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『ビルマVJ 消された革命』 原案/脚本/助監督:ヤン・クログスガード氏インタビュー


(C) 2008 Magic Hour Films

『ビルマVJ 消された革命』(原題:BURMA VJ)
原案/脚本/助監督:ヤン・クログスガード氏

(2008年 デンマーク 1時間25分)
監督/脚本:アンダース・オステルガルド
原案/脚本/助監督:ヤン・クログスガード

2010年5月15日〜シアター・イメージフォーラム、
6月5日〜第七藝術劇場、初夏〜京都シネマ、神戸アートビレッジセンター他全国順次公開

公式サイト⇒http://burmavj.jp/

 2007年9月にビルマで起こった反政府デモと軍部による弾圧。日本人ジャーナリスト長井健司氏がビルマ取材中に射殺された映像も含め、デモの様子を撮影し国外に送り続けたVJ(ビデオジャーナリスト)たちと革命の全貌を映し出すドキュメンタリー『ビルマVJ 消された革命』が5月15日からシアター・イメージフォーラム、6月5日から第七藝術劇場他全国で公開される。

 それに先立ち、デンマークから原案/脚本/助監督のヤン・クログスガード氏が緊急来日し、本作の背景やビルマ軍事統制の現状、VJたちの果たす役割などを語ってくれた。

<脚本のアイデアはどこから生まれたのでしょうか。>
父親が第二次世界大戦中のドイツで育ち、ひどい体験をして心に傷を負ったまま大人になったため、そのことが自分に影響を与え、権力や欲望のためにわざと人を傷つけることに大きな嫌悪の念を抱いていたヤン・クログスガード氏(以下、ヤン氏)。その体験がきっかけでベトナム戦争が東南アジアにどんな影響を与え、その傷を受けた人がどういう風にその傷を癒そうとしてきたかに興味を持ったそうだ。

ヤン氏「この『ビルマVJ』は人々が人間としての尊厳をどう維持していくかがテーマだと思っています。大変屈辱的な状況である中で、何かしなければならない、そういうことに興味があります。」

以前にもビルマ問題を題材として映画を作ろうとしていたヤン氏。しかし、新しい語り方で映画を作ることができなかったという。そんな中、2005年DVB(ビルマ民主の声)がテレビ放送を開始した。初めてビルマ国民が国営以外のメディアを見ることができるようになり、DVBのビルマVJメンバーは国民に新しい窓を作り出したのだ。

ヤン氏「VJたちは人間としての尊厳を保つために闘っている人々であると言えます。今日のようにグローバルな世界に生きている私たちにとってこれは普遍的なテーマではないでしようか。2007年にVJたちは大変なリスクを冒してでも弾圧を撮影して海外に送信し、それがNHK、CNNなどを通じて私たちの目にも入ってきました。こういう風に撮影し、放送することによって軍政の弾圧を世界に見せていたのです。VJたちはビルマ国民を守っていたと言えるでしょう。もし撮影していなかったら、軍政は1988年には大変ひどい弾圧をして3000人もの人が亡くなっているのと同じように弾圧したかもしれません。ただその様子が見られることが分かっていたので抑止されていた、そういう意味でVJたちがしてきたことは大変重要な物語なのです。」

<語り手のジョシュアとはどのように出会ったのですか。>
VJになる前に撮影の仕方を学ぶ講座の生徒だったジョシュアと出会ったというヤン氏。
ヤン氏「ジョシュアは合った時からこの人と仕事をするべきだというのが分かりました。彼は面白くて魅力的で、ひるまず、話が上手で、私と同じくブラックユーモアのセンスがありました。ビルマVJに取り組むにはどうしてもブラックユーモアが必要なのです。大事なのは我々がどういう作品を作ろうとしているのかをすぐに理解してくれたこと。共同制作者のようなもので、すごく一緒に仕事をするのが楽でした。」

<実際の映像を多数使用したり、再現映像も効果的に取り入れていますね。>
ヤン氏「再現したのは実際に起きた出来事だけです。たまたま実際に起きたけどカメラが回っていなかった、そういう状況を映すために作りましたが、実際に起きたことを再現するよう細心の注意を払いました。ビルマの人々にとって、歴史的な出来事であったデモと弾圧の様子を世界のなるべく多くの人に見てもらって何かしたいと思ってもらうためには、再現してある映像がすごく効果的だと思っています。」

<長井さんの映像はあんなに長いスパンで撮っていた映像が存在したのですが。>
ヤン氏「長井さんがいたデモを数人のVJが撮影していました。長井さんもデモのときに中を動き回って撮影していたので、VJたちも彼に気付いていました。その日長井さんの他にもたくさんのビルマ人が亡くなりましたが、撃たれたところが映っていたのは長井さんだけでした。軍政の際限ない暴力、例外がないこと、外国人でさえも殺されることを示すために、この部分を映画で絶対使わなければいけないと思いました。」

<映画では触れられていないようなひどい軍事統制が起こっているのでしょうか。>
インターネットが個人でアクセスできない他、インターネットカフェでも自由に閲覧ができない。捜索が入ったときに、もし軍政に批判的なページを見ていたり、ブログで書いていたりするのが見つかると逮捕され、ひどいときには40年の刑を受ける時があるという。
ヤン氏「また、『母』という言葉を歌や詩で使ってはいけません。アウンサン・スーチーさんを想像させたり、隠語的に使ったり、彼女のことを指しているかもしれないからです。赤ちゃんが最初に話す言葉であるかもしれないのに、使ってはいけないのです。」

<軍政を続けられるというのは情報統制が一番大きいのでしょうか。>
ヤン氏「情報統制が一つと、際限のない暴力が一つです。国民のほとんどはインスパイアされる情報に触れることができません。国営メディアは嘘ばかりということを国民は知っているけれど、何が真実かは知らされません。ビルマには軍以外のエリートが今いない状態です。何か変革を起こすためには知らなければいけない、でもそこがない状態なのです。」

僧院が襲撃された翌朝インタビューされている場面で、インタビューされていた僧侶はみな逮捕されてしまい、今も収容されているそうだ。インタビューしたVJは自分がインタビューしたせいで捕まってしまったことで大きなジレンマに襲われているという。どこまで善のために仕事をし、どこまで被害を受けとめるべきか、命がけで生のビルマを撮影するVJたちの苦悩もまた計り知れない。

ビルマの現状を知りつくしたヤン・クログスガード氏は、ビルマ軍事政権や情報統制の強硬ぶりなど我々の想像をはるかに超える数々のエピソードを次々と語ってくれた。本作を鑑賞することによって、革命の真実を知り、伝えることが「これ以上悪くなる」のを防ぐ大きな手立てとなるのだろう。
是非多くの方に劇場でVJ(ビデオジャーナリスト)が命を懸けた真実の映像を見ていただきたい。

(江口 由美)ページトップへ

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