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【シネルフル】
HP管理者:

河田 充規
河田 真喜子
原田 灯子
藤崎 栄伸
篠原 あゆみ

〒542-0081
大阪市中央区南船場4-4-3
心斎橋東急ビル9F
(CBカレッジ心斎橋校内)
cine1789@yahoo.co.jp


新作映画
 潜水服は蝶の夢を見る

『潜水服は蝶の夢を見る』 (Le Scaphandre et le Papillon)
〜決して“希望”を見失わなかった一人の男の実話〜

(2007年 フランス、アメリカ 1時間52分)
監督:ジュリアン・シュナーベル
原作:ジャン=ドミニク・ボビー
出演:マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエ、マリ=ジョゼ・クローズ、アンヌ・コンシニ、マックス・フォン・シドー
2/16(土)から梅田ガーデンシネマ 、シネマート心斎橋、京都シネマ、シネカノン神戸、他にて公開

公式ホームページ→ 

 映画を観終わって二つのイメージが心の中を交錯した。海中で、重力のためどこまでも沈んでいく潜水服と、草花の中を自由に舞い飛ぶ蝶のイメージ。悲しみの底に引きずり込むような過酷な運命と、ジャン=ドミニク・ボビーのあまりに痛々しい姿に、正直、戸惑いも感じた。しかし、屈することなく、果敢に挑戦し、生きようとした彼の姿から感じるのは、希望であり、自由だ。身体は車椅子やベッドに縛り付けられていても、彼の心は、蝶になって飛ぶことができたと思うと、あらためて涙がこみあげてきた。

  ファッション誌「ELLE」の編集長だった42歳のジャン=ドミニクは、ある日突然脳梗塞で倒れ、左目以外は麻痺して動けなくなる。思考や記憶、意識はもとのままなのに、話すことはおろか自力で呼吸もできない。「ロックト・インシンドローム(閉じ込め症候群)」である。
 映画は、何十日もの昏睡から意識を取り戻したばかりのジャン=ドミニクの視点で始まる。観客は、彼の顔や姿を知らないまま、彼の左目から見た、ぼんやりとした狭い視界と向き合うことになる。自分を見つめる医者や看護師達の心配げな顔。相手の問いかけに答えたつもりなのに、心の中の言葉にとどまり、相手の耳に届くことはない。言いたいことを伝えられない辛さ、息苦しさがリアルに伝わってくる。
 彼は、唯一動く左目の瞬きによりアルファベットを識別し、コミュニケーションをとる術を身につけると、今までの人生を振り返り、手記を書き始める。何十万回もの瞬きという気が遠くなるような作業だが、冷静な思考、詩情あふれる感性、暖かいユーモア、家族への愛が綴られた手記の言葉たちは、観客を勇気づけ、ときに驚かせる。映画も次第に、彼の主観ショットを離れ、客観的に彼の姿をとらえるようになる。

  記憶と現在が交差し、まばゆい光の中でとらえられた家族や恋人の姿は限りなく美しい。深い悲しみに包まれながらも、思い出という宝石箱を胸に、想像力という名の翼で、内面世界をどこまでも高く、自由に飛ぼうとした彼の姿は、どんなことがあっても希望を持ち続けることの尊さを、私たちに教えてくれる。 
(伊藤 久美子)ページトップへ
 いつか眠りにつく前に
 『いつか眠りにつく前に』
〜後悔と失敗。そこから生まれたものにこそ人生の意味がある〜

(2007年 アメリカ 1時間57分)
監督:ラホス・コルタイ   
出演:クレア・デインズ、トニ・コレット、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリープ
2/23 〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズ二条、三宮シネフェニックス 他
公式ホームページ→ 
 女性ならば誰もが願う。「たった一度きりの人生、美しく咲き誇って散りたい」と。だが、夢も恋も何一つ花開かずに「最期」が訪れても、自分の人生を愛せるだろうか?
 2人の娘に見守られ、静かに人生の終焉を迎えようとしている老婦人・アン。彼女の脳裏に浮かぶのは、40数年前のある夏の記憶。親友の結婚式で訪れた海辺の町で、アンは医者のハリスと燃えるような恋に落ちた。しかし、それが思わぬ「悲劇」を引き起こす…。

  自分に対する「疑問」は常につきまとう。なぜなら、どんな選択にも“絶対”はないから。「後悔」という重い荷物を背負って“迷子”のまま人生を過ごしてきたアンに、自分を重ねてしまう人は多いだろう。そんな彼女が親友との再会によって、ようやく過去と「和解」する姿は、観客の心をも解放するようだ。
 確かな脚本、夕焼け、海、雨さえも絵画のように美しい場面の数々。これらと、C・デインズを始めとするキャスト陣の演技が溶け合った“化学反応”はお見事。さらに2組の女優の“母娘共演”がスクリーンに至上の輝きをもたらしている。

 ラストでアンが娘に残す言葉。それには、人生への「哀」ではなく「愛」が溢れていた。
 
(篠原 あゆみ)ページトップへ
 エリザベス ゴールデン・エイジ
『エリザベス ゴールデン・エイジ』
〜 女王の戦い、女としての闘い〜

 (2007 イギリス 1時54分)

監督:シェカール・カプール
出演:ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ、クライヴ・オーウェン
2月16日(土)  TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、 TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸 他にて

公式ホームページ→ 
 バッサリと長い金髪を切り捨てた衝撃のラストシーン。前作で、「女王」として生きる運命を受け入れたエリザベス。宗教問題による国内外に渦巻く陰謀の数々を切り抜け、いかにして彼女は「黄金時代」を築き上げたのか? 本作ではその軌跡がきらびやかに、かつスリリングに展開していく。

  一方で、「女王」と「一人の女」との間で揺れ動く心の機微が瑞々しく躍動する。航海士のウォルターと出会い、
決して花開くことのない蕾が少しずつ膨らんでいくように、エリザベスの女心が息吹きだす。一人の女として、彼と交わす最初で最後のキスは甘く切ない。
 思わず息を詰めてしまうほどの、ケイト・ブランシェットの圧倒的なカリスマ性に酔いしれて!
(原田 灯子)ページトップへ
  change the WorLd
『L change the WorLd』
〜天才探偵L。その知られざる素顔と“最期”の日々〜

監督:中田秀夫   (2008年 日本 2時間8分)
出演:松山ケンイチ、工藤夕貴、福田麻由子、高嶋政伸
2/9 〜 梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他

公式ホームページ→ 
 2006年に公開され、大ヒットを記録した『デスノート』前・後編で、殺人鬼キラと熾烈なバトルを繰り広げた天才探偵L。事件解決のため、命を失った彼の最期の23日間を描いたスピンオフが、この『L change the WorLd』。
 キラと同じく“世界を変えよう”とするテロ集団が出現。Lは彼らを阻止するべく立ち上がる。本物のジャンボジェット機を使用したクライマックスの攻防戦は見もの!しかし、本作最大の魅力は、謎に包まれた男・Lがママチャリに乗り、メイドカフェへ行くといった、まさかの“茶目っ気”だ。事件の鍵を握る2人の子供と共に行動するうち、ぎこちなかった“子守”が板についていく様子も可笑しく、ほほえましい。
  演じた松山ケンイチは「Lでできることはこれで最後になるかもしれないので、やりたいことは全てやり切った」と、清々しいコメント。

 死へのカウントダウンの中で出会った「生」にLは何を感じたのだろうか? 「『デスノート』でLが死に際に見せた微笑が印象的で、あの表情に繋がるような映画にしたかった」という中田秀夫監督。その想いは、23日間でLにもたらしたものの大きさを物語るようなラストへと昇華されていた。 
(篠原 あゆみ)ページトップへ
 ラスト・コーション
『ラスト・コーション』
〜金獅子賞受賞。世界が騒然とした愛の問題作〜

(2007/中国/158分/R-18)
監督:アン・リー
出演:トニー・レオン タン・ウェイ ワン・リーホン
2月2日(土)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸 他にて公開
公式ホームページ→ 
 映画職人アン・リーが、またもや「禁断の愛」に挑戦。愛してはいけない人を愛してしまった女スパイの哀しい運命を、濃密にめまいがするほど美しく赤裸々に描き出す。

  1942年日本占領下の上海。仲間と共に抗日運動を行うワンは、敵対する特務機関の中心人物イーの暗殺計画に参加する。マイ夫人と名乗りイーに接近した彼女は、彼の愛人になることに成功。殺害の機会を窺うが…。
 2人きりの逢瀬。肌を重ねて知った愛の至福。用心深く誰にも本音を漏らさないイーが「お前は信用する」と不意に笑顔を見せたとき、ワンの任務が宿命のラストへと加速していく。ワンを演じた無名の新人女優タン・ウェイと、イー役のトニー・レオンが見せる心と身体の愛のリアリティは衝撃的だ。
(中西 奈津子)ページトップへ
 アメリカン・ギャングスター
『アメリカン・ギャングスター』
〜リドリー・スコットによる渾身の叙事詩〜


(2007年 アメリカ 2時間37分)
監督:リドリー・スコット
出演:デンゼル・ワシントン、ラッセル・クロウ、キウェテル・イジョフォー
キューバ・グッディングJr、ジョシュ・ブローリン
2/1(金)〜 TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマミント神戸他にて公開

公式ホームページ→ 
 2人の男の姿を客観的に捉えた映像がいい。

  フランク・ルーカスは,純度の高いヘロインを安く売って莫大な利益を上げた麻薬王だ。一方,リッチー・ロバーツは,刑事だが,容疑者の車にあった現金を着服するのを拒んで仲間から疎まれる。そんな2人の生き様が厚みのある映像の中で並行してゆったりと描かれ,やがて接点が生まれて物語は佳境に入る。
 前半では,フランクが頂点にまで上り詰める経緯が興味深くアクティブに描かれる。これに対し,リッチーの生活は今一つ地味な感じで冴えない。だが,彼が新たに組織された麻薬捜査班の責任者になると,フランクが追い詰められる予感が漂い,スリリングな展開が味わえる。その結末は,意外とほろ苦い。
(河田 充規)ページトップへ
 ウォーター・ホース
『ウォーター・ホース』
〜“伝説”が素敵な「物語」となって再び輝く〜
 
監督:ジェイ・ラッセル   (2007年 アメリカ 1時間52分)
出演:エミリー・ワトソン、アレックス・エテル、ベン・チャプリン
2/1〜 梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他
にて公開
公式ホームページ→ 
 大好きな父親が戦地から戻るのを願う少年・アンガス。孤独な彼が初めて心を許せた「友」。それは、世界にたった一匹だけの生き物、ウォーター・ホースだった。

 1人の少年と不思議な生き物の「魂」の触れ合いを描いた本作。発想の源はなんと、あのネス湖の“ネッシー”伝説!「命」を慈しみ、育てることは自らの「心」も育てているのだと感じさせられる、優しさに満ちた物語。ウォーター・ホースの“卵”や“皮膚”は「本当にいるかも…」という想いが膨らむほどリアルだ。
(篠原 あゆみ)ページトップへ
 チーム・バチスタの栄光
『チーム・バチスタの栄光』
〜“このミス”大賞受賞作、待望の映画化〜


監督:中村 義洋(2008年 日本 2時間)
出演:竹内結子 阿部寛 吉川晃司
2月9日〜全国東宝系
ロードショー
公式ホームページ→ 
 バチスタ手術とは、拡張型心筋症患者の肥大した心臓を一部切除し、心臓の収縮機能を回復させるというものである。東城大学付属病院は優秀な人材を集め「チーム・バチスタ」を結成、成功率60%といわれるこの難易度の高い手術を連続26回に渡り成功させた。しかし記録は突如ストップ、ここ3例は失敗に終わっている。患者の死は避けられないものだったのか?あるいは人為的なものなのか!?院内における原因調査が始まる。
 ここ数年医療ドラマが人気を呼んでいるが、人物でも症例でもなく手技そのものをフィーチャーするという切り口は珍しい。それもそのはず、原作者は現役ドクターだ。海堂尊氏は本作でミステリーファンには有名な「このミステリーがすごい!」大賞を受賞している。医師ならではの知識と経験で、一般にはあまりなじみのない症例や手技をわかりやすく説明しながらストーリーに取り込んだ。監督は「アヒルと鴨のコインロッカー」の中村義洋。
 チーム7人のメンバーを竹内結子演じる診療内科医との面談という形で紹介するところが面白い。これはドラマがミステリー性を帯びてくる後半、そのまま容疑者リストとなる。

  ストーリーは竹内結子主導から厚生労働省職員の阿部寛へとバトンを渡す二部構成になっており、緩やかに流れる前半に比べ後半のドラマは急展開を見せる。全体を包む軽妙なタッチがストーリーに必要な予備知識を無理なく観客に理解させてくれるが、その反面ここ一番というところでもあまり緊迫感が感じられず、“真相”が伝えるべき苦悩が見えづらいのが残念。しかし、おっとりした竹内と舌鋒鋭い阿部の掛け合いは見ものだし、ベテラン勢が淡々と演じる心療内科での診察風景など、謎解き意外の部分にも注目したい。
(山口 順子)ページトップへ
 ちーちゃんは悠久の向こう
『ちーちゃんは悠久の向こう』
〜新感覚のミラクルワールド,不思議で爽快!〜

(2007年 日本 1時間34分)
監督:兼重淳
出演:仲里依紗(なか りいさ)、林遺都(はやし けんと)、高橋由真、堀部圭亮、西田尚美
2月9日〜テアトル梅田(モーニングショー)、109シネマズHAT神戸 にて公開
公式ホームページ→ 
 学園ホラー,ファンタジー,ラブストーリー,家族のドラマなど,色々な要素を盛り込みながら,決して散漫になることなく,鮮やかにラストに収れんしていく。

  オープニングからしばらくの間は,まるで高校1年になった主人公モンちゃんと幼馴染みのちーちゃんの初恋ものというような,どこにでもありそうな表情をしている。だが,1年間休学していたという怪しげな同級生が出て来たり,ちーちゃんがオカルト研究会に入って学校の七不思議を発見したりすると,ホラーっぽい色調を帯びる(しかも,ちーちゃんの母親役であの”学校の怪談”シリーズの西田尚美が登場する。)。また,やや中途半端ながらもモンちゃんの両親の離婚問題も挿入されている。細部にこだわると不満が残ってしまうかも知れないが,全体の大きな流れの中では,実に不思議な感覚を味わえる。
 かなり前になるが,映画全編が壮大なアヴァンタイトルとなって閉じられた夢の世界を描いたアニメ「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(監督・脚本:押井守)があった。本作でも,ラスト近くになって漸くタイトルが映し出される。その後はモンちゃんの自宅のシーンと学校の屋上のシーンだけで,10分に満たない。これを蛇足と受け取るか,この2つ,特に後のシーンにドラマの全てが集約されていると受け止めるか,それは観る人の感性に委ねられているといえよう。
 ただ,まるでサイレント映画の字幕のように,しかも絶妙のタイミングで,タイトルが目に飛び込んでくることだけは間違いない。この瞬間に全てが納得できる。さり気なく全編に散りばめられた数々の疑問が一挙に氷解するというカタルシスを味わえるのだ。
 学校の屋上,苔地蔵の前,バスの中などでちーちゃんの存在がモンちゃん以外の人の目に入っていないようなシーンがある。モンちゃんが前述の怪しげな同級生から「それ,うっとうしくない?」とか「気を付けて」とか言われるシーンがある。モンちゃんとちーちゃんが遊ぶ1997年の,本来ならこの部分だけがアヴァンタイトルになっていたはずのオープニングのシーンは,その後の本編というべき,高校1年になった2人の学校生活を描く2007年のシーンと,どのように関連するのか。
 真の主役は美しく咲き誇る桜の木なのかも知れない。かつての「桜の森の満開の下」や「ツィゴイネルワイゼン」,最近の「花影」同様,桜の花が作り出した幻影に眩惑される。
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 シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録

『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』
〜久々に味わう小劇団の空気がたまらない〜

(2007年 日本 1時間42分)
監督:大島新
出演:唐十郎、鳥山昌克、久保井研、辻孝彦、稲荷卓央
藤井由紀、赤松由美、丸山厚人
2月23日〜第七藝術劇場 にて公開
公式ホームページ→
 

 唐十郎が2006年秋に「行商人ネモ」の脚本を執筆してから2007年春の紅テントでの公演に至るまで,映画監督大島渚の二男・大島新が唐十郎と劇団唐組の劇団員に迫っていく。本作で描かれた7割は真実,2割は虚構で,残りの1割は虚実不明だという。確かに,カメラは唐十郎の存在によく肉薄しているが,彼自身が自分を演じているかも知れないし,自分をさらけ出しているのか他者を演じているのかの区別がつかない不可解な部分もある。

  閉館になった近鉄小劇場のこけら落としが唐十郎書き下ろし「ビニールの城」の劇団第七病棟による公演だった。このとき,石橋蓮司と緑魔子により演じられた唐ワールドに魅了され,唐十郎の名前がしっかりとインプットされた。その後,李麗仙らがいた唐組の紅テント公演では,いきなり舞台の奥がオープンになり外の世界が目に飛び込んできて舞台空間の一部になるという驚きを体験する。これが小劇場,特にテント公演の魅力の一つだ。

  このような魅力ある舞台が一体どうやって創り上げられるのか,本作ではその一端を見ることができる。特に興味深いのはやはり舞台稽古のシーンだ。細かなセリフや動きであっても,芝居全体に大きな影響を及ぼすことがある。たとえば,「はいミシンです」というセリフでは,「はい」の後に間を置かない,読点も入れないと指示される。また,劇団員が演技し,ダメ出しをする唐十郎が実際に手本を示すと,なるほどリアリティが違うのだ。

  また,劇団員は,俳優であると同時に美術,照明,宣伝等をすべて担当する。普段の生活でも,酒を飲めば唐十郎から色んな要求が繰り出され,それに応じないといけない。彼は,舞台の話になると厳しく,劇団員はもちろん,大島新も叱責される。それでも,唐十郎に魅せられ,劇団唐組の舞台に立って恍惚感を味わいたいという思いがエネルギーとなり,彼の下で修行を続ける。こうして劇団唐組がシアトリカルな世界を生み出してきたのだった。
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 KIDS
『KIDS』
〜傷も痛みも“分かち合う”。純粋な友情の美しさが胸を打つ物語〜

(2007年 日本 1時間49分)
監督:荻島達也  原作:乙一  
出演:小池徹平 玉木宏 栗山千明
2月2日(土)〜梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、三宮シネフェニックス 他にて公開

公式ホームページ→ 
 心に受けた「傷」の痛みや苦しみを“自力”で乗り越えるのは困難だ。「迷惑かけるのも承知、ケンカするのも承知。」そんな風に、“誰かを信じて頼ること”こそが「傷」を癒す何よりの“薬”となるのではないか。

 寂れた街で荒んだ生活を送る青年・タケオは、ある日、アサトという少年に出会う。チンピラに絡まれたアサトを救い、怪我をしたタケオは驚くべき出来事を体験する。タケオの傷を、アサトは自分の体に“移動”させたのだ。やがて2人は共に行動するようになり、常連のダイナーで働く女性・シホと3人で友情を育んでいく。だが、アサトにはその“特殊な能力”のせいで悲劇を招いてしまった過去があった…。
 アサト、タケオ、シホの3人はそれぞれに深い「傷」を抱え、孤独に生きてきた者同士。あちこち錆び付いて、もはや誰からも必要とされていないであろう小さな公園を、彼らが“リフォーム”する場面がある。まるで、心の「傷」を修復しようとするかのように公園を生まれ変わらせていく3人。常に「過去」という影がまとわりついている彼らに、初めて「未来」という明るい光が射しこむ、とても印象的なシーンだ。
 「体」を傷つけることで「心」の痛みに気付かないふりをし、他人の傷をどんどん自分の体に移していくアサト。そんな彼を見ていられず、“傷の捨て場所”を与えるタケオ。アサトを過去のトラウマから克服させようとしていたタケオだが、彼から思いもよらぬ言葉を突きつけられ、自らもまた、目を背けてきた“存在”と対峙することになる。彼らは、前に踏み出すことができるのだろうか…?

 ピュアで繊細なアサトを演じた小池徹平と、心優しきアウトロー、タケオを魅力的に演じた玉木宏は共にハマリ役。女性の“ツボ”を集中攻撃するような切ない表情、言動でとことん魅了する。この2人の力強くも透き通るような存在感は、ファンタジーの中に人間ドラマを深く息づかせた、乙一の原作が持つパワーに負けない輝きを放っている。

 自分が立ち直ろうとしなければ、人を立ち直らせることはできない。ならば、独りではなく、共に進めばいいと、この映画は優しく語りかけてくる。「人生」を走り抜くのは紛れもない自分自身であるが、“マラソン”より、“二人三脚”が必要なときもあるのだ。
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 君のためなら千回でも (原田バージョン)
『君のためなら千回でも』
〜本当の「信頼」とは、相手を思いやり自分を信じること〜

(2007年 アメリカ 2時間09分)
監督:マーク・フォースター
出演:ハリド・アブダビ、ゼキリア・エブラヒミ、ホマユーン・エルシャディ
アフマド・ハーン・マフムードザダ、ショーン・トーブ、アリ・ダネシュ・バクティアリ
2008年2月、恵比寿ガーデンシネマ、シネスイッチ銀座ほか全国にて公開
関西地区は、2月23日〜梅田ガーデンシネマ、なんばパークスシネマ、シネカノン神戸、順次京都シネマにて公開

公式ホームページ→ 
 「君のためなら千回でも」、この愛と信頼に満ち溢れた言葉をアナタは2度耳にする。伝える人は変わっても、言葉に込められた魂が生き続けていた素晴らしさを感じて欲しい。例え形は違っていても、後悔を癒す術が失われることは決してないのだろう。

  2000年、サンフランシスコ。アミールに夢だった自分の小説が届いた日、1本の電話が鳴る。それは、故郷・アフガニスタンの恩人からだった。彼は「重大な真実を伝えたいこと」と「やり直す道があること」を伝え、祖国への帰郷を呼びかける。
 少年時代―裕福な家に生まれたアミールと使用人の子ども・ハッサンは、家族同様の固い絆で結ばれていた。しかし、2人が凧揚げ合戦で名誉ある優勝を勝ち取った日に起こった出来事が引き金となり、アミールはハッサンに大変な過ちを犯してしまう・・・。

 消えることのない深い後悔の念と、固い決意を胸にアミールは、タリバン独裁政権下のアフガニスタンに向かう。そこで彼を待っていた衝撃の運命とは!
 触れたくないような人間の生々しい感情を突きつけられた時、思わず目を背けたくなる。でも、目を背けるどころか物語にどんどんと引き込まれてしまうのは、絶えず「あなただったら?」という声を感じるから。アフガニスタンの民族構成は複雑だ。自分と立場や考え方の違う人の目線を持つことって、時に拒否反応が出るほど難しいこと。しかし、本作では登場人物の「現在」から「過去」を見てとれるような、さり気なくも緻密な計算がなされていて、どの人物のことも理解しようとする自分がいることに気づくだろう。

  色鮮やかな凧がまるで意志を貫くかのように、羊雲が浮かぶ群青色の高い空を切り取っていく。大地には、少年達の純粋な眼差し。アフガニスタンの「自由」を象徴しているかのようなこの光景は、何ものにも代えることのできない美しさである。 時に緊迫感と重苦しさが立ち込める重厚なドラマだが、胸をすくようなラストに救われる。
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 君のためなら千回でも (河田バージョン)
『君のためなら千回でも』
〜心の奥底に封印した過去から解放されるとき〜


(2007年 アメリカ 2時間09分)
監督:マーク・フォースター
出演:ハリド・アブダビ、ゼキリア・エブラヒミ、ホマユーン・エルシャディ
アフマド・ハーン・マフムードザダ、ショーン・トーブ、アリ・ダネシュ・バクティアリ
2008年2月、恵比寿ガーデンシネマ、シネスイッチ銀座ほか全国にて公開
関西地区は、2月23日〜梅田ガーデンシネマ、なんばパークスシネマ、シネカノン神戸、順次京都シネマにて公開

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 主にアフガニスタンを舞台として,1978年と2000年のそれぞれのアミールの姿が描かれる。この2つの年に彼はアフガニスタンで人生において大きな節目となる経験をすることになる。これに民族や主義主張の違いなどの社会性も背景としてくっきり描かれている。

  彼は,父親の友人からもう一度やり直すことができると言われる。一体何をどのようにやり直すのか,興味を引かれるオープニングだ。ラストでは,人は後悔の念を抱えていても,チャンスさえ見逃さなければ,人生をやり直すことができるという希望が与えられる。
 父親が息子アミールについて「自分を守れない子供は何も守れない大人になる」と言う。アミールは,兄弟同然のハッサンを守れなかった自分を認めたくない思いから,彼を陥れて追い出してしまう。この卑劣な行動に出た自分を許せず,心の奥深くに封印している。

 そんな出来事があった翌1979年にはソ連軍がアフガニスタンに侵攻してきた。それまでの平和な時代には,子供たちによる凧揚げ合戦が行われていた。彼らの生き生きとした様子や町と自然の風景が美しく撮されている。
 ところが,2000年には完全に昔の面影が失われている。その落差にはアミールでなくてもガクゼンとさせられる。荒涼とした風景が果てしなく広がっていた。加えて,祖国に留まった人と祖国から出て行った人との間の微妙な葛藤まで描かれ,広がりを見せてくれる。
 また,使用人の子ハッサンはハザラ人だが,アフガニスタンでは長年パシュトゥーン人の王朝が続いたため,今なおパシュトゥーン人の国という意識が強いという。その歴史を踏まえ,現在の憲法では全国民をアフガニスタン人と称することが宣言されているそうだ。

 このような歴史的,社会的な背景の中で,1978年にはアミールやその父親とハッサン,2000年にはアミールとハッサンの息子を巡るストーリーが展開する。特に前半では,家から出て行くハッサンを見送らざるを得ないアミールの父親の姿が印象的で,後半へと繋がる重要な伏線となっているので,見逃せない。

 後半は,アミールがハッサンの息子を守るために立ち上がり,アクション映画のようなスリリングな展開も見せてくれる。やがて,アミールの父親のハッサンに対する思いと,アミールのハッサンの息子に対する思いが,時代を超えて重なり合ってくる。ラストの凧揚げは,封印を解いて新たな出発点に立ったアミールを祝福するようで,爽やかな感じだ。

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 歓喜の歌
『歓喜の歌』
〜笑って泣ける喜劇の王道 それぞれの思いを乗せて 響け!歓喜の歌〜


(2008年 日本 1時間52分)

監督:松岡錠司
出演:小林薫 伊藤淳史 由紀さおり 浅田美代子 安田成美
2008年2月2日〜梅田ガーデンシネマ TOHOシネマズなんば 京都シネマ シネカノン神戸 他 

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 ♪ザ アイン クナープ アイン ルースライン シュティーン♪わ・ら・べは、見〜た〜り「野なかのバラ」の原語版(ドイツ語)である。中学生の頃に音楽の授業で習った歌詞が思わず口をついて出た。

  ここは、とある地方都市“みたま町”。主任以下職員3名の小さな文化会館で年の瀬も押し迫ったある日、事件は起こった!大晦日のママさんコーラスのコンサート会場がダブルブッキングされていたのだ。犯人は、無気力・無関心・無責任の3拍子揃った男、飯塚主任(小林薫)。“みたまレディースコーラス”と“みたま町コーラスガールズ”実力派レディースと弱小ガールズのガチンコ対決!さて、軍配はどちらに!?
 原作は立川志の輔の新作落語。落語という一人語りの世界を「東京タワー オカンとぼくと、時々、オトン」の松岡錠司が群像劇へ脚本展開し、さらに映像の世界へと発展させた。その手腕はさすが。登場人物の多さにも関わらず、物語を混乱させることも人物を混同させることもなく描き分け、一場面きりの出演者も絶妙な味つけになっている。そして、何と言っても主演の小林薫の愛すべきダメっぷりがこの映画の肝となった。
 歌は一瞬で心を解き放つ。普段は魚売り場の口上に野太い声を上げている平澤由美のソプラノソロは歌う歓びを体現している。また、病院への慰問などここでは歌が市井に生きる人々の生活と密着して描かれている。そもそもママさんコーラスそのものが、忙しい家事や育児の合間、道具を必要とせず体ひとつで始められる、生活に密着したライフワークなのだ。私もそんなママさんを一人知っている。お母さん、おばあちゃん、親戚のおばさん、ここにはそんな身近な誰かがいる。

  由紀さおり・安田祥子姉妹がママさんエキストラ70人をリードしての「トルコ行進曲」は壮観だし、エンディングで流れるクレイジーケンバンドのあの曲が、まるでカーテンコールのように、素朴で温かな物語を気持ちよく締めくくってくれる。それはまた、私たちの物語でもある。
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