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★ 大阪アジアン映画祭2009 インタビュー
『停  車』 監督インタビュー
『停車』
〜一夜の出来事が男を変える〜
ゲスト:チョン・モンホン監督


英題:PARKING
(2008年 台湾 1時間46分)
監督・脚本:チョン・モンホン(鐘孟宏)
出演:チャン・チェン、グイ・ルンメイ、 チャップマン・トー 、ジャック・カオ
 母の日のケーキを買うために車を停めた男は、二重駐車をされて出られなくなる。車の持ち主を探すため、向いのアパートの住人を訪ねるうち、幾つもの出来事に巻き込まれ……。

  チャン・チェンは、かんしゃくを起こして、二重駐車のベンツを蹴って殴られたり、アパートの床屋の手洗いに置かれていた大きな魚に手をこまねいたりと、少し冴えない、普通の男を演じ、ユーモラスで親近感が持てる。床屋の亭主や、香港人の仕立屋と、それぞれ事情を抱えながらもどこか飄々として、人情味豊かな住人達との出会いを通して、男が優しさや自分らしさを取り戻していく様子がリアルで、心温まる。

  昨年、カンヌ国際映画祭 <ある視点>部門 に正式に招待されたほか、台湾金馬奨の美術賞と国際批評家連盟賞の2部門を受賞。

  大阪でも二重駐車が問題になっていると聞いて驚いたというチョン・モンホン監督。留学先のアメリカから台北に帰った際、二重駐車されて4時間待ったことがあるという、自身の体験をもとに、今回の脚本を執筆。
 監督は、シカゴに留学してM.F.A.(映像学修士)を修得。テレビのCM界で注目され、100を超えるCMを監督。映画初監督はドキュメンタリーで、父親との死別をテーマにした『Doctor』。国際的な映画祭で大絶賛を博し、『停車』が初めての長編。

  映画の上映後、監督にお話を聞く機会に恵まれた。上映後の客席からの質疑とあわせてご紹介し、映画の魅力に迫りたい。
――――映画の中に出てきた、大きな魚の頭には、どんな意味があるのですか?
魚の頭は、本当は鍋の中に入れなければいけないもので、手洗いに置くものではありません(会場、笑)。チャン・チェンが本当は家に帰って母の日のケーキを食べていなければならないのと同じことです。でも、チャン・チェンは一生懸命、二重駐車した相手を探していました。
このように、人生はいつ、どんなことが起こるかわかりません。そういう予期せぬ状況になった時、人は、チャン・チェンのように、一生懸命そこから抜け出したいと頑張るものだと思います。


――――即興のセリフはあったのですか?
通常の映画なら、撮影前に1ヶ月〜2ヶ月間のリハーサルをしますが、この映画の撮影では、一度もリハーサルをしませんでした。撮影当日に初めて、役者が脚本をもらうようにしたのです。役者が事前に準備して先入観を持たないようにするためです。私は今回のやり方がとても気に入っており、これからもそのように撮影していきたいと思います。
――――その日の演技を観て、翌日のセリフを書くということですか?
役者の演技をみてからセリフを考えるのではなく、何を書くつもりかは、はじめから私の頭の中にありました。脚本も最後まで書いてありました。ただ、一番新鮮なセリフを役者に持っていくために、今日の撮影が終わってから、翌日の撮影予定のセリフを書き、撮影の1時間前に役者に脚本を渡したのです。


――――ということは、役者は物語の結末を知らずにやっていたのですか?
そのとおりです。最後を知らずに演じています。(笑)
最初に一度、大まかな脚本は渡していますが、実際に撮影が終わった時、最初の脚本とは全然違うものになりました。
――――チャン・チェンの演技については?
カンヌ映画祭では、今回の演技が、今までの彼の作品の中でも一番よかったと言われていました。確かにとてもよかったと思います。普通の男を演じ、喜怒哀楽を心の中に抑え、あまり表現しなくても、みているだけで伝わる。ちょうど小津安二郎監督の映画の中の登場人物が、心の中に感情を抑え、隠している感じでした。

――――役者の演技については、細かく演出されたのですか?
最初に何が撮りたいかを説明し、できるだけ表情を抑えて演技するよう頼みました。チャップマン・トーもジャック・カオもベテランなので、たまに表現しすぎる時があり、抑えてもらうよう演出しました。できるだけ無表情で演じてもらったつもりです。


――――床屋の亭主役のジャック・カオが印象的でしたが、初めから彼を想定して書かれたのですか?
ジャック・カオの役は、はじめアンソニー・ウォンに演じてもらうつもりでしたが、撮影の都合がつかず、ジャック・カオになりました。少し意外に思いましたが、彼を見て、床屋の主人にぴったりだと思い、ああいう設定を思いついたのです。

――――マーティン・スコセッシ監督の『アフター・アワーズ』(‘85)を思い出しましたが、他に影響を受けた監督は?
他の映画祭でも、その映画と比べられたことがあり、とても好きな監督です。でも実際撮っている時に、この監督に影響を受けたわけではありません。ほかに、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督、ジム・ジャームッシュ監督の映画も大好きですし、溝口健二監督、小林正樹監督は、とても尊敬する監督です。

――――各登場人物の過去の映像を、なんの説明もなくいきなり挿入したねらいは?
人生にはいろんなシーンがあり、いわば一つひとつのシーンの塊が人生です。各自それぞれのシーンをつなぎあわせて、一人ひとりの人生、ストーリーは、互いに影響を受け合っていることを描きたかったのです。
――――上から、横からと、様々な角度から撮影されていますが、編集で気をつけた点は?
台湾では、ホウ・シャオシェン監督の影響を受けて、静かな映画がとても多いです。私は、上から撮ったり、横から撮ることによって、主人公の心理的な面を表わしたいと思いました。そういう感情的な面をたくさん表わしたい。ただ、私の映画は、そういう感情が今にも爆発しそうな時、爆発するすぐ前でカットします。観客を泣かせたり、観客があまりにもストーリーに入り込みすぎるのは、好きではありません。
例えば、チャン・チェンが手紙を読む時も、初め、彼が読みながら泣くシーンも撮りましたが、全部やめ、涙が出る前にカットしました。感情を全部写して描くのではなく、観客に想像させたいと思いました。

――――台湾の社会問題が映画の中に織り込まれていますが?
二重駐車をはじめ、中国からの売春婦、借金の回収業者などは、台湾で問題となっていることです。こういった社会問題をあまり硬く描くのではなく、おもしろそうに表現できたらいいと思いました。

――――中国からの売春婦の問題が取り上げられていましたが、中国と台湾の関係は?
台湾にとっても、中国にとっても、売春婦の問題はとても大きな問題です。この問題を映画でとりあげたために、中国での上映が難しくなる可能性もあり、とても深刻な問題です。

 初めての単独取材で、緊張の余り、話題があちこちにとんでも、終始笑顔で答えてくださったチョン・モンホン監督。小津監督が好きとうかがい、好きな作品を尋ねると「後期の映画はほとんど観ています」と言って、メモ帳に漢字で『秋刀魚の味』『東京暮色』『お茶漬けの味』と次々に書いてくれた。一番好きなのは『東京物語』だそうだ。「小津監督の映画の中に出てくる人物は、無表情ですが、心の中にいっぱい感情を抱えています。妻が亡くなったり、娘を嫁に出すシーンでも、人物は無表情ですが、悲しみの感情はひたひたと伝わってきます。」と小津映画の魅力を語ってくださり、聞きながら嬉しくなった。

  本作も、感情表現を極力抑えた演出により、逆に、心の中に隠した思いが、情感豊かに湧き上がり、観終わって、じんわりとぬくもりが残る。

  次回作については、「一人の少年の描いた四人の似顔絵。彼が他の人を描いたときの、その人との人間関係を描きたい。今回とは全く異なり、サスペンスで怖い映画です。フィルム・ノワールの感じで撮影したい」。これからも次々と果敢に映画に取り組まれていく監督。次回作が待たれるところだ。
(構成、取材、文:伊藤 久美子)ページトップへ
『手あつく、ハグして』 監督インタビュー
『手あつく、ハグして』
コンデート・チャトゥランラッサミー監督インタビュー
英題:Handle Me with Care

(2008年 タイ 123分)
監督・脚本:コンデート・チャトゥランラッサミー
出演:ギアットガモン・ラーター、スバサゴーン・チャイヤモンコン
 脚本家としては『レター僕を忘れないで』(04年)、『トム・ヤム・クン!』(05年、共同脚本)などの大ヒット作があり、タイで最も面白い脚本が書ける才能といわれる新鋭コンデート・チャトゥランラッサミー。初めての単独監督作『ミッドナイト、マイ・ラブ』が東京国際映画祭アジアの風部門(05年)で好評を博し、今回、大阪アジアン映画祭のために来阪。最新監督作の『手あつく、ハグして』が日本初上映された。

  生来、両腕のほかに左腕がもう1本ある青年が、小さい頃からずっとシャツをつくってもらっていた仕立て屋のおじさんの死をきっかけに、周りの冷たい視線から逃れるため、切断手術を受ける決心をし、バンコクに行くロードムービー。
 きめ細やかな心情描写により、ユニークな設定も不自然さを感じさせることなく、道中で出会った女性との恋を通して、人生で本当に大切なのは何かを教えてくれる人間ドラマに仕上がっている。
  今回、初取材の機会に恵まれ、「サワディー カー」(こんにちは)と監督の爽やかな挨拶と笑顔で、インタビューが始まった。
――――3本の腕という発想はどのようにして思いついたのですか?
ある日、洗面所で自分の姿を鏡に写して見た時に、自分の顔を気に入らないと思ったのがきっかけです。どんな人でも、頭が薄いとか、ちょっと太っているとか、自分に満足しないのは普遍的な思いです。
この映画の主人公は、身体のどこに不満足かと考えた時、私は日本の漫画が大好きで、自分で漫画を描くのも好きなんです。眼を3つ描いたら、手塚治先生の漫画のようで、足3本というのも不思議過ぎて、いろいろ描いていくうちに、腕3本の人を描いてみたら、おもしろそうで、映画にしてみたいなと思いました。

――――どうやって3本の腕を撮ったのですか?
CGや、義手、ハンドタレントとシーン毎にいろいろな技術を駆使しました。ハンドタレントの時は、ブルースクリーンで撮影して、後から消すこともできるのですが、ハンドタレントが、腕しかみえないよう、主人公の後ろに上手に隠れて演技してくれました。実は、ハンドタレントは主人公を演じた俳優のマネージャーで、息も合い、一緒に動きを楽しく考えてくれました。
――――主人公役の俳優は映画初出演ですが、主役に抜擢したわけは?
彼は、タイの人気オーディション番組「アカデミー・ファンタジア」で賞を獲得しており、私もずっと応援していました。すごく普通の人にみえるけれども、どこか魅力があると思います。
今回の主人公はイケメン過ぎず、人間的な魅力がある人、人生に不満のあるような目つきをしていて、あまり主役じゃなさそうな雰囲気を持っている人と思っていましたので、実際に彼と話してみて、ぴったりだと思いました。

――――ヒロインもすてきでしたね。
彼女はタイ映画に何本も出演していますが、胸が大きい人、セクシー女優というイメージを持たれていて、ひどい役ばかりでした。でも、私は、彼女は演技力があると思いましたし、彼女の違うところを観てほしいと思って、依頼しました。
――――演出で苦労された点は?
今回、監督をしていて、あまり難しいと思わなかったのですが、それは、初めて地方ロケをしたからかもしれません。今までつくった2作品は、どちらもバンコクのロケで、雑音が入ってきたり、地方と比べると人間の優しさが足りなかったりで、大変でした。バンコクでの撮影ですと、撮影ごとに毎晩、皆、家に帰りますので、集中力が途切れます。皆で地方ロケに行くと、撮影スタッフもキャンプみたいな感じで、寝食をともにしているので、監督の伝えたいことが、スタッフに浸透しているように思えました。気持ちも一つになって、撮影もとても順調にいきました。
最近のタイ映画は、バンコクを舞台にしたものが多いですが、地方ロケを通して、多様なタイの姿を映し出せたと思います。

――――主人公のシャツをつくってきた仕立て屋が重要な役割を果たしていますが?
主人公のことを気にかけているのは、母親と仕立て屋の二人だけです。母親がいなくなっても何とか生きていけるけれど、仕立て屋がいなくなるというのは、もう自分を心配してくれる人がいなくなる、ということです。村の人から、もう着れる服をつくってくれる人がいないね、と言われ、それが、自分を変えなきゃと主人公が思ったきっかけの一つになっています。
――――自分の欠点を受け入れるという意味で、手術を受けず、腕が3本のまま終わるのかなとも思ったのですが、結末について、迷ったりしませんでしたか?
主人公もバンコクに近づくにつれ、腕を切断すべきか迷っていたと思います。でも、監督としては、初めから切ることに決めていました。切って後悔させようと思いました。人間というのは、何かを失った時にはじめて考えるものだからです。
――――カメラがゆっくり近づいたり、遠ざかる動きは細かく指示したのですか?
はい、そうです。撮影監督と話し合い、役者の立ち位置もフレーム毎に決めました。監督によってはそこまで構図にこだわらない人もいると思うのですが、私は、構図をとても重要視しています。言葉に頼らず映像が語ることが多いと信じているからです。
前作2作品に比べ、セリフを極力減らし、映像で語らせるようにしました。そのせいで、観客の想像に委ねている部分もあります。
手術を終えた主人公がバンコクで食事を食べに行くお店が、父親の店かどうかについても、撮影時にはそういうふうに意図しましたが、編集でセリフを削っていき、観客の皆さんの想像にまかせるふうにしました。

――――今までどんな映画監督から最も影響を受けましたか?
チャーリー・チャップリンが大好きで、特に『街の灯』が大好きです。今回、実験的に、字幕を入れて、主人公の思いを語らせてみました。
映画のテーマは、タイトルの『手あつく、ハグして』そのもので、自分の回りの世界に対して、主人公が求めている「自分を大切にして」という心の叫びです。自分は、腕が3本という不思議な人ではなく、普通の人になりたいと思って、腕を切ったのに、実は、この世界にたった一人だけ、ありのままの自分を受け入れてくれる人が見つかれば、それだけで幸せになれる、ヒロインからの手紙が彼の答えなんだ、ということです。
 3本の腕ならシャツの腕も3本と、服に着目したことからも、監督の、日常に対する観察力の鋭さがうかがえる。腕を切断し、故郷に帰った主人公が、街をさまよい歩き、もう着れなくなった3本の腕のついたシャツを一枚ずつ丁寧に畳んでゆくシーンが印象的だ。ラストシーンの紅茶畑のハグをとらえたロングシーンも美しい。不思議なキャラクター設定で、しんみりと人生についても感じさせてくれる本作。また日本のどこかで上映されることを期待したい。

  質問の間、終始、にこやかな笑顔を絶やさず、丁寧に答えてくれたコンデート・チャトゥランラッサミー監督。豊富なアイデアと豊かな発想力で、これからどんな映画を生み出していかれるのか、とても楽しみだ。
(伊藤 久美子)ページトップへ
『チョコレート・ファイター』 舞台挨拶
『チョコレート・ファイター』舞台挨拶in大阪アジアン映画祭

(2008年 タイ 1時間33分 配給:東北新社)
監督 プラッチャヤー・ピンゲーオ
脚本 チューキアット・サックウィーラクン
出演 “ジージャー” 阿部寛 ポンパット・ワチラバンジョン

5月23日(土)なんばパークスシネマ、MOVIX京都ほか全国ロードショー
(C)2008 sahamongkolfilm international all rights reserved. designed by puninternational
公式ホームページ→

 日本でも大ヒットを記録した『マッハ!』『トム・ヤム・クン!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督の最新作『チョコレート・ファイター』が5月23日の全国ロードショーに先がけ、大阪アジアン映画祭のオープニングで上映された。上映前には映画祭のために来日した監督と脚本家のチューキアット・サックウィーラクンが舞台挨拶に登壇。撮影の裏話や続編についての想いを語った。

 本作は、男性を倒せるアクション能力を秘めた小柄な女性がヒロインの映画。『マッハ!』同様にCGなし、ワイヤーなし、もちろん早送りもなしの生身アクションが最大の見どころとなっており、母国タイでは『レッドクリフ』の2倍もの興行成績を記録。さらに、アメリカでも公開が決まり、カナダのトロント映画祭でも高く評価された。

 主演は今作がデビューとなる“ジージャー”ことヤーニン・ウィサミタナン。彼女の父親役を阿部寛が演じる。日本ロケも行っており、日本の撮影で印象に残っていることを監督に聞くと「お弁当のケータリング」という答えが。「日本のお弁当って小さいおかずがたくさん入っていて素晴らしい。でも、見たこともないおかずもあり、人にあげたら実はおいしかったことが判明して取り返したり(笑)皆でワイワイいいながら食べました。それと、お弁当の蓋に「撮影の成功を祈っています」と書かれたメモが貼ってあって、日本人の几帳面な一面を垣間見ましたね。」さらに、阿部寛については「阿部さんと、これが役者デビューとなるムエタイ選手とのアクション撮影があったのですが、ムエタイの彼が手加減の度合いが分からなくて、何度も本当にヒットしていた。気が付いたら阿部さんの顔が腫れていました。でも、阿部さんは少し休憩しただけで、文句も言わずに撮影を続行してくれたのです。本当に素晴らしい役者さんです。」
 映画祭で上映された『サイアム・スクエア』(6月下旬に「ミウの歌」としてDVD発売が決定!)の監督でもあるチューキアット・サックウィーラクンは脚本執筆について「初めは数人の共同執筆だったのですが、アクションシーンを何度も繰り返し書き直しているうちに、1人1人脱落して行き、最後に残ったのは僕1人だけでした」と笑う。「この前に『レベル・サーティーン』『サイアム・スクエア』とドラマを書いていたので、アクションは難しかった。でも、挑戦的で幸せな経験でした。アクション映画で大事なのは、アクションの技とその内容、それにドラマ的要素の3つです。アクションばっかりだと映画の中身がなく、ストーリーが複雑だと分かりにくい。3つのバランスを取って最後には予想もできない作品に仕上げるのが大変でした。」
 その壮絶アクションについて監督は「これまでの映画の改善点からもさらにパワーアップしている」と語る。特に見どころは“4階のビルから落ちる場面”。「本当に落ちているように見せることにこだわりました。普通スタントマンは2階からならワイヤーがなくても飛び降りることができます。そこで私が「4階から落ちることができるか?」と聞いたら、「いや、無理」と言われたので、「ワイヤーをほんの少し使って、2階から落ちた衝撃にするから4階から飛び降りてくれ」と頼みこんでやってもらいました。そこは見逃さないで!」

  監督が強く語るようにそのシーンの迫力はスゴイのひと言。(“落下”は1人だけかと思ったら何人も落ちてきてビックリ!)そして、最後には続編についても言及。監督いわく「阿部さんがジージャーを日本に連れてくるという設定」になる予定だとか。「東京を舞台にしたアクションを見て、ジージャーを東京で戦わせたいと考えている。でも大阪も素敵な町なので撮影してみたいですね。ストーリーは、ジージャーと日本の男の子のラブストーリーがあってもいいかな。日本の武術、空手や柔道などの要素もいれてみたいです」

  とても具体的な撮影予定を話してくれた監督だが、さて、日本にジージャーとガチで対戦できる俳優がいるだろうか。『ドロップ』で抜群の身体能力をみせた水嶋ヒロなんてどうだろう。彼なら美少女ジージャーと並んでも華がありバッチリだ。なんて、淡い妄想をしながら今からパート2の発表を期待したいと思う。
(中西 奈津子)ページトップへ
『チョコレート・ファイター』 監督インタビュー
『チョコレート・ファイター』
プラッチャヤー・ピンゲーオ監督インタビュー
〜映画史上最強のアクション・ヒロイン誕生!!〜

(2008年 タイ 1時間33分 配給:東北新社)
監督・製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ
アクション監督:パンナー・リットグライ
出演:“ジージャー”、阿部寛、ボンパット・ワチラバンジョン ほか
【大阪アジアン映画祭2009 オープニング作品】
5月23日(土)〜なんばパークスシネマ ほかにて全国ロードショー
(C)2008 sahamongkolfilm international all rights reserved. designed by puninternational

公式ホームページ→
 日本では馴染みが薄かったタイ映画だが、2000年代に入ってから俄かに注目され始めた感がある。その立役者の一人がプラッチャヤー・ピンゲーオ監督。『マッハ!』(2003)、『トム・ヤム・クン!』(2005)で、CG&スタント&ワイヤーを排した“痛みの伝わるアクション”を追及し、世界中のアクション映画ファンの度肝を抜いた御仁である。

 そんなハード・アクションの巨人の最新作『チョコレート・ファイター』(2008)が、大阪アジアン映画祭2009のオープニング作品として上映された。映画史上最強のアクション・ヒロイン“ジージャー”が繰り広げる本物の超絶アクションに、満員御礼の場内は更にヒートアップ。熱気と喝采に満ちた華々しい日本プレミアとなった。

 この度、映画祭に合わせてプラッチャヤー・ピンゲーオ監督が来阪し、幸運にもインタビューする機会を得た。
「きっと、眼光鋭いコワモテな人物に違いない・・・・・・」 そう思い込み、半ばビクビクしていたものだが、当日、目の前に現れたのは、柔らかな笑顔が印象的な小柄の中年男性。正直、意外である。しかし、かのジョン・ウー監督にも通じるそのギャップは、更なる興味を掻き立てて止まない。早速話を伺った。
―――今回の『チョコレート・ファイター』は、どういった作品からインスピレーションを受けましたか?
監督:インスピレーションというか、『マッハ!』『トム・ヤム・クン!』を撮り、次は何か新しいものをと考えました。そこで浮かんだのがアクション・ヒロイン物だったのです。ただし、アクション・ヒロイン物は難しい。女性のアクションに説得力を持たせなくてはいけませんし、何より、観客に受けるかどうかを気にしました。

―――“ジージャー”のトレーニングはトニー・ジャー(『マッハ!』『トム・ヤム・クン!』の主演俳優。スタントマン出身)のアクションを参考にしたのでしょうか?

監督:そうですね。と言うよりも『チョコレート・ファイター』のスタントチームは、『マッハ!』『トム・ヤム・クン!』と同じチームです。アクション監督のパンナー・リットグライはテコンドーの総帥とも言える人物です。リアルなアクションは怪我人の出る可能性があります。“ジージャー”は、もちろん実際の格闘技のトレーニングも積みましたが、同時に“映画としての格闘技”としてのトレーニングも行いました。また、今回、私は“女の子の映画”を撮りたいと思っていました。

―――その理由を教えて下さい。
監督:前作のプロモーション中に、記者から尋ねられたのがきっかけです。アクション・ヒロインと言えば、少し前ならミシェル・ヨー、最近だとチャン・ツィィーが思い浮かびますね。あと『チャーリーズ・エンジェル』。そこで私は、そういった旧作のイメージを意識しながらも、まったく新しいリアル・ヒロインを追及しました。

―――前半にある製氷所でのアクションは『ドラゴン危機一発』(1971)ですね。後半の日本式家屋でのアクションは『キル・ビル』(2003)へのオマージュと見られがちですが、そのルーツは『ドラゴン怒りの鉄拳』(1971)です。その他、『燃えよドラゴン』(1973)や『ブルース・リー/死亡遊戯』(1978)など、ブルース・リーの影響を強く感じました。
監督:仰る通り、ブルース・リーのことは強く意識しました。彼は世界中の人々が愛した方です。それに『ドラゴン危機一発』はタイで撮影された作品ですから、タイの人々に特に人気があり、皆知っている作品です。そこで、“ジージャー”に『ドラゴン危機一発』のアクションを再現させたいと考えました。
―――タイ資本による純粋なタイ映画ですが、従来のタイ映画とは異なるキャスティングが見られます。“ジージャー”は元々俳優ではなく、本作がデビュー作ですし、彼女と対決する悪役にタイ・韓国・オランダから本物の格闘家を起用していますね。
監督:『マッハ!』『トム・ヤム・クン』を発表して以来、世界中から素晴らしい能力の持ち主と知り合う機会が増えました。世界中からメールが来るようになったのです。彼らもそうです。
―――なるほど。また、日本から阿部寛さんが出演されていますが、彼の出演に関しては?
監督:“ジージャー”が日本人に似た顔立ちをしていますから、父親が日本人であるという設定にしました。そこで阿部寛さんにお願いしたというわけです。

―――従来のタイ映画の枠組みとは異なるキャスティングに関してもう一点。最大の悪役“ナンバー8”を演じるポンパット・ワチラバンジョンさんは、タイ映画界の大スターですが、悪役を演じるのは初めてでは?
監督:よく御存知ですね。確かにポンパットさんにとって初めての悪役となります。実は、当初は別の俳優で撮影を進めていました。しかも、ほとんど撮り上がっていたのです。しかし、彼に変えることにしたのです。急なことでしたが、ポンパットさんは見事に演じてくれましたね。さすがは演技派です。

―――本編の後、NG集のような舞台裏の映像が映し出されます。相当危険な現場だったようですが、大変だったのではないですか?
監督:そうですね。特に、人が高い所から落ちるシーン。2階から落ちるシーンではワイヤーを一切使用していません。本当に落ちています。ただし3階・4階となるとワイヤーを使わざるを得ません。けれども、目指しているのはリアル・アクションです。そこで私が「通常の80%(のワイヤー使用)で出来るか?」と言います。これは本当に難しいことですが、スタッフは「喜んで!!」と言ってくれました。

―――監督が一番気に入っているシーンはどこですか?
監督:母親のジンが子どもたち(“ジージャー”演じるゼンと、幼なじみのムン)と派手にケンカをするシーンです。ジンを演じるアマラー・シリポンは歌手です。演技をするのは今回が初めてで、彼女はとても緊張していましたが、感情を高めてムンを強く叩きました。気に入っているシーンです。あと、アクションで笑わせたいと意識しました。笑えるアクションにも注目して下さい。


 取材が相次ぐ中、プラッチャヤー・ピンゲーオ監督は終始笑顔を絶やさず、微塵の疲れも感じさせなかった。そればかりか、写真撮影時はファイティング・ポーズまで披露! 茶目っ気たっぷりでサービス精神旺盛なその姿には、世界照準のアクション魂が漲っていた。
 『チョコレート・ファイター』は、5月23日(土)より、なんばパークス
シネマ ほかにて全国ロードショーとなる。

『チョコレート・ファイター』作品評はコチラ→http://www.cineref.com/ajian/sinsaku09.html#cf

(喜多 匡希)ページトップへ
ミウの歌 Love of Siam』 (サイアム・スクエア

ミウの歌 Love of Siam
(サイアム・スクエア)

チューキアット・サックウィーラクン監督 インタビュー

     作品紹介⇒ press conference.html#ss

 アジアフォーカス・福岡国際映画祭2008にて、日本でも上映された『サイアム・スクエア』は、タイで社会現象を巻き起こすほどの大ヒットを記録し、2007年、タイ映画連盟最優秀を受賞、さらに、第81回米アカデミー賞外国語映画賞に、タイ映画代表として出品された話題作だ。深い絆で結ばれた幼なじみの2人の少年が、互いに対して友情とも恋ともつかない感情を抱くようになっていく、非常に繊細なドラマなのだが、決して「恋愛映画」ではないのがこの作品の面白いところ。もちろん、若い男女の恋と青春の物語は描かれているが、そもそも、人を愛するとはどういうことなのか?愛とは何なのか?一度失った愛は取り戻せるのか?といった、非常にリアルな問題がテーマになっている。そして、本作でそれを最も象徴するのは、「家族」のパートだ。ここが実に丁寧に、説得力を持って描かれているからこそ、単純なラブストーリーではなく、もっと大きな「愛」について観る者に問いかけ、深い感動を与えることに成功している。

 そして遂に、この珠玉の作品が、大阪アジアン映画祭2009にて、関西初上映!上映後、チューキアット・サックウィーラクン監督に、シネルフレ単独インタビューをさせていただき、作品について、タイという国についてなど、貴重なお話を伺うことができた。
 

■本作のストーリーは監督の実体験がもとになっているそうですね?
はい、かなり多く自分の経験をとり入れています。例えば、両親や友人のエピソードもそうですし、大体70%くらいが実体験で、自分の思い出に基づいています。

■この映画を作ろうと思ったきっかけは?
まず、「愛」についての映画を1本撮ってみたかったことと、もともと、人間そのものや「人生」を描く話に興味があったのです。そして、この映画のテーマとしては、「愛は人生にとってどれほど大切な意味があるのか」ということをとり上げています。その、「愛」に対する疑問がそもそもの始まりなんです。例えば、父親と母親がたくさん夫婦喧嘩をしながらも、なぜ20年以上も一緒にいられるんだろうか。自分だったら、恋人とちょっとケンカをしたらすぐに別れたくなるのに…と。また、性を越えた男同士の恋愛というのは成り立つのだろうか。あるいは、相手の気持ちが自分にないと分かっている片想いでも、長い間、その人のことを想っていられるのかといった、様々な疑問です。

■ 出演されている役者さんたちは素人の方が多いですが、演技指導などはされましたか?
そこまで細かく演技指導はしなかったんです。役者自身が自分の役を解釈し、そのまま演じてもらうほうが面白いと思ったからです。ただ、新人俳優と組んだら丁寧な演技指導が必要な場合もあります。例えば、喋るタイミングや、瞬きが多かったり、ため息をついてしまったりすることがあり、そういうところは修正しました。
■ 特に思い入れの強いシーンは?
そうですね、全部好きなんですけど(笑)その中でも特に気に入っているのは、トンの両親のシーンで、父親が手をつけないご飯を、母親が食べるところです。このとき、2人は同じフレームにいなくて、ちょっと離れた場所にいるんです。普通、ちょっとドラマチックな場面というのは、同じフレームに役者がいて、一緒に演技しているのをみて、感動するものですが、あのシーンは、2人が離れているのに、夫が妻を、妻が夫を想う気持ちがとても良く出ていて、気が付くと観客は涙を流している。そういうシーンですね。
■ミウとトンのキスシーンについて、撮影中のエピソードなどがありましたら教えて下さい。
キャスティングのときからキスシーンがあることは伝えていて、2人ともそういうシーンは初めてだったのですが、ミウ役のピッチ君もトン役のマリオ君も「大丈夫」と言ってくれました。ところが、撮影に入ろうとしたら、マリオ君の彼女が「男の人とのキスシーンなんて認めない!」と、マリオ君を撮影に行かせなかったんですよ(笑)仕方が無いので、マリオ君のお母さんとマネージャーさんが2人を捜しに行って、説得して、来てくれたんです。あと、ピッチ君は、初めてのキスを体験することになり、ちょっとナーバスになっていましたので、「考えすぎないでいいよ、友達同士なんだからさ」と、なだめました。ですが、タイで公開されてあのシーンを観た観客は、2人がプライベートでも恋人同士の関係なんじゃないかと信じてしまって(笑)それほど、説得力のあるいい演技をしてくれて、とてもプロフェッショナルだなと思いました。

■この映画の舞台となっているサイアム・スクエアは、どのような街なのでしょうか?
サイアム・スクエアはバンコクにある、ファッション、ポップカルチャー、音楽などの中心地です。例えば大阪だったら梅田、東京だったら渋谷のような、若者の街です。ただ、日本と比べれば狭いですし、人も少ない。日本の方が華やかで楽しいです。タイの若者はまだちょっとシャイな感じがしますね。

■劇中、トンの姉テンがチェンマイへ旅行に行くシーンがありますが、タイの方はチェンマイへよく行かれるのでしょうか?
バンコクの人がチェンマイに遊びに行くのはよくあることです。僕自身も、実家がチェンマイなんです。バンコクもチェンマイも大きな都市であることには変わりないんですが、雰囲気は全然違います。バンコクは人が多くて複雑でちょっとうるさい感じです。チェンマイは、凄く静かで芸術が発達していて、人の暮らしのテンポもゆっくりしている。タイ人にとって、11月には鐘楼流しや、4月にはタイの正月である水掛祭りに遊びにいくような、観光地です。そして、チェンマイの近くには森もあってトレッキングも盛んですけれど、みんなが、映画の中のテンのように遭難するというわけではありません(笑)

■ 監督は今回音楽も手掛け、自ら作詞・作曲もされていますが、その中で「愛があれば
希望はある」というフレーズがとても印象的でした。これは、映画を作り上げる中で
監督が出した、「愛」に対してのひとつの結論なのでしょうか?
実は、歌詞は撮影前にもう書き終わっていたんです。ただ、自分の思い出を反芻しながら歌詞を作っていたので、例えば、「そういえば子供の頃に好きだった友達がいたなぁ。その子のことを好きだったとき、色んな希望があったなぁ」ということを思い出して書きました。成長して大人になると、子供の頃の気持ちは薄れてしまいますが、そのときは、「愛」に対してまた、違った希望も見えてくるのだと思っています。


■近年、タイ映画は盛り上がりを見せていますね。
 タイ映画界にもまだまだ色々な障害があると思います。というのは、タイ政府はタイ映画に対してセンサーはかけますが、支援したり守ってくれたりはしません。だから多くの監督たちは、まだまだ戦っていかなければならないことがたくさんあります。映画というのは、誇りを持って海外に出していける文化だと思うので、外国の方にタイ人の姿を見せる媒体でもあるわけです。ですから、僕たちが一生懸命戦って、これから出てくる映画を製作する後輩たちが、少しでも映画を作りやすくなれればいいなと思っています。そして、外国の方にも、「タイは象と田んぼだけじゃないんですよ」というイメージを、タイにも多種多様なポップカルチャーがあって、それを映画の中で見られるんだということを知って欲しいです。

  「何でも聞いてくださいね」と、終始にこやかに受け答えをしてくれたチューキアット監督。日本の映画にもとても興味があるそうで、特に「是枝裕和監督の作品が好き」だそうだ。

  本作を観て感じた、人間に対する深い愛と優しさは、監督そのものであったのだと、インタビューを通し改めて気づかされた。友情、恋愛、家族愛…すべての愛において、確かなものなんて何もないけれど、それでも愛さずにはいられないのが人間じゃないか。そんな監督の声が聞こえてきそうな温かい物語は、これまでタイ映画といえばホラーというイメージのあった人も、タイ映画を観たことがない人の心にも、きっとまっすぐに響くことだろう。

 (この作品の上映とインタビューが行われた3月15日は、なんとチューキアット監督の28歳の誕生日!上映後に行われたティーチ・インの最中に、映画祭スタッフからバースデー・ケーキのプレゼントが☆会場のお客さんたちも「Happy Birthday to You」の合唱で、監督を祝福。思いがけないサプライズに、照れながらも感激していた監督。「本当にありがとうございます。また絶対、日本に来ます!」と嬉しそうにコメントしていた。)
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『100』 監督&俳優インタビュー
『100』
〜人生の喜びを求め、探し続けジョイスの生き方〜

(2008年 フィリピン 1時間57分)
監督・脚本:クリス・マルティネス
出演:マイリーン・ディソン、ユージン・ドミンゴ、テシー・トマス
大阪アジアン映画祭3月15日(日)午後6時40分から(日本初上映)

…来日ゲスト:クリス・マルティネス監督、ユージン・ドミンゴ(親友ルビー役)(予定)…
大阪アジアン映画祭の3日目に上映されたフィリピンの作品「100」の監督クリス・マルティネスさんに、舞台挨拶の合間に控え室で、単独インタビューをしました。

Q:この作品「100」で初めて監督をしたということですが、いかがでしたか?
監督:緊張しました。いままでに5本の映画の脚本を手がけてきましたし、舞台の演出もしてきましたから、準備は十分にできていました。いつか必ず監督をするだろうと思っていました。でも、いざ監督をするとなるとプレッシャーもかかりました。「監督をする」というのは私にとって生きている間にする「100」のことのひとつだったので、どうしてもしたいと思っていました。監督をするまでは死ねないと思っていましたから。

Q:映画のタイトルである「100」とは、今、監督がおっしゃったことがテーマとなっていますが、特に何を伝えたいと思われたのですか?
監督:人生は思った以上に短いということです。そして、思いっきり楽しんでほしいということです。主人公のジョイスは余命3ヶ月とわかり、それまでにする100のことをリストアップして実行していきますが、それは誰にとっても必要なことではないでしょうか?ひとつひとつやり遂げていくという思いを持つことが大切だと思います。たとえ若くて健康であろうと、年をとっていようと。

Q:次に、それぞれのシーンにおける監督の思いをお聞かせください。まずは、余命3ヶ月と知ったジョイスが会社を辞め、自分のために棺を選びに行くシーンについてお願いします。
監督:あのシーンはジョイスのキャラクターを考えて表現しました。彼女はとても有能な会計士という設定でしたから、棺の値段交渉なども淡々とこなしています。通常、フィリピンでも棺選びは死んでからするものです。だから、あのシーンはフィリピンでも、とても観客の方々にうけたシーンでした。
Q:次にジョイスが「100」のなかのひとつにあげた「食べ物をたくさん食べる」シーンについてお話してください。
監督:あのシーンはジョイスの生に対する執着を表わしています。いずれ食べることができなくなるであろうことは彼女にもわかっていましたから、あんなふうに「貪り食う」という感じで食べています。しかも、チョコレートやアイスクリームなど医者が反対するであろうものを大量に食べ、ポークも骨つきのものを食べています。健康ならあんな食べ方はよくないのでしょうが、彼女はなんでも反対のことがやってみたくなっているのです。

Q:次に一番聞きたかったことなのですが、オープニングシーンとラストシーンがつながっていて、とても美しいシーンで、ジョイスが手にしている黄色い付箋になにが書かれているのか、大変興味があるのですが。
監督:あれはジョイスの100番目の願いで何が書かれてあるかは、彼女にしかわかりません。観ている方の想像におまかせします。それぞれの人の100番目の願いと思ってください。
あのシーンはフィリピンのピィナツボ火山で撮影しました。1991年に噴火し、大変な被害をだしたのですが、今は穏やかになり、本来の美しさを取り戻しました。そのことも伝えたかったし、フィリピンのシンボルのようなものなので、あのシーンにふさわしいと思いました。


Q:監督が撮影で苦労したシーンはありますか。
監督:いままでコメディーを作ってきたので、ハッピーなシーンはいいのですが、ドラマックなシーンや静かなシーンは大変でした。特に神父が祈りを捧げるシーンでは、俳優の感情が高ぶって、涙でセリフが言えなくなりました。撮影当初から「あまりドラマ風ではなく、自然に」と言ってきたので、かえって感情移入しすぎてしまったのだと思います。

Q:ジョイスとルビーの女同士の友情がとても自然でよく表現されていましたが、男性の監督があんなに見事に表現するのは大変ではなかったですか?
監督:私には二人の姉妹がいますし、古い友人も女性が多いので、抵抗感なく描けました。彼女(となりに座っていたルビー役のユージン・ドミンゴさん)も昔からの友人なんですよ。女性に対して興味もありますし、今フィリピンでは女性の活躍が目覚しく、アクション映画などが今まで人気でしたが、最近はドラマなども人気がでてきましたし、ホラー映画でも女性を主役にしたものがつくられるようになりました。

Q:プサン国際映画祭で観客賞に選ばれたとお聞きしましたが、いかがでしたか?
監督:その前にフィリピンでも5つの賞を獲得しています。その後プサンでいただきました。家族や生命をテーマにしているので、どこの国でも受け入れてもらえるとうれしく思いました。日本でも受賞できたらいいなと思っています。

  クリス・マルティネス監督は、質問に対して的確に答えてくれ、気さくに話してくれました。理知的な話し方と温かい笑顔が印象的でした。この作品で女性の細やかな心理を描き、人生を大切に楽しむことを私たちに伝えてくれました。今後の活躍を大いに期待しています。
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