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★ 第17回大阪ヨーロッパ映画祭(2010)レポート

 『40』 エムレ・シャーヒン監督、サラ・ウィーナビープロデューサー インタビュー


インタビュー 終了後の記念撮影


『40』(仮題) (Forty)
エムレ・シャーヒン監督、
サラ・ウィーナビー プロデューサー インタビュー

監督・脚本:エムレ・シャーヒン(2009年 トルコ・アメリカ 1時間27分)
出演:コフィ・シリボエ、クウェシ・ボアキェ

 第17回大阪ヨーロッパ映画祭で上映されたトルコ=アメリカ映画『40』は、イスタンブールを舞台にそこで生きる3人の主人公の運や運命を絡ませ、エネルギッシュに今のトルコ、イスタンブールを映し出した力のある作品だ。
 今回、上映にあたって監督のエムレ・シャーヒン氏と、パートナーでプロデューサーのサラ・ウィーナビー氏が来日し、本作に懸けたイスタンブールへの思いやトルコの映画制作事情など興味深い話を聞かせてくれた。
━━━撮影がすばらしかったですが、この映画で描きたかったことはどんなことですか?
エムレ・シャーヒン氏:この映画の中ではイスタンブールを中心に据えて、イスタンブールを描きました。今イスタンブールはルネッサンスの再来と言われるように本当にいろんな変化があって、すごくエネルギーが満ちあふれている。そういうエネルギーをビジュアル的な映像美というものと併せて描きたいと思いました。
━━━高校の頃からアメリカに渡られて活動をしておられますが、アメリカに行ったことでイスタンブールに対する見方は変わりましたか?
エムレ・シャーヒン氏:人生の半分はアメリカで過ごしていることになりますが、やはりアメリカに行ってその国の見方は変わりましたね。イスタンブールをまた別の角度から見れるようになりました。今までイスタンブールに住んでいるときには見えなかった何か、小さなことが見えてきたり、ノスタルジーもあります。
サラ・ウィーナビー氏:トルコを出て、別のところに行くことによって改めて自分の国の良さが分かります。今まで「汚い」と思っていたものが、逆に「美しい」と見えたりします。
━━━作品の中で、イスタンブールの下町の風景や暮らしている人々の様子がドキュメンタリーのように差し込まれていて非常に生き生きとした感じがしますが、それは先ほどの「汚いと思っていたものが美しく見える」との考えを反映しているのでしょうか。
エムレ・シャーヒン氏:アメリカで10年ぐらいドキュメンタリーを作っていましたので、そういう美的な感覚とか見方が下地にあります。先ほどの「汚いところ」の話で言えば、私の両親は「どうしてイスタンブールの汚いところばかり映すんだ。もっときれいなところがあるでしょ。」と言うのですが、我々にとってはそこが面白いし、そこが好きなんです。イスタンブールの下町にはそこなりの美しさがあります。また、今もイスタンブールはどんどん投資されて、古いところや汚いところは壊されて新しいものが建てられていて、5年のうちにそういうものは全部なくなってしまうかもしれない。だから、そういうものを今のうちに撮っておきたいのです。
サラ・ウィーナビー氏:ストーリーは誰か一人の話ではなく、実際のイスタンブールの人や本当にある話です。典型的なイスタンブールの街や人をドキュメンタリースタイルで描いています。タクシードライバーやナースは映画のキャラクターですが、実際の街の中に置いてストーリーを構成しています。それにより、非常にエネルギーを表せるのではないかと思いました。

━━━昨年の東京国際映画祭でサクラグランプリを受賞した『ソフィアの夜明け』がどこでもあり得る若者が持つ閉塞感を表しているように、『40』はとても普遍性のある内容を持った作品だと思いました。脚本の発想はどうやって考えられたのでしょうか。
エムレ・シャーヒン氏:イスタンブールを描いていますが、もっとグローバルで、特に感情の部分で普遍性があると思います。5、6年前にお金が入ったカバンを題材にした短編を作りました。それが気に入ったので、チャンスがあればそれを広げて大きなストーリーにしたいと思っていたのが発想の一つとしてあります。
二つ目は、イスタンブールを歩いていると、築500年ぐらいの非常に古い建物に上半身服を着てなくて、汚れてすすけたようなアフリカ人が働いていて、パッと見たときにお互いに10秒ほど見つめあったんです。今イスタンブールはたくさんのアフリカ移民がいるのですが、彼らがどういう人たちなのか、何をしているのか、なぜ来たのか、そういうことをいろいろ考えていたわけです。
それからタクシードライバーは私の友人で非常にクレイジーでエネルギッシュなドライバーがいるので、そういうのを当てはめたり、ナースはイスタンブールのエキゾティックな感じとか神秘的な感じを出したいと思い、キャラクターを作っていきました。

カラフルな街にカラフルな人たちがいるということで、スナップショットでいろいろなものを見せたかったのです。私たちの親の年代が見ているイスタンブールと子供の年代が見ているイスタンブールとずいぶん変わってしまう。その中で今を掴みとりたいのです。

サラ・ウィーナビー氏:街が歴史的な背景をもっているし、バッグ一つにしてもいろんな人がいますから、みんな違うイメージや意味を考えます。それぞれ自分の考えや感情があって、神秘的なこと、いろいろな宗教が街にあります。人口が非常に多い大都市なので、映画を見る人が何か自分が投影されているという感じを受けるのです。この映画ではたくさんの人たちをこの3人に凝縮して、反映させています。

イスタンブールは非常に変化している街で、今ドアを開けて外に出たらバッグが落ちてくるかもしれないし、何が起こるか分からない。何でもありという感じがイスタンブールにはあります。そういうのが大事なことなんです。

面白いのは、私はそのキャラクターの中に希望をみていて見方が違うんです。例えば、ストーリーでみると非常に悲しいんですけど、アフリカ人の彼は常に希望を持って、何があってもそれに向かっていくというのは私にとって希望のあるキャラクターだと思います。

━━━本作のキーワードとして運や運命がクローズアップされていますが、監督自身運や運命を感じた経験が脚本に反映されているのでしょうか?
エムレ・シャーヒン氏:運命とか運とかそういうものがトルコの文化の非常に大きな部分を占めています。人は何かがあったときに「それは運命だから」という言い方をするのですが、それはトルコの文化に根付いているのです。「40」という数秘学であろうと、運命であろうと、トルコの文化を考えたときに、そこの部分が非常に面白いと思っています。例えば一つのことを見ても皆説明が違います。運や運命、チャンスとかそういう風に人がものに対処したり、それに納得したりしていて、形容詞のような混沌とした感じを表したいと思いました。

━━━トルコの映画は非常にシリアスなドラマとエンターテイメント極端に分かれると思うのですが、お二人はどの路線を目指されますか?
エムレ・シャーヒン氏:するどい指摘で、言い当てていると思います(笑)。トルコで年間80本制作される映画のうち半分がブロックバスターを目指すようなコメディーだったり、ドラマで、残りの半分は非常にシリアスでスローでアーティスティックで映画祭向きなんですが、私たちは真ん中をいきたいです。ヘルシーな映画のセクターを作りたいです。アーティスティックでありながら皆が観たいなと思うエンターテイメントの要素を持った映画。例えばタランティーノ監督のような人たちが映画祭好きの人たちも映画ファンも気に入る、そういう方向で作っていきたいと思います。

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 10年ぐらいドキュメンタリーを作っていたエムレ・シャーヒン氏が初めて臨んだ長編映画は、その経験が存分に生かされたビビッドな作りが魅力的だ。アフリカ移民などの問題にも踏み込み、イスタンブールの多面性や民族性を垣間見ることだろう。来年にはDVD先行ではあるが配給が決まり、日本での公開も決まったそうで、本国以外初めての配給といううれしい知らせにお祝いムード満点の和やかな取材となった。
 今回映画祭で見逃した方も、是非来年エムレ・シャーヒン監督、サラ・ウィーナビープロデューサーが紡ぎ出したイスタンブールの真の姿を体感してほしい。
(江口 由美)ページトップへ
   
             
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