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★ フランス映画祭2010 上映作品紹介
オーケストラ!(河田充規バージョン)
『オーケストラ!』 (Le Concert)
〜コミカルでミステリアスにクラシック!〜

(2009年 フランス 2時間04分)(配給:ギャガ)
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アレクセイ・グシュコブ,ドミトリー・ナザロフ,メラニー・ロラン,フランソワ・ベルレアン,
    ミウ・ミウ,ヴァレリー・バリノフ,アンナ・カメンコヴァ・パブロヴァ
2010年GW〜Bunkamura ル・シネマ/シネスイッチ銀座、
        梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、神戸国際松竹、他全国順次公開

監督インタビュー⇒  こちら
公式サイト⇒  http://orchestra.gaga.ne.jp/

 チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に封印された哀しみが胸に迫ってくる。アンドレイ・フィリポフは,ボリショイ劇場の指揮者だったが,ある出来事のために30年間リハーサルの見学さえ禁止されていた。“伝説の指揮者”は,支配人レオニードより先にパリのシャトレ座からの招聘のFAXを見てしまう。そのとき,彼に内緒で正式の指揮者になりすまし,パリでタクトを振る決意を固める。2週間後の公演に向けて時間が動き始める。
 アンドレイは,アンヌ=マリー・ジャケをソリストに指名する。2人の会食シーンがいい。アンヌ=マリーは親の眼差しを求め続けていた。アンドレイは1980年に遡ってヴァイオリン奏者レアの話を始める。究極のハーモニーを追い求めた狂おしい感情が宙を舞う。一方,チェロ奏者のサーシャは,アンドレイが妻にも伏せていた事情に気付いてしまった。彼がアンヌ=マリーに言いたいことを堪えている姿は,もどかしくも切なさが込み上げる。
 監督は,1980年フランスに移住したユダヤ系ルーマニア人だ。ユダヤ人に対する共産党の迫害を背景に据えながら,それを諧謔的に笑い飛ばすパワーがある。アンドレイは,パリ公演の実現のため,イワンに援助を求める。だが,彼こそアンドレイにとって仇敵と言うべき人物だった。そのバリバリの共産党員が固執した“トゥル・ノルマン”という店はもはや存在しない。彼がパリでのコンサートの直前にその成功を神に祈るのは痛快な皮肉だ。

 しかも,ボリショイ劇場の支配人がたまたま休暇でパリにやって来るという,ちょっとしたサスペンスも盛り込まれる。レオニードの名前はブレジネフを意識したものに違いない。「私がボリショイだ」と言う戯画的なカットは見逃せない。その他,救急車で走り回って集めた元団員の中には商魂の逞しいユダヤ人ヴィクトルがいる。集合場所から空港までの過程や,空港で旅券とビザを手に入れる状況など,誇張された笑いが奇跡へと連なる。

 いよいよコンサートが始まる。アンヌ=マリーのヴァイオリンの音色に触発されたように,それまで冴えなかったオーケストラが息を吹き返す。魔法のようにあり得ない出来事が実現した感動は大きい。音楽と映像が,アンドレイが語れなかったレアの話の続きを紡ぎ出していく。演奏を終えた2人が向き合うストップモーションのエンディングが洒落ている。それは,アンドレイにとっての償いだった。そのとき,彼は呪縛から解き放たれる。

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オーケストラ!(原田灯子バージョン)
『オーケストラ!』  (Le Concert)
〜30年間夢見続けたハーモニーを今、奏でよう♪〜

(2009年 フランス 2時間4分) (配給:ギャガ)
監督・脚本:ラデュ・ミヘイレアニュ 
出演:アレクセイ・グシュコブ、ドミトリー・ナザロフ、メラニー・ロラン

2010年4月GW〜 Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座他全国順次ロードショー
関西では、梅田ガーデンシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、他全国順次公開
監督インタビュー⇒  こちら
公式サイト⇒  http://orchestra.gaga.ne.jp/
 それは一枚の出演依頼のFAXから始まった! ロシア・ボリショイ交響楽団の劇場清掃員で元・天才指揮者、アンドレイ(A・グシュコブ)はひらめいた。ボリショイ交響楽団と偽って昔の仲間とパリ・シャトレ劇場で演奏する!?と。当時のユダヤ人排斥の政権下でユダヤ人の楽団員をかばい指揮者の座を奪われたが、この30年間、彼は一つのハーモニーを思い続けてきた。曲はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。ソリストには、スター・ヴァイオリニストのアンヌ=マリー・ジャケ(M・ロラン)。パスポートは偽造品、楽器は現地調達、リハーサルは一切なしのやりたい放題。突拍子もない状況での人々の逞しさがユーモラスに描かれる。はたしてコンサートの行く末は?

  楽団員達の思いが音として共鳴し合い、不協和音が崇高なハーモニーへ昇華していく時、彼らの中で止まっていた時間が熟成されて再び動き出す。その心が震えるような瞬間にゼヒ立ち会って。
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ミックマック
『ミックマック』(原題)(Micmacs a tire-larigot)
〜世界の平和に貢献!?
       ジュネ流リベンジのススメ〜


(2009年 フランス 1時間44分) 配給:角川映画

監督:ジャン=ピエール・ジュネ  
出演:ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ、ドミニク・ピニョン

2010年夏 恵比寿ガーデンシネマ他全国ロードショー 
 バジールは、父親を地雷で亡くし、自らも銃撃事件の巻き添えとなり家も仕事も失い、廃品回収業の仲間達と武器製造会社に復讐を誓う。彼等は、廃品を使った道具を次々と発明するが、決して武器を作らず、なんともアナログ的な方法で攻撃を仕掛ける。

 復讐劇も『デリカテッセン』や『アメリ』のジュネ監督に掛かると、ブラックユーモアたっぷりの温もりのある痛快劇になってしまうから不思議だ。お馴染みの超個性的な人物像やコケティッシュで濃厚な映像が醸し出す、どこか異次元の世界観も健在。だが、武器製造業者が得る巨万の富とは膨大な数の犠牲者の上に成り立っているのも事実だろう。

 昨年上映された『コード』でも頼りなげだが愛情深い表情が印象的だったダニー・ブーンが、頭に銃弾を残したままいつ死ぬか分からないという主人公を、パントマイムを活かした演技で楽しませてくれる。バジールと愉快な仲間たちの奇想天外な活躍をご覧あれ!

(河田 真喜子)ページトップへ
パリ20区、僕たちのクラス (江口由美バージョン)
『パリ20区、僕たちのクラス』(Entre les Murs)
〜授業はライブだ!
      誰も知らない教室での先生VS生徒たち〜


(2008年 フランス 2時間8分)(配給:東京テアトル)

監督:ローラン・カンテ  
原作・出演:フランソワ・ベゴドー

2010年6月12日(土)〜岩波ホールにてロードショー
関西では、6月中旬〜テアトル梅田、近日〜京都シネマ、シネ・リーブル神戸 にて公開  
公式サイト⇒ http://class.eiga.com/cast.html
 まるでドキュメンタリーであるかのように、キャメラは職員室の教師の様子や、クラスでの授業風景を切り取っていく。授業参観では見られない「先生と生徒だけの普通の授業」で一体どんなやりとりが行われているのか。人種のるつぼのようなパリ20区の学校の教室を通じて、世界が透けて見えてくる。

 パリ20区に実在するフランソワーズ・ドルト中学校を舞台に、同中学校に在籍している学生たちや先生たちが出演し、1学年を終えるまでを描いた本作。新学期の始まりから、クラスでの授業風景が丹念に描かれている。国籍もバックグラウンドも違う生徒たちからは、授業とは関係ない質問や生徒間のいざこざが次々に勃発。それらを受け流さず、生徒が納得いくまで議論する先生の姿勢やそのやりとりは、まさにライブのような緊迫感と即興性に満ちている。
 まともに進まない授業で理屈をこねる生徒たち。そんな生徒たちの表情も、先生に誉めてもらったときには、一瞬にして嬉しそうな表情に変わる。キャメラがすかさず捉えた彼らの様々な表情はまさに本作の一番の魅力だ。日頃見落としてしまいがちな生徒たちの小さなサインが観客の胸に残る。一方で、先生に裏切られたと感じあらゆる手段で反抗を試みる生徒、先生双方の苦悩とその結論が出される過程もフランスの教育制度に忠実に描き出されている。
 正直、この教室の風景に相当驚かされた。日本の中学校の教室では、居眠りをしたり、塾の宿題をしている子はいても、ここまで先生とやりあいながら、自分を表現するような子どもたちはなかなかいないからだ。勉強が進まないという点では荒れたクラスだが、先生という存在を無視するのではなく、なんとか認めてもらいたくて皆必死で向き合っている。自身が抱える移民というバックグラウンドや言葉の不自由さを克服し、母国のアイデンティティや母国に対する誇りを主張する彼らから世界の状況が垣間見えるのだ。生々しい教育現場を映し出す本作が投げかける問いをみなさんはどう解釈するだろうか。
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パリ20区、僕たちのクラス (伊藤久美子バージョン)
『パリ20区、僕たちのクラス』(Entre les Murs)
〜生徒達と対話を続ける教師の限りない試み〜

(2008年 フランス 2時間8分)(配給:東京テアトル)

監督:ローラン・カンテ  
原作・出演:フランソワ・ベゴドー

2010年6月12日(土)〜岩波ホールにてロードショー 
関西では、6月中旬〜テアトル梅田、近日〜京都シネマ、シネ・リーブル神戸 にて公開  
公式サイト⇒ http://class.eiga.com/cast.html
 移民が多く、様々な民族の子ども達が集まる公立中学校。子ども達の言葉に真摯に耳を傾け、国語の授業を通じて、一人ひとりの個性を引き出そうと懸命な担任教師の1年を描く。実際にパリ20区の中学校に通う生徒達が演じており、ドキュメンタリーとしか思えないほど自然体の演技だ。
  何かと反抗してばかりの生徒達に、担任は自己紹介文を書くという課題を与える。生徒達の投げかけるどんな議論にも応え、真剣に意見をぶつかりあわせる場面は、緊張感にあふれ、目が離せない。生徒の無礼な態度にも理知的に向き合い、諭すように対話を続ける教師の思いがリアルに伝わり、その包容力に驚かされる。しかし、熱意は悲しくも、ときに誤解を生み、生徒の心を傷つけ、激しい反発を招いてしまう。
  学校教育の限界を描きながらも、確実に学び成長していく子ども達の姿からは、可能性と希望が感じられる。私達自身、日頃どんな言葉で他人と接し、どこまで寛容であれるのか。率直に意見を言い合う彼らの姿から教えられるものは大きい。
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あの夏の子供たち
『あの夏の子供たち』(LE PERE DE MES ENFANTS)
〜辛くても歩み続ける、それが人生〜

(2009年 フランス 1時間50分)
(配給:クレストインターナショナル)
監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:キアラ・カゼッリ、ルイ=ドー・ド・ランクザン、アリス・ド・ランクザン
2010年5/29〜恵比寿ガーデンシネマ、6/12〜梅田ガーデンシネマ、6/19〜京都シネマ、順次シネリーブル神戸 にて公開
公式サイト⇒ http://www.anonatsu.jp/
 監督自身が体験した尊敬すべき映画プロデューサーの自殺というショッキングな出来事は、新しい物語の誕生へと昇華したのかもしれない。魅力的なパリの街並みや郊外の自然の中で、家族の喪失と再生を描いた感動作。

 辣腕映画プロデューサー、グレゴワールは殺人的な忙しさの中、家族との時間を大事にしていた。そんなグレゴワールに年頃の長女クレマンスは反発した態度を示す。映画制作に精力的に関わりながらも、次第に資金繰りに行き詰ってしまったグレゴワールは、追い詰められた末自殺を図る。妻のシルヴィアはグレゴワールが追い込まれる一因となった未完の作品を完成させるべく奔走するが、クレマンスたちは父のいなくなった大きな心の穴を埋められずにいた。

 本作の前半は、華々しそうに見える映画業界の内実と、グレゴワール一家の日々がドキュメンタリーであるかのようにリアルに綴られている。光眩い自然に溢れる別荘でのかけがえのない家族と過ごす安らぎの時間。対照的に多忙な映画業界の仕事で苦境に追い込まれる様が描かれ、危ういバランスの果ての衝動的な悲劇に思わず息を呑むのだ。

 一家の要であった父グレゴワールを亡くしたシルヴィアとその娘たちの悲しみを乗り越える様子は、決して感傷にばかり浸っていない。当たり前のようにあった存在の大きさに気づき、死して初めて知る父の真実と向かい合うことで成長していく娘たち。父のいない生活でもささやかな幸せを見出す母娘の姿が心に沁みる。

 ラストに流れる名曲『ケ・セラ・セラ』。「なるようになる」、このメッセージは監督から残された家族に伝えたいことのように思える。劇中に流れるグレゴワールが手掛けた様々な映画や監督たちの言葉もまた、厳しい現状でも熱意を持ち続ける全ての映画人に対するオマージュのようだ。喪失も人生の一部、心の中で生き続ける普遍的で大事なものをあらためて見つめ直したくなった。

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 エンター・ザ・ボイド

(c)2010 FIDELITE FILMS ? WILD BUNCH ? LES FILM DE LA ZONE- ESSENTIAL FILMPRODUKTION ? BIM DISTRIBUZIONE ? BUF COMPAGNIE
『エンター・ザ・ボイド』
(Soudain le vide/Enter The Void)
〜壮大でも平凡でもない,数奇な人生の愛しさ〜

(2010年 フランス 2時間23分)
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ナサニエル・ブラウン(オスカー),パス・デ・ラ・ウエルタ(リンダ),シリル・ロイ(アレックス),オリー・アレクサンダー(ビクター),サラ・ストックブリッジ(ビクターの母親),エド・スピアー(ブルーノ),丹野雅仁(マリオ)

2010年5/15(土)〜シネマスクエアとうきゅうほか
関西では、6/5〜梅田ガーデンシネマ、6/26〜京都シネマ、6/19〜109シネマズHAT神戸 にて全国順次公開

監督インタビュー⇒  こちら
公式サイト⇒ http://www.enter-the-void.jp/

 いきなり脳髄を痺れさせる音響に鷲掴みされる。もう決して逃れられない。大きく見開かされた目に飛び込んでくる映像の数々。万華鏡のように形を変えていく巨大な結晶。ニューロンのように伸びる触手。まるでシュールレアリズムの映画が現代に蘇ったようだ。アクセントのある多様な色彩で装飾された世界。これまで見たことがなかった東京。3Dを凌駕する映像に圧倒される。カメラはオスカーの内面と外界とを彼の視線で映していく。
 スクリーンに映されるのは全て彼の心が捉えた光景だ。オスカーの心の声と現実の声がナレーションの役割を果たす。彼が銃で撃たれたときも変わらない。白濁した光が弱々しい心臓の鼓動のように明滅する。自分の死体を見下ろしている自分が存在する。肉体から遊離したオスカーの魂はすぐさまリンダの許へと引き寄せられる。オスカーとリンダは固い絆で結ばれた兄と妹。涙を流しているリンダ。そのとき幼い頃へと記憶がトリップする。
 兄と妹は「何があっても一緒にいよう」と約束するが,別々の養護施設に入れられる。両親の記憶。家族の団らん。穏やかな時間は酷く短い。車に乗った家族4人。正面衝突。死は突然やってくる。青年になった2人が「約束を覚えている?」「ずっと一緒だ」と確かめ合う。兄が妹と東京で再会するシーンは甘く優しい。その後も魂の徘徊がいつ果てるともなく続いていく。決してカメラは静止しない。この世の存在が揺らめいているようだ。
 前作「アレックス」では現在から過去へと遡るに従って幸せになっていくという倒錯したハッピーエンドの世界が展開された。本作では過去から現在,そして未来へと遡っていくことでハッピーエンドへと導かれる。死んだら戻ってくると妹に約束したオスカー。灯籠のような穏やかな光に包まれ,心は解放される。性から生に向かうエネルギー。厳かな音楽と白い光の輝き,その先に広がる天空。妹との絆を深めるようなリボーンが描かれる。
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 リグレット
『リグレット』
〜情熱や理性だけで掴みきれない愛の深さ〜

(2009年 フランス 1時間45分)
監督・脚本:セトリック・カーン
出演:ヴァレリア・ブルーニ,イヴァン・アタル,アーリー・ジョヴァー,フィリップ・カトリーヌ
監督インタビュー⇒  こちら

 何とも激しい愛に関する映画だ。建築家のマチュー(イヴァン・アタル)は,故郷に戻ったとき,15年振りにマヤ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)と再会する。そのとき,マチューには妻がいて,マヤには夫がいた。だが,2人の愛が再び燃え上がるのに時間は掛からなかった。まるでこの世に2人しか存在しないかのように互いに求め合う。これほど情熱的な2人がなぜ別れたのか。どうもマチューがマヤの前から突然姿を消したようだ。
 一方,マチューの妻リザ(アーリー・ジョヴァー)も建築家で,夫と同じ職場で働いている。そして,夫を売り込むために計画を立て,それを実行していく。彼女は,理性的に将来を見据えた上で,一定の目標に向かって行動する。マヤとは実に対照的な存在だ。リザは,マチューと一緒に堅実な結婚生活を送ってきたに違いないし,将来にも安定した幸せを求めている。その彼女に背を向けざるを得なかったマチューの苦しさが伝わってくる。
 マチューとマヤとの過去がミステリアスで,その行く末がサスペンスとなる。マチューは,マヤとの関係を断ち切ったことを後悔していた。彼女に対する未練というような単純なものではない。物事は完結したものよりも,中途で終わったものの方が,後に尾を引く。マチューの心には2人の関係を見届けずに終わったとの思いが燻っていたのだろう。マヤとの再会でその思いに突き動かされる。しかもマヤが現実に引き戻された後もなお突き進む。
 それはもはや狂気としか言いようがない。マヤと向き合っているときの狂喜は,マヤに背を向けられたとき,狂気へと変貌する。マチューがマヤの家に乗り込むシーンに至ってはスリラーと見紛うほどだ。やがてマチューは現実に引き戻されるが,そのとき2人の愛は消滅していたのだろうか。それとも,ただ愛が見えなくなっていたに過ぎないのだろうか。マチューは,リザと別れて再婚し,そしてまたマヤと再会する。そのとき,2人は…。
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 シスタースマイル ドミニクの歌

(C) 2009 PARADIS FILMS - LES FILMS DE LA PASSERELLE - EYEWORKS FILM & TV DRAMA - KUNST & KINO

『シスタースマイル ドミニクの歌』 (Soeur Sourire)
〜愛されなかった彼女が愛に包まれるまで〜

(2009年 フランス,ベルギー 2時間04分)
監督:ステイン・コニンクス
出演:セシル・ド・フランス,サンドリーヌ・ブランク,マリー・クレーメル

2010年7月、シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
関西では、今夏〜梅田ガーデンシネマにて公開

セシル・ド・フランス インタビュー⇒  こちら
公式サイト⇒http://www.cetera.co.jp/dominique/index.html

 ドミニーク,ニク,ニク…レコードが300万枚売れたという「ドミニク」。この歌を聞けば,これからはセシル・ド・フランスの扮したシスター・スマイルことジャニーヌ・デッケルスの笑顔が浮かぶに違いない。モントリオールの公演で,ギターを持ってステージに立った彼女は,「この瞬間を待ってました」と言って歌い始める。彼女は,この歌のため,人生で最高に輝き,そして追い詰められていく。良くも悪くも彼女を象徴する曲だ。
  従妹のフランソワーズは,「いつかアフリカへ行こう」とジャニーヌと約束する。友人のアニーは,憧れ慈しむようにジャニーヌを見ている。彼女たちのトライアングル,それも鋭角三角形のような適度の距離感を保った関係。そこから,傷付きながらも,強い意志で自分の人生を選択し,夢を求め続けたジャニーヌの姿が浮かび上がる。アニーとは愛と平和に包まれて共に旅立ち,フランソワーズには「決して諦めないで」という言葉を残す。
 そんな彼女の,窮屈でも意地を通し続けた人生。将来を勝手に決めようとする母親とはソリが合わない。修道院に入ってもマイペースを崩さない。夜一人で泣いているカットが挿入される。生きる意味を求めて修道院へ来たのに,今のままでは無意味だという無力感に泣く。そんな状況で生まれたドミニクの歌がヒットし,人前で歌い,宗教に無関心な人にも感動を与えたいと考える。だが,コンサートなど論外だと言われ,修道院を飛び出す。
 アニーとの新しい生活。フランソワーズとの再会。「アフリカは忘れていないわ」などと楽しげに話す2人を遠くから見ているアニーの顔には,微かな笑みと愁いが浮かぶ。このジャニーヌが寛げる時間が美しい。そして,彼女は,コンサートで素敵に輝くが,自由な女性に捧げる新曲「黄金のピル」を歌い,修道院の反発を買って八方塞がりとなる。彼女の意思に反して自由が奪われる。しかし,彼女は,フェニックスのように飛び立っていく。
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 テルマ、ルイーズとシャンタル
『テルマ,ルイーズとシャンタル』
〜いつまでも成長し続けるからこそ人間!?〜

(2010年 フランス 1時間30分)
監督:ブノワ・ペトレ
出演:ジェーン・バーキン,キャロリーヌ・セリエ,キャトリーヌ・ジャコブ
 ガブリエル,ネリーとシャンタル。3人はターシャとフィリップの結婚式に出席するため,ブルゴーニュからラ・ロシェルに向かう。フィリップは,ガブリエルの初恋の相手で,シャンタルの姉の元カレだった。ネリーとはどんな関係か。またターシャとは誰か。ともあれ,車での旅が始まる。「テルマ&ルイーズ」のような逃避行ではなく,警官隊に取り囲まれることはない。が,ラストでダイビングするという,その感覚は何となく似ている。

  ガブリエルが同棲していた35歳の男は,壁に「アバズレ」と書き残して家を出た。シャンタルが言うようにガブリエルの人生もバラ色ってわけじゃない。そのシャンタルは,愛人の胸に夢中の夫にウンザリし,娘とも上手くいかず,死んだ愛犬に執着している。ネリーは,24年も結婚生活を送った末に別れた前夫が忘れられず,心機一転できないでいる。旅の途中で親子4人の団らんを見詰めるネリーの姿がある。彼女は,決して諦めていない

  エンディングの後で「私の母と世界中の母親に捧ぐ」と表示される。1977年生まれの監督は,彼女たちのありのままの姿を赤裸々に,ウソや気取りなしで表現しようとシナリオを練ったそうだ。3人とも,それぞれ遣る瀬なさを抱えながらも,何とかめげることなく生きている。3人で旅すれば,若い女性にも負けないエネルギーが満ちてくる。ドレスアップしてフィリップに会いに行く3人の雄姿は,某ハリウッド映画にも決して引けを取らない。

  3人はフィリップの披露宴に乗り込んでいく。彼女らを捉えるカメラも俄然勢いづいてくる。ターニャが何者かだけではなく,3人それぞれのフィリップとの関係も露わになる。ガブリエルが捨てられた理由。思い出してもらえないシャンタル。そしてネリーには2人に話していない秘密があった。3人がそれぞれフィリップにウサ晴らしをしていく痛快さ。そして,さなぎが羽化したように,3人は自分に正直に,そして自信を持って生きていく。
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