主人公の美江(内山理名)は、幼い頃に父を亡くし、在日韓国人の母明子(黒田福美)に育てられ、韓国企業への転職活動を行うOL。ある日人事異動で韓国から赴任した上司ユウ・ジョンベ(キム・ウンス)に運命的なものを感じた美江は、年下の彼がいるにもかかわらずジョンべを散歩に誘う。散歩を重ねるうちに、美江はジョンべの過去を知り、過去に愛した女性のことを知るのだった・・・。
美江とジョンべの恋と並行して語られるのは、30年前のジョンべの恋。1980年5月に韓国で起こった広州民主化運動(学生や市民と戒厳軍との抗争)という歴史的な民主化のための衝突の最中で、一つの恋が生まれ、儚く消えたのだ。ラブストーリーとしての要素を強めるだけでなく、韓国の人々がその歴史にどう向かい合ってきたのかキム・ウンスの滲み出る演技を通して垣間見ることができるだろう。
深く愛する人が愛してはいけない人と気付く美江を、キャメラは遠くから彼女が醸し出す言葉に出来ない感情まるごと映し出す。誰にも言えない秘密を抱えて生きている明子の表情、命がけの民主化運動の傷跡とそれからの人生が浮かび上がるようなジョンベの後ろ姿。役者たちの漂わせる演技が見ている者の心に沁みる。ストーリーに随所に散りばめられた東京の空は、韓国に繋がる架け橋にも見えた。 |