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新作映画
 つぶより花舞台
『つぶより花舞台 LIFE IS A STAGE』
〜“普通”の人々が
      人生という舞台で咲かせる花のさりげない美しさ〜

(2008年 日本 1時間18分 配給:鯨エンターテイメント)
監督:鯨エマ
ナレーター:土井美加
出演:かんじゅく座メンバー
2月28日(土)〜3月13日(金) シネ・ヌーヴォXにてロードショー(連日11:00〜&12:40〜の2回上映)
※3月7日(土)&3月8日(日)は12:40の回休映

公式ホームページ→
 監督の鯨エマは、女優・劇作家・演出家として舞台を中心に活躍する才媛だ。劇団青年座在籍中に劇団・海千山千を立ち上げて以来、自作の「お気楽社会派演劇」の公演を続けている。そんな彼女が「中高年にも小劇場演劇の楽しみを知ってほしい」と考え、新たにシニア・アマチュア劇団『かんじゅく座』を立ち上げたのは2006年9月のこと。「観る」のではなく「演じる」ことを通して演劇の魅力を広めようという逆転の発想が面白い。入団の条件は「50歳以上のアマチュア」。この呼びかけに14人の男女が集まった。本作は、劇団旗揚げから2007年3月の初公演に至る7ヶ月を追いかけた交流の記録である。
 前作『マンゴと黒砂糖』(2004)は、南洋群島帰還者が毎年行っている南洋群島慰霊墓参団ツアーに密着したドキュメンタリー映画だった。「戦後60年」「反戦」「慰霊」といったキーワードから、陰鬱な戦争ドキュメンタリーを予想したが、実際は違った。再訪したサイパンやテニアンで楽しげにはしゃぐ老人たちの姿に思わず頬がほころぶ、実に明朗な作品だった。
 事象よりも人間をこそ見つめる鯨エマの温かく優しい視線は、続く本作でも変わりがない。『マンゴと黒砂糖』が「戦争ドキュメンタリー」ではなかったように、本作も「演劇ドキュメンタリー」ではない。両作共に、「人間ドキュメンタリー」なのである。そして、この視線に宿る体温こそが、鯨エマの作家性と言えよう。

 鯨エマの作品には大仰さが無い。逆に言えば、目に見えたうねりが生じることもない。劇団員の最高齢者が69歳というのも、現在の視点から見れば特に驚嘆を呼ぶものではないし、14人の劇団員の誰一人として、突出したキャラクター性を有しているわけでもない。一様に“普通”なのだ。
 しかし、考えてみて欲しい。還暦を過ぎて新しいことに挑戦する劇団員たちの心意気そのものが、既にドラマティックではないか。34歳(当時)の鯨エマが、親子ほどの年齢差がある劇団員たちと共に一つの作品を作り上げていく様もまた同様である。
“普通”の人々が人生という舞台の上で咲かせる一世一代の花。そのさりげない美しさが愛おしい。
【喜多匡希の映画豆知識:『つぶより花舞台 LIFE IS A STAGE』】
・シニア劇団を描いた映画では、静岡県に実在するおばあちゃん劇団『ほのお』をモデルとした劇映画『ぷりてぃ・ウーマン』(2002)がおすすめ。淡路恵子、風見章子、正司照枝、草村礼子、絵沢萠子といった実力派のベテラン女優陣が実に楽しい。監督は『居酒屋ゆうれい』の渡邊孝好。アマチュア劇団の旗揚げから初舞台までを捉えたドキュメンタリーでは『らせんの素描(デッサン)』(1991)。大阪に暮らすゲイたちが演劇という手段で社会に対して自己表現を試みる姿を捉えた作品だ。ここでも様々な人生が花を咲かせている。
(喜多 匡希)ページトップへ
 ハルフウェイ
『ハルフウェイ』
〜友だち以上恋人未満の淡くてちょっぴりビターテイストな恋物語〜


(2009年 日本 1時間25分)
監督・脚本:北川悦吏子
出演:北乃きい、岡田将生、溝端淳平、仲里依紗、成宮寛貴、
    白石美帆、大沢たかお
2009年2月21日〜シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他にて公開

公式ホームページ→
 誰でも高校生の頃に誰かにときめいた経験はあるだろう。告白して上手くカップルになれた人もそう出来なかった人も、恋する者の切なさと愛される者の傲慢さを、この映画を通して追体験できるはず。それ程、ふたりの演技は自然体で身近な存在として活写されている。北海道余市の優しい風景に抱かれたツーショットは、きっと自分の想い出として記憶に残ることだろう。
 高校3年の二学期を迎えたヒロは人気者のシュウに片思いをしていた。勇気を出して告白しようとしたら、緊張して言えない。そんなヒロを見かねて逆にシュウの方から告白してくれた。それからというもの、立場は逆転。地元の大学へ行くヒロに対し、シュウは東京の大学を希望していた。それを知ったヒロは、「東京行くのにあたしにコクってどういうつもり?」とシュウに詰め寄る。「私はどうしたらいいの?」と思い悩むヒロ。卒業を控えたふたりの関係はどうなるのだろうか。
 本作は、あの『あすなろ白書』『愛してると言ってくれ』『ロング バケーション』などのTVドラマで、現代人の想いのたけを繊細なタッチで代弁して見せてくれた脚本家・北川悦吏子の初監督作品である。製作・編集に岩井俊二監督も参加しているので、その雰囲気は岩井ワールドに近いものがある。セリフにこだわってきた北川悦吏子が、殆ど主役ふたりのアドリブに任せたという。確かに、「彼の半径25メートル以内にいるとひゅーッてなる・・・」と言っていたヒロが、その後手のひらを返したように強気に出るのには驚かされる。また、タイトルにもなった『ハルフウェイ』という単語が出てくるシーンでは、「それはハーフウェイと読むんだよ」とシュウに指摘され、マジで困って周囲のスタッフに助けを求めるような仕草をしていたヒロの表情が可愛かった。アドリブでなければ出ない雰囲気に満ちている。
 『ラブファイト』で幼なじみの林遣人のためにボクシングに挑戦する頼もしい女子高生を演じた北乃きいが、今回もイケメン岡田将生相手に終始リードして奮闘する。一方、『魔法遣いに大切なこと』『重力ピエロ』『ホノカアボーイ』と目覚ましい活躍の岡田将生も、受け身だけどしっかりと彼女の想いを受け止める男らしさが光っていた。他に、それぞれの親友役である溝端淳平と仲里依紗の存在が、ふたりの秘めた心境を代弁していてまたいい。
(河田 真喜子)ページトップへ
 チェンジリング(伊藤バージョン)
『チェンジリング』  (Changeling)
〜登場人物に注がれる、監督の優しくも厳しい眼差し〜

(2008年 アメリカ 2時間22分(PG-12))
監督:クリント・イーストウッド
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ
公開日:2月20日(金)〜TOHOシネマズ梅田、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ伊丹、OSシネマズミント神戸、MOVIX六甲、109シネマズHAT神戸

公式ホームページ→
 1928年、アメリカ、ロサンゼルスで実際に起こった事件をもとに映画化。これが実話であることに驚かされる。そして、あらためてクリント・イーストウッド監督の人間を見る眼差しの深さに感じ入った。
  シングルマザーで一人息子のウォルターを育てながら仕事に励むクリスティン。ある日帰宅すると息子はいなくなっていた。数か月後、警察が発見したといって連れてきた少年は別人。しかし、警察は過ちを認めようとせず、息子だと言い張る。クリスティンは孤立しながらも、息子を探してもらうよう訴え続けるが・・・。一方、ロサンゼルス近郊の農場で、もう一つの事件が起き、警察に連絡が入る。
 監督は、二つの事件が絡んでゆくありさまを緊迫感豊かに描き、観る者をぐいぐいと引きつけてゆく。強大な警察権力を相手にひるむことなく、息子を見つけたい一心で闘い続けるクリスティンの母親としてのたくましさ、気丈さが圧倒的な強さで迫ってくる。と同時に、彼女を支える牧師や、別事件の捜査に携わる刑事とその事件で保護された少年など、周りの登場人物を丁寧に描きこむことで、物語に深みと奥行きが加わった。

アンジェリーナ・ジョリーと談笑する
クリント・イーストウッド監督
 警察には毅然たる態度で臨み、クリスティンを支え続けた牧師の反骨精神。ふとした疑問から、上司の命令に逆らって別事件の現場にたち戻った刑事の英断。犯罪を手伝わされて逃げ出せずにいた少年のみせた涙。無力で弱いあまり、悪に手を貸さざるをえなかった少年の姿はあまりに痛ましく、監督は、そんな少年を暖かく包み込むように描く。ほんの少しの勇気と良心が事件の運命を大きく変え、多くの人を救うことになることを映画は教えてくれる。
 監督は、悪に対しては容赦なく描きこんでいく。犯人がたどる末路も、省略することなくあえて最後までみせる。その姿勢は、過ちや腐敗を隠蔽しようとする警察にも向けられる。人の善意や愛を踏みにじる者たちに対しては、徹底的に弾劾していこうとする思いが伝わる。

 1920年代の街が再現され、大通りを緩やかに進んでいく路面電車の響きが心地よい。平凡に生活していた一人の母親が、突然、事件に巻き込まれ、絶望的な状況の中で最後まで諦めず、自分を信じ続けた姿は、観る者全ての心の奥深くに熱く迫ってくるにちがいない。音楽も監督が担当。美しいピアノの旋律が情感たっぷりに響き、ラスト、人間への信頼、希望が静かに伝わってくる。
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 7つの贈り物
『7つの贈り物』
〜贈り物はエミリーの笑顔とエズラの涙!?〜

(2008年 アメリカ 2時間03分)
監督:ガブリエレ・ムッチーノ
出演:ウィル・スミス(ベン)、 ロザリオ・ドーソン(エミリー)
ウディ・ハレルソン(エズラ)、 バリー・ペッパー
マイケル・イーリー
2009年2月20日(金)〜梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他 全国ロードショー

公式ホームページ→
 主演のウィル・スミスが「幸せのちから」に続いてガブリエレ・ムッチーノ監督と組んだ新作だ。しかも,題名が「7つの贈り物」ということで,主人公が7人の男女に幸せをもたらす贈り物を運んでいくというハート・ウォーミングな作品を予想していたが,その予想は見事に裏切られた。何しろ,プロローグでは,主人公ベンが911(救急)に電話をし,これから自殺すると告げるのだ。そして,彼がそんな状況に置かれた経緯が説明される。
 否,彼が立ち直っていく過程が描かれているのかも知れない…次第にそんな思いも浮かんでくる。プロローグで示された状況より前の出来事なのかその後の展開なのかさえ,区別が付かなくなってくる。それほどまで全編を通じてミステリアスな雰囲気に貫かれている。しかも,ベンには兄弟がいて,いつの間にか兄と弟がすり替わっている。それはベンが考えている計画と一体どのような関係があるのだろうか。色んな謎が積み重なっていく。
 ベンは7秒間で人生を叩き壊したという。確かにこの世の不幸をすべて背負っているような思い詰めた表情をしている。呪文のように7人の名前を唱える。それはベンが選び出した人物の名前とは違うものだ。ハイウェイで7人が犠牲となった悲劇を報じる新聞記事が映し出される。それにベンはどのように関わっているのか。これは贖罪に関する物語に違いないと思わせながら,映画の重点はベンとエミリーのラブストーリーへと移っていく。
 ベンが何かの目的で移り住んだモーテルの一室には,猛毒を持つというクラゲが持ち込まれる。フワフワと遊泳する姿は,優雅であると同時に妖しげな美しさを湛えている。まるで本作全体を象徴するような存在だ。ベンは幼心にその妖しさに取り憑かれていたのかも知れない。彼にとって,エミリーという生身の人間が放つ生命の輝きは,おそらく想定外のものであった。スクリーンの上には,ベンの苦渋に満ちた内面が克明に刻まれていく。
(河田 充規)ページトップへ
 チェンジリング(三毛家バージョン)
『チェンジリング』  (Changeling)
〜壮絶な母の戦いをアンジーが熱演〜

(2008年 アメリカ 上映時間:2時間22分(PG-12))
監督:クリント・イーストウッド
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコビッチ

公開日:2月20日(金)〜TOHOシネマズ梅田、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ伊丹、OSシネマズミント神戸、MOVIX六甲、109シネマズHAT神戸

公式ホームページ→
 「チェンジリング」とは「取りかえられた子供」のこと。これは、1928年、ロサンゼルスにまだ路面電車が走っていた時代に実際に起きた驚くべき事件を基に、名匠クリント・イーストウッドがメガホンをとった、母の愛と信念の物語である。主演のアンジェリーナ・ジョリーはひたすらに真実を追い求める母親を見事に演じ、見る者の心を打つ。
 女手ひとつで一人息子のウォルターを育てるクリスティン。ある日仕事から帰ると、息子の姿が消えていた。そして5ヶ月後、警察が探し出してきた息子は見も知らぬ他人だった。「私の息子じゃない!」必死の抗議も聞き入れられず、挙句の果てには精神病院に入院させられてしまう。そこには同じように警察に楯ついた女性たちが閉じ込められていた。再選を翌年に控え、ことを荒立てたくない市長、市長と癒着している警察署長、上の言いなりで権力をカサに着る担当刑事が大きな壁となり、真実をもみ消そうとする。
 いくら子供の成長は早くて、失踪期間の間にひどい目にあって様変わりしたと言っても別人とすりかえるなんて、普通に考えてあまりにも無理がある、と誰もがそう思うはずだ。だが、そのまっ黒な事実をあの手この手で白にしてしまう警察の汚いやり口にかかれば、たいていの人はここで泣き寝入りしてしまうだろう。腐敗した警察に断固として立ち向かう母の姿が人々の共感を呼び、やがて、この事件の裏側にある身の毛がよだつような事件と権力の腐敗が暴かれていく展開は、淡々と描かれるがぐいぐいと引き込まれていく。
 長い髪をなびかせて華麗なアクションで敵をやっつけるかっこいいアンジーはここにはいない。目深にかぶったクラッシックな帽子の下の大きな瞳には、ただ息子を愛し、どんな圧力にも屈しない決意が秘められている。映画の冒頭、母と子の何気ないやりとりが映し出される。愛にあふれ心温まる情景だ。そんなささやかな幸せを守るために、こんなに大きな犠牲を払わなければならない社会であってはならないと、強く感じずにはいられない。
(三毛家)ページトップへ
 キャラメル

(c) Les Films des Tournelles - Les Films de Beyrouth - Roissy Films - Arte France Cinema
『キャラメル』
〜時にほろ苦く、時に甘い人生を、
    ガールズトークで癒しあって謳歌しよう!〜


(2007年 レバノン・フランス 1時間36分)

監督:ナディーン・ラバキー 
出演:ナディーン・ラバキー、ヤスミーン・アル=マスリー、ジョアンナ・ムカルゼル
2月14日(土)〜シネ・ヌーヴォにて公開

公式ホームページ→
 ちょっぴりほろ苦くて甘いスイーツ、キャラメル。子どもの頃から慣れ親しんできたお菓子だが、レバノンで「キャラメル」といえば、「脱毛」。なんとムダ毛処理に使われているのだ。

ベイルートの小さなエステサロンを舞台に、5人のレバノン女性の日常が交差しあうことで生み出される物語を寄り添うような目線で描く。
 オーナーのラヤール(ナディーン・ラバキー)は30歳で独身だが、妻子ある男性との恋に右往左往。スタッフのニスリン(ヤスミーン・アル=マスリーは)28歳。結婚式を控え幸せの絶頂のはずなのだが、時折浮かない顔を見せる。淡々と仕事をこなすもう一人のスタッフのリマ(ジョアンナ・ムカルゼル)は24歳で、どうやら“女性”に惹かれている。妻であり母でもある常連のジャマルは、女優を目指しオーディションを受け続けているのだが「老い」の恐怖にとらわれている。エステサロンの向いにある仕立て屋のローズは65歳。姉の世話に束縛され、久しぶりの恋を楽しむことも出来ない。
 彼女たちの悲しさ、切なさ、苛立ちは、レバノン女性特有のものもあれば、普遍的なものもある。異文化の感覚と共感の思いがアナタの好奇心をくすぐるはずだ。
 その最たる場面は、ラヤールが恋人の誕生日を祝うために苦労して借りたホテルの一室で繰り広げられるガールズトークに尽きるだろう。ラヤールが一人で抱え込んでいた心情を打ち明けると、ニスリンも悩みを話し出さずにはいられないのだった。どんなにパーフェクトに見えても、悩みのない人なんていないものだ。親や恋人には言えないことがある。だからこそ、立場や年齢を超えてガールズトークのできる友情で結ばれた仲間は、人生を謳歌するのにかけがえのない存在なのだとあらためて気づかされる。
 また、大ぶりのゴールドのアクセサリー、原色づかいの大柄のプリントなど、彼女たちの装いも楽しみの一つだ。
 主演、監督、脚本までを手がけたナディーン・ラバキー。その美しさと才能には目を見張るばかりだ。演技経験のない素人の女性たちをキャスティングしたことにも驚かされる。東洋の香りと西洋のそれとがマーブル状に渦巻く、彼女独自の世界をまだまだ見せてほしくなるのだ。  
(原田 灯子)ページトップへ
 チェチェンへ アレクサンドラの旅

Proline-film c Mikhail Lemkhin

『チェチェンへ アレクサンドラの旅』
〜静かに浸透する戦争の虚しさと痛ましさ〜


(2008年 ロシア,フランス 1時間32分)
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、 ワシーリー・シェフツォフ
ライーサ・ギチャエワ、 エフゲーニー・トゥカチュク
2009年2月28日(土)〜シネ・ヌーヴォ、順次神戸アートヴィレッジセンター、京都みなみ会館 
にて公開
公式ホームページ→

 カフカスは,黒海とカスピ海に挟まれた地域で,南北に分かれる。ロシア連邦に属する北カフカスの中にチェチェン共和国が位置する。その首都グロズヌイに実在するロシア軍駐屯地とその周辺で本作は撮影されたという。ロシア軍は第一次(1994〜1996)と第二次(1999〜現在)の二度にわたりチェチェンに進攻した。このチェチェン紛争の中で,本作が生み出された。長過ぎる戦争は,ロシア兵とチェチェン人の双方から生気を奪ったようだ。

Proline-film c Mikhail Lemkhin
 戦争の描き方は色々ある。戦場での出来事を描いたものばかりではない。一人の若い兵士の休暇中の姿を追った「誓いの休暇」(1959・ソ連),長崎に原爆が投下される直前の庶民の生活を活写した「TOMRROW 明日」(1988・日本)などが思い出される。本作は,孫を訪ねて駐屯地にやってきたアレクサンドラの目を通して戦争を見詰めている。彼女は,駐屯地の兵士たちだけでなく,その外の市場へ出掛けて地元の人たちとも接する。
 カメラは,まず砂利の上に降り立ったアレクサンドラの足元を捉える。大地を踏みしめて歩く彼女の姿は,かつてロシア(ソ連)の映画で描かれた母親像を想起させる。彼女は,銃の手入れをする兵士たちに会ったり,自ら装甲車に乗ってみたりする。それらは,ただ人を殺すためにだけ作られた道具だ。彼女は,「破壊ばかりで建設はいつ学ぶの?」と問いかける。戦闘シーンが描かれるわけではないが,まるで殺りくシーンが見えてくるようだ。

Proline-film c Mikhail Lemkhin
 ロシアの兵士と対比するように地元の人々の日常の営みが描かれる。アレクサンドラは,市場で出会った女性の自宅に招かれる。そのとき,砲弾で傷められたアパートが映し出される。まるで建物の奥の方から慟哭が聞こえてくるようだ。戦争は人々の日常と心をむしばむ。地元の青年がアレクサンドラを駐屯地へ送っていくシーンには,異様ともいうべき緊張感が漂う。「優しかった青年から笑顔が失われていく。」というセリフが響いてくる。
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 ヘブンズ・ドア
『ヘブンズ・ドア』
〜ドイツ版とは違った甘くてソフトな感触〜


(2009年 日本 1時間46分)
監督:マイケル・アリアス
出演:長瀬智也、福田麻由子、長塚圭史、大倉孝二、田中泯、三浦友和
2009年2月7日(土)〜梅田ブルク7ほかにて公開

公式ホームページ→
 本作は,題名から窺われるように「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」(1997独)に着想を得た映画だ。いずれの作品もロードムービーであり,大筋の展開は非常によく似ているが,スクリーンから放たれるイメージはかなり違ったものになっている。それが象徴的に表れたのがラストシーンだ。また,あのボブ・ディランの名曲を今回はアンジェラ・アキがカバーしている。それが本作の雰囲気とよくマッチして,爽やかな印象を与えている。
 28歳の勝人(まさと)は,脳腫瘍で余命幾ばくもないと宣告される。14歳の春海(はるみ)は,骨肉腫で長い入院生活を余儀なくされている。そんな2人が出会い,いま天国で話題となっているという”海”を見るために病院を抜け出す。ドイツ版は,男2人の逃避行をコミカルなタッチで描いており,アメリカンニューシネマを想起させるものだった。本作では,男と少女のコンビに置き換えられたため,ソフトさが前面に押し出されている。
 また,脇のキャストの中では,2人を追う刑事に扮した三浦友和が,何とも言いようのないとぼけた感じで,いい味を出している。2人を追い掛けているのか見逃しているのか分からなくなってきて,いつしか2人を盛り上げる存在のように見えてくるのが面白い。また,長塚圭史の悪役ぶりも見逃せない。何だかサイボーグのような雰囲気を漂わせている。これにより勝人と春海のいる世界の人間的な温もりが強調される結果となったようだ。
 2人が海を向いて座るラストシーンは,ドイツ版とは男の傾いていく方向が異なる。ドイツ版では,相棒とは反対方向に倒れ,人間が死んでいくときは1人だという現実を突き付けられたようで,それまでの2人の逃避行が脳裡に浮かんできた。本作では勝人が春海の肩に頭をもたせかける形になる。少女が男を優しく包み込むような存在となり,優しさがある。本作が同じ監督の前作「鉄コン筋クリート」の変奏であることはもはや明らかだ。
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 旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ
『旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ』
〜飼育係たちの動物を思う情熱と優しさに心暖まる〜

監督:マキノ雅彦
(2008年 日本 1時間52分)
出演:西田敏行、中村靖日、前田愛、堀内敬子、長門裕之、六平直政、塩見三省、岸部一徳、柄本明、笹野高史
2月7日(土)から梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、三宮シネフェニックスほか

劇場鑑賞券プレゼント→

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 いまや全国から観光客が集まる北海道の名所、旭山動物園。一時は閉園の危機にも瀕した市立の動物園が、財政赤字を乗り越え、成功に至るまでの実話をマキノ雅彦監督が映画化。園長と新入りの若手飼育係吉田との交流を軸に、古参の飼育係たちの姿を描いた群像劇。こどもから大人まで楽しめるエンターテインメント作品。
 頑固な飼育係たちは、意見が異なり喧嘩することもあるが、動物をこよなく愛する思いは皆同じ。「行動展示」など生き生きした動物の姿を見てもらうため、知恵を絞りアイデアを出し合って、新しい取組みに挑戦してゆく。園長役の西田敏行をはじめ、長門裕之、塩見三省、岸部一徳、柄本明と個性的な俳優たちが持ち味を発揮。わいわいがやがやした雰囲気が楽しい。
 ペンギンやゾウ、白クマと、普段目にすることのできない、動物園の裏側でのさまざまな表情をみることができる。全国の動物園で映像を撮り貯めたというだけあって、生身の動物たちの表情はユニーク。俳優たちの顔が、動物のようにみえることもあったりして、おもしろい。
 子どもの頃いじめられっこで人づき合いが苦手な吉田が、動物園での仕事を通じて、議論し、自分の意見を出していけるようになる姿は頼もしい。弱肉強食が当たり前の動物の世界で、人間だけが、弱者を守り活かしてゆくことができるという。動物園で飼われている動物たちは、ライオンやトラのように強くても、餌をもらうのは人間からで、むしろ弱者の側。飼育係たちの動物への深い愛情や優しさから、人間の心のすばらしさも感じとることができる。
 雪の積もった動物園の風景や、坂の上からみおろした街の風景も美しい。動物と人間、人間同士の、人情味たっぷりの世界を観て、きっとあなたも久しぶりに動物園に行きたくなるにちがいない。
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 オーストラリア

『オーストラリア』
〜久々に風格を備えた一大ロマンの味わい〜

(2008年 アメリカ 2時間45分)
監督:バズ・ラーマン
出演:ニコール・キッドマン、 ヒュー・ジャックマン、 デヴィッド・ウェンハム
ブライアン・ブラウン、 ジャック・トンプソン、 デヴィッド・ガルビリル
ブランドン・ウォルターズ
2009年2月28日(土)日比谷スカラ座他 全国ロードショー

配給:20世紀フォックス映画
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 バズ・ラーマンは,「母国オーストラリアの豊かで魅力に満ちた歴史を探究する大作を撮る」という決意を固め,ストーリー作成に取りかかったという。その意図が見事に実現されており,オーストラリア先住民アボリジニへのオマージュのような作品に仕上がっている。この壮大なストーリーは,ロンドンにいる主人公サラの視点ではなく,白人とアボリジニの混血児ナラが見た情景からスタートする。ここに監督の思いが端的に表れている。
 ナラの祖父キング・ジョージの姿は,オーストラリアの守護神のようで神秘的でさえある。サラは,夫から受け継いだ牧場を守るために牛を売却しようと考え,牛追いのドローヴァーらの助けを借り,1500頭の牛を引き連れて9000キロの行程の旅に出る。敵役フレッチャーの策略で牛の大群が暴走するシーンと,その後の水を求めて砂漠を横切るエピソードでは,キング・ジョージに体現されるアボリジニの魂にスクリーン全体が覆われるようだ。
 また,オーストラリアの自然が壮大なスケールで映し出される。乾季とは打って変わって,雨季には水が満ちて緑が映え,まるで楽園のようだ。サラは,この季節の変化に対応するように,オーストラリアの大地に育まれて劇的に変化し,強靱な意思を身に付ける。だが,サラがオーストラリアの精神を感じ取るまでは,もう少し時間と経験が必要だったようだ。彼女とドローヴァーやナラとの関係を包み込んで,更に世界は大きく動いていく。
 本作では,フレッチャーが常にサラの行く手を妨げるという敵役を担わされ,これによってストーリーが盛り上がりを見せる。ただ,その人物設定にはやや物足りなさを感じる。彼のナラやその母親との関係を掘り下げれば,白人がアボリジニと良好な関係を築けなかった悲しみまで描写できたかも知れない。だが,これを欠いても,キング・ジョージがサラをオーストラリアの大地に根付かせ,ナラがその様子を見届けた,という構図は揺らがない。
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 我が至上の愛〜アストレとセラドン
『我が至上の愛〜アストレとセラドン』
〜小説と絵画と演劇が融合したラブ・コメ〜

(2006年 フランス,スペイン,イタリア 1時間49分)
監督:エリック・ロメール
出演:ステファニー・クレイヤンクール、アンディー・ジレ、セシル・カッセル
2009年2月7日(土)〜テアトル梅田、3月中旬〜京都シネマ、3月下旬〜神戸・三宮シネフェニックス にてロードショー公開
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 エリック・ロメール(1920年生)がまたまた軽快なタッチの恋愛映画を撮り上げた。マノエル・ド・オリヴェイラ(1908年生)に比べると若いけれども,その最新作「夜顔」に負けず劣らず,円熟の旨さを存分に味わわせてくれる。ゆったりと流れる時間の流れに身を委ね,透き通るように美しい映像と韻を踏んだような会話のリズムに目も耳も奪われる。
 原作は,オノレ・デュルフェによる17世紀初めの大河小説「アストレ」で,キリスト教伝来前のドルイッド僧がいた5世紀のガリア(現在のフランス)を舞台として,羊飼いの青年セラドンと娘アストレの純愛が描かれている。喜劇的な展開が心地良く,しかもセラドンが愛しいアストレと会うために女装するので,シェークスピアの「お気に召すまま」などの喜劇と何となく似通ったところがある。
 セラドンは,アストレから「目の前に再び現れないで」と言われ,絶望のあまり川に身を投げたが,ニンフ(精霊)に救われて館に運ばれる。そこの女主人ガラテは,セラドンに一目惚れするが,それを表に出すのはプライドが許さないので隠そうとする。その本心が態度に現れるのを取り繕おうとする様子が笑いを誘い,この辺りから俄然面白くなる。

  また,僧侶の姪レオニードもセラドンに心惹かれるが,彼のアストレに対する想いを前に,恋人ではなく妹への愛を注いで欲しいと言うのが,切なくて可愛らしい。彼女の計らいで,セラドンが女装するのだが,アストレがいつどうやって衣装の下に隠れているセラドンを見付けるのか,演劇的興趣が盛り上がる。

  何と言っても,キャスティングが良い。セラドン役のアンディー・ジレはモデル出身で,アストレには「セーラームーン」のファンだと言っていたステファニー・クレイヤンクールが扮しており,2人とも絵画から飛び出したような美しさで魅せてくれる。確かに,セラドンが何人もの女性を魅了し,アストレがセラドンの心を奪ったとしても,無理はない。
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