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『BOX袴田事件 命とは』 高橋伴明監督インタビュー
『BOX袴田事件 命とは』 ゲスト:高橋伴明監督

(2010年 日本 1時間57分)
監督:高橋伴明
出演:萩原聖人、新井浩文、葉月里緒奈、村野武範、
    保阪尚希、ダンカン、雛形あきこ、大杉 漣、
    國村 隼、岸部一徳、塩見三省、石橋凌

2010年6/26(土)〜シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸 、7月〜京都シネマ、第七藝術劇場
・ 作品紹介⇒ こちら
・ 公式サイト⇒
 http://www.box-hakamadacase.com/
 高橋伴明監督が、実際に起きた事件とその裁判を描いた映画「BOX袴田事件 命とは」を撮った。道元禅師を描いた前作「禅 ZEN」(08年)をはじめ連合赤軍のリンチ事件を描いた「光の雨」(01年)、「TATOO(刺青)あり」(82年)など数多くの話題作、問題作で知られる人。そんな監督が題材に選んだ新作は、警察、検察、それに裁判そのもの裁判員制度への疑問、異議申し立てだった。その真意を聞いた。

 「この映画は『獅子王たちの夏』を共同で書いた友人からの話だった。今は出家している元暴力団組長(後藤正人氏)の援助(エクゼブティブ・プロデューサー)で映画にした。袴田事件はもちろん知っていた。袴田ってなんてひどい奴かと思っていた。だけど2007年にその時の裁判官の1人、熊本氏が(冤罪をにおわせる)発言してから関心を持って調べ直してみた。そういう時にこの話が来た」。実は、裁判員制度の映画の話がきて監督も手を挙げたが、プレゼンで落ちたという。「今の裁判官は市民感覚とズレていることが多く、裁判員制度よりも前にそちらの方が問題だと思っていた。あらかじめ決められた自供と証拠をもとにした裁判員制度はおかしいし、二審(高栽)には裁判員制度がないのもおかしい。私としては、冤罪だ冤罪だと主張するよりも、裁判員制度ならどうなるか、という視点で描きたかった。映画化には資料調べから着手。書き進めているうちに方向性が固まった」という。

 昭和41年6月30日未明、静岡県清水市で味噌会社専務の自宅が放火され、一家4人が殺害された。静岡県警は、従業員で元プロボクサーの袴田巌を容疑者として逮捕。巌は犯行を否認していたが拘留期限3日前に一転自白。熊本典道は主任判事として裁判を担当する。巌は裁判で犯行を全面否認、典道もまた長時間の取り調べや二転三転する供述などから警察の捜査に疑問を抱く。困難を極めた裁判は合議の末1対2で死刑に決まった。だが事件は冤罪ではないか? 事件から1年後の新証拠発見など、あまりに疑問が多いことから典道は辞職し、苦悩する。

 袴田氏と冤罪発言の裁判官・熊本氏、昭和を生きてきた同世代の2人が裁かれる側と裁く側に別れる、彼(袴田)を犯人にする証拠しか採用されないことがこういう事態を招いた、そんな思いが強く現れた映画である。目を覆う過酷な取り調べ、自白の強要、証拠の恣意的な採用。映画を見れば、やはり冤罪の印象が圧倒的だ。監督は「真犯人のメドはついている。だが、真犯人も袴田氏も、関係者も生きており、すべてを描くことは出来なかった」という。袴田事件は再審請求が却下されたが、2度目の再審請求を準備中。超党派の議員連盟も出来、袴田氏の姉が補佐人になることも認められた。「袴田さんの釈放につながればけっこうなことだけど、その目的では作ってない」という。

 過去、栽判映画は日本映画の良心として左翼独立プロが数々の名作を世に送っている。「帝銀事件 死刑囚」(熊井啓監督、54年)、八海事件を描いた「真昼の暗黒」(今井正監督、56年)、徳島ラジオ商殺しの「証人の椅子」(山本薩夫監督、65年)などが歴史に残る。高橋監督もそれらの映画は見ているが「どれもいいとは思わなかった。否定もしませんが…」。エグゼグティブプロデューサーの後藤氏は18年も刑務所暮らしを経験しており、警察や検事への不満、裁判への不信が根強く、また袴田氏救済への義侠心があったという。監督もまた学生運動で逮捕された時の経験は忘れていない。「検察は罪状を作るのはものすごくうまい。作文もしかり。取調室の可視化が叫ばれており、実現すればあんなことは起こらない、と思われそうだが、おそらくやり方が巧妙になるだけで、冤罪は今後も起こりうると思う」ときっぱり。ただ、「この映画で議論を巻き起こすことが出来ればいい」と地味ながら問題を詰め込んだ映画を締めくくった。

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