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★BOX袴田事件 命とは

(C)BOX製作プロジェクト2010
『BOX袴田事件 命とは』
〜人を裁くことの重み……冤罪事件に迫る〜

(2010年 日本 1時間57分)
監督:高橋伴明
出演:萩原聖人、新井浩文、葉月里緒奈、村野武範、
    保阪尚希、ダンカン、雛形あきこ、大杉 漣、國村 隼、
    岸部一徳、塩見三省、石橋凌

2010年6/26(土)〜シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸 
7月〜京都シネマ、第七藝術劇場

・ 高橋伴明監督インタビュー⇒ こちら
・ 公式サイト⇒
 http://www.box-hakamadacase.com/
 人を裁くことの重みがずっしりと迫ってくる。1966年に静岡県清水市で起きた一家四人の強盗殺害事件。元プロボクサーの袴田巌が容疑者として逮捕され、拘留期限3日前に一旦自白するも、裁判では一貫して犯行を全面否認。地裁で主任判事となった熊本典道は、長時間にわたる取り調べや二転三転する供述から、警察の捜査のやり方に疑問を抱き、乏しい物証と強制の疑いのある自白に無罪を確信する。しかし、3人の裁判官による多数決で死刑判決が決定。熊本は裁判官を辞職し、袴田の無罪を実証しようと力を尽くすが…。
 「真実」は箱(BOX)の中。弁護側と検察側、どちらも証拠を積み重ね、真実にたどりつこうとする。○か×か、最後に判決を下すのは裁判官だ。人を裁くことは、同時に自分が裁かれることではないかという熊本裁判官の言葉が胸に迫る。
 “袴田事件”は、1980年に最高裁で死刑が確定し、今もなお冤罪を主張して再審請求が続けられている。本作はこれを、裁判官の立場から描いたセミ・ドキュメンタリー。熊本は、2007年に「袴田事件は無罪である」と世間に公表する謝罪会見をして、再審請求支援を表明し、世論に衝撃を与えた。高橋伴明監督もまた、本作を、袴田事件は免罪であるとの立場でつくったそうだ。

 熊本裁判官を演じる萩原聖人が好演。もし、無実の人間に死刑を宣告してしまったとしたら、それは殺人犯と同じことではないか。死刑判決を下した瞬間から、この問いが彼を苦しめ続ける。調べれば調べるほど、無実を確信すればするほど、苦悩は深まる。合議制という裁判制度への疑問と同時に、死刑判決を下した自分自身への慙愧の思いが、袴田の弁護へと駆り立てる。時に精神的に追い詰められながらも、支援を続ける熱意に圧倒される。
  死刑囚を演じる新井浩文がいい。真実を知っているのは自分と犯人だけ。いつか真実が明らかにされることを信じて、待ち続ける。押し殺したような無表情の中から、ただ待つことしかできない苦しみが伝わる。息子への手紙に込めた思いに胸が熱くなる。袴田の幼い息子が、海辺で砂山を何度つくっても、すぐ波に押し流されて壊れてしまう姿が映されるが、まるで、死刑の恐怖に必死で耐え抜こうとする袴田の心を象徴しているかのようだ。30歳で逮捕されてから44年間に渡る拘禁生活、独房で刑務官の足音に脅える日々に、とうとう精神に変調をきたしてしまう袴田。冤罪のあまりの怖さに、身につまされる。
 2009年に始まった裁判員制度により、一般国民も刑事裁判に参加し、審判を下すことになった。人を裁くことの重みと難しさ、命の尊さが切々と迫ってくる。当時の警察の捜査のあり方についても問題を提起し、死刑制度について一石を投じる野心作だ。
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