の名優、ミシェル・ブーケの演技が心に沁みる。

 『アイルランドの事件簿』”The Guard”

(2011年 アイルランド=イギリス 1時間36分)
監督:ジョン・マイケル・マクドノー 
出演:ブレンダン・グリーソン、ドン・チーゲル、リーアム・カニンガム他


アイルランドが舞台であることを反映させた痛烈な皮肉満載の個性的なサスペンスコメディー。ドン・チーゲル演じるアメリカFBI捜査官エヴェレットを迎えるのは、地元アイルランドで酸いも甘いも知り尽くしたおやじ警官ジェリー・ボイル。ジェリーを演じるアイルランド・ダブリン出身の俳優ブレンダン・グリーソンの人種差別も辞さない歯に衣着せぬ本音が、ブラックユーモアのようにじわりと効いている。複雑な歴史に育まれたアイルランド人気質を感じ取ると同時に、異色コンビの刑事ものとして見応え十分の快作だ。

 『チャットルームの恋人』”Hello! How Are You?”

(2010年 ルーマニア 1時間35分)
監督:アレクサンドラ・マフティ 
出演:ダナ・ヴォイク、ロネル・ミハイレスク


一昨年上映されたルーマニア映画『両替からはじまる物語』は現代ルーマニア事情をそのまま映し出す社会派辛口コメディーだったのに対し、本作はシックなトーンの映像に、心地よい音楽を交えて万国共通の「熟年夫婦の危機」を綴る。結婚20年、冷めきった仲の夫婦がそれぞれチャットの相手に恋していくが、実はそれが自分の相方だった・・・というちょっとビターなラブコメディー。息子ウラディミルから見た両親の描写や、客観的に自分の恋愛を語るシーンが入ることでストーリーに新鮮味が加わった。

 『アマドールからの贈りもの』”Amador”

(2010年 スペイン 1時間50分)
監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア 
出演:マガリ・ソリエル、ソニア・アルマルチャ、セルソ・ブッハロ

監督インタビュー⇒ こちら

生・死・愛を描くと同時に、「生き延びる」がテーマという本作は、介護している老人アマドールの死後のストーリー展開が見どころ。南米移民の介護士マルセラを演じる『悲しみのミルク』のマガリ・ソリエルの繊細で真の強い演技にも注目したい。

 

地面に気丈に咲く一輪の花が映し出されるオープニングと対比するように、切り花や枯れた花が時の流れや人の生きる姿を象徴的に映し出す。恋人に妊娠を告げず、1人で気丈に仕事を続けるマルセラの厳しい表情が、異国で職を得、生きていく大変さを静かに表現。アマドールが死んだという事実を隠し、介護を続けてお金を得るマルセラを助けるのが、同じく週に一度だけアマドールのもとに通い続けた娼婦なのも底辺を生きる女性のたくましさを感じさせた。

生前、マルセラの妊娠を言い当てたあと、お腹に手を当てて自分が死んだあとが君の居場所だと伝え、マルセラと生まれてくる子供に大きな居場所を与えたアマドール。死んでも”生かされる”運命となり、依頼主の娘にすら金銭的な事情でもうちょっと”生かして”ほしいと言われる成仏できない運命は皮肉だったが、部屋を花で囲み、生前完成させられなかった海のパズルを完成させ、生きていた時と変わらず介護のために部屋へ訪れていたマルセラにとってはアマドールは生きた存在のままだったのかもしれない。

生と死の境目がともすれば分からなくなるような不思議な感覚にとらわれると共に、居場所を見つけること、根を下ろせる場所を見つける生をつなぐ営みを彼女たちを通じてみた気がする。何度も「(赤ちゃんの)名前は決まったの」と問われてきたマルセラが、映画の最後に「名前は決まったの」と聞かれて、うなずきようやく笑った顔は決意と充実感に満ち溢れていた。

 (江口 由美)ページトップへ

   
             
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