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 『エンター・ザ・ボイド』 ギャスパー・ノエ監督 合同記者会見
            
( 2010年3月19日(金) ホテルグランドハイアット東京にて

(c)2010 FIDELITE FILMS ? WILD BUNCH ? LES FILM DE LA ZONE- ESSENTIAL FILMPRODUKTION ? BIM DISTRIBUZIONE ? BUF COMPAGNIE
『エンター・ザ・ボイド』
(Soudain le vide/Enter The Void)


(2010年 フランス 2時間23分)
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ナサニエル・ブラウン(オスカー),パス・デ・ラ・ウエルタ(リンダ),シリル・ロイ(アレックス),オリー・アレクサンダー(ビクター),サラ・ストックブリッジ(ビクターの母親),エド・スピアー(ブルーノ),丹野雅仁(マリオ)

2010年5/15(土)〜シネマスクエアとうきゅうほか
関西では、6/5〜梅田ガーデンシネマ、6/26〜京都シネマ、6/19〜109シネマズHAT神戸 にて全国順次公開

公式サイト⇒ http://www.enter-the-void.jp/
〜魂の浮遊という、かってないトリップ映画を体感せよ!〜

 作品を発表する度に世界を震撼させる監督、ギャスパー・ノエ。モラル的タブー、暴力とセックス、見る者の神経を逆撫でするような作風ながら、人間の性(さが)や人生観を見事に表出させてきた。そして今回は、ドラッグによるトリップ状態の視線で、街の様子やセックスする人々を連写して、人生を超越して宇宙観にまで到達するようなイメージを体感させてくれる。まったくもって、この監督の常識を打ち破る独自性には舌を巻く。いま3D映画が話題となっているが、そのような次元を超えた作品といえる。それもそのはず、『アバター』のSFXクリエーターも参加した映像マジックは、死後の魂の浮遊感を実体験している錯覚に陥らせてしまうほどリアルだ。
【プロフィール】
1963年、ブエノスアイレス生まれ。13歳のときにフランスへ移住。1991年『カルネ』でカンヌ映画祭国際批評家週間賞を受賞。 アニエスb.の資金援助により『カノン』を録り、1998年のカンヌ国際映画祭に出品。
その後、2002年に物議を醸し出した問題作『アレックス』を発表し、再度カンヌ映画祭を震撼させたフランス映画界の異端児。
【STORY】
ネオンきらめく東京は歌舞伎町辺りで暮らすフランス人青年・オスカーは、幼い頃別れた妹と一緒に暮らすためドラッグの売人となって稼ぐ日々を送っていた。だが、妹・リンダを呼び寄せ一緒に暮らし始めるが、その内リンダはポールダンサーとして働くようになり、オスカーはドラッグに溺れ、警察の摘発を逃れようとして射殺されてしまう。死んで魂となって、愛するリンダを追い求めるオスカー……それはチベット仏教の「死者の書」に書かれていた世界を浮遊するようなトリップが展開されていくのだった。


――― 東京が舞台となっていますが、日本の感想は?
日本は以前から大好きな国の一つで、今回の撮影も上手くできたし楽しかったよ。若い頃のアマチュア時代の自主映画だとみんなが協力してくれるが、その頃とは違ってきた。今回カナダでも撮影したが、組合との関係が悪く居心地が悪かった。その点日本では、とても気持ち良く仕事ができた。
日本のスタッフは、プロ意識が強く、モチベーションが高かった。美術やセットや証明などのスタッフは30歳代以上の人が多かったが、青年のような情熱で仕事をこなしてくれて感動したよ。私のやり方は変わっていて、頻繁に方針やシナリオを変えては何度もやり直させるから、周囲をびっくりさせたと思うよ。アマチュアみたいな感覚でやったからね。フランスでもこうはいかなかったと思うよ。

――― このような映画を撮ろうと思ったキッカケは?
18〜19歳の頃、死後の世界に興味があって、それに関する様々な本を読んだり、呼吸法を学んだり、成功しなかったけど遊体離脱などを試したりしていた。このように魂が浮遊するような死後の世界をテーマにした映画は他になく、いつかは映像化したいとずっと思っていたんだ。20年経って、ようやく東京を舞台にして撮影することになって、本当に嬉しかったよ。

――― 東京を舞台にした理由は? 撮影後、日本に対する印象は変わりましたか?
20回以上日本に来ていることでも分かるように、日本が大好きだからさ。でも、日本語を勉強しようとは思わない。日本語が難しいこともあるが、日本ではアウトサイダーでいたいんだよ。来日の度に印象は良くなっていく。僕が住みたい都市はパリと東京。

今フランスの思春期の男の子はとても日本へ行きたがっているよ。かつてはアメリカだったが、今では日本がダントツ人気。その理由は、かつての「侘び寂び」の世界観だけでなく、武道や映画、文学、アニメ、食べ物など、日常的に日本のあらゆる文化が浸透してきているからだよ。その中でも、日本映画には秀作が多い。僕が持っているDVDの三分の一は日本映画。ロシアや中国のものは少ないよ。

 日本人は、仕事を完璧にこなす人が多く、向上心も非常に強いようだ。何よりも仕事を優先するなんて凄いよ。フランス人は個人主義の人が多く、お金を追求するより欲望、特にセックスに強い関心を持っているようだ。そのため、恋愛感情を大事にするけど、アメリカ人の恋愛観とはまた違うようだね。

――― 本作のトリップシーンに込められたものとは?
この映画に[R−18+]が付いてしまったため、青少年が見られないのはとても残念。私は6歳の時にスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』を見て大きな衝撃を受けた。セックスやドラッグ、さらには輪廻に至るまでを教えているこの映画を、若い人達が見られないことは不幸なことだと思う。多感な時期にいい映画に出合うことは大事なことだよ。

――― 独自の世界観と独特の色彩映像ですが、影響を受けたものはありますか?
先ず、参照した資料から得た入り交じった情報が取り憑き、後日更にいろんなものに影響を受けた結果、自分のものとなってイメージすることができたんだ。
最初のクレジットのシーンはオリジナルだが、サンダンス映画祭ではそのシーンだけで拍手されて嬉しかった。でも、ラストの方の男性性器が映るシーンでは笑いが起こり、それは意外だった。真面目に撮ったのに、もう一本作り直さなければと思ったよ。
――― カンヌ映画祭は如何でしたか?
僕にとっては大きなお祭りだよ。際限なく続くパーティ、結局何をしたか分からなくなるような所だね(笑)。

 あまり協調的ではないのか、フランス映画祭のオープニングセレモニーにも参加せず、独自路線で映画祭を楽しんでいたようだ。そして、安易に解釈されるのを嫌いながらも、常に評価を気にするような神経質な面も垣間見られた。一筋縄ではいかない気難しさはあるもの、少年のようなナイーブで創造力豊かな感性だけは突出しているように感じた。

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