空族の現場というのは、フィクションであっても僕らにとっては本当なんです。空族の映画に惹かれるのは、カメラを向けたときに作るのではなくて、その土地が映っているんですよ。空族の撮る映画の中に僕が立つことはすごくチャレンジだったし、怖い部分もありましたが、ああいう独特の個性的な役をいただいたし、甲府は行ったことがなかったので、撮影前に何回かリサーチしました。本当に少ない日数での撮影だったんですけど、感想としてはめちゃめちゃおもしろかったです。空族の映画づくりのノウハウというか、フォーメーションがあるんですよね。自主映画といえば自分たちで好きな映画を撮っているではなく、自分らが撮りたいものを呼び込むフォーメーションは、間違いなく日本を代表する現場だと思います。
もう一つ空族がおもしろいのは富田さんは日頃仕事をしながら、週末に映画撮影をして、仕事もして、また週末集まって撮影して、それを毎週毎週やっているんです。大きな現場というのはみんな一ヶ月集まってごそっとやって終わりですが、今回の撮影を冷静にみてまた準備して、またそれに向けて準備して、週末に向けてまたテンションを上げていって、ちゃんと終わったら打ち上げやみんなで飯を食ったりするんですよ。僕にとっては新しい映画づくりに感じるし、逆に言えば自分たちの撮りたい映画を自分たちのペースで撮ることができる。となると空族の持っている制作体系というのは、すごくユニークで、それがあるからああいう力強い映画ができると思います。
━━━ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞されましたが、世界ではどんな反響がありましたか。
富田:ロカルノでもナントでもそうなんですが、一番最初に皆が口をそろえて前置きとして言ってくれるのは「日本という国への認識を僕たちは改めたよ。」やはりそれは今までの(日本の)映画が通り一辺倒だってことですよね。日本というのは経済大国でお金持ちの国で、そこの域をでてない。しかも日本で撮られる映画といえば東京か、自然豊かな山の中といった形になってしまいがちで、あれぐらい中途半端でローカルな町が舞台になって延々とそこで繰り返す人々のストーリーをヨーロッパの人が目にすることもないです。だから当然驚いたと思うんです。さらに言うならばそこに移民というヨーロッパの人たちが日常的に抱える問題も絡んでいて、日本も自分たちと同じ問題を抱えている国ではないかという点で認識を改めたと。それを前置きとして言ってくれた上で、文化として映画が日常的に芽吹いていてそれを大切にしている人々なので、ものすごい鋭い意見はでました。
━━━特に、印象的だった意見は?
富田:ナントに行ったときに現地の映画学校の編集の先生が「『サウダーヂ』の編集はミラクルだ。すべてのショットの替わり際に驚きがあった。あの編集はどうしてやったんだ。俺には想像もできない。」と誉められたことです。僕も編集ということに関してはかなり考え抜いてやったことだったので、フランスという映画の発祥の国の、映画学校のしかも編集の先生に誉められたのはすごくうれしかったですね。
━━━富田監督が今の日本のインディーズ映画について思うことを教えてください。
富田:インディーズ映画のいい面と悪い面が当然あります。あらゆる人が簡単に映画というものを作れる環境になったのはいいことです。ただそれをやる上でやはり映画が映画として持っているべき力というのはあるはずで、撮影方法が簡単になったことでそれが失われることはあってはならない。歴史ある映画に肩を並べるべく拮抗していかなければならないと思っています。とはいえ、そういう映画だけが偉いという訳でもないので、そこはインディーズだからこそできるものをバンバン作ればいい。だからすごく難しいんです。
---------------------------------------------------------------------------------
誰も描いたことのない地方都市の生々しい姿に肉薄し、国内外で観る者に衝撃を与えた富田監督の言葉には、自主制作映画でしか撮れないものを作るという気概に満ち溢れていた。
また、今回初めて空族の作品に参加した野口さんの現場体験談から、制作現場の熱気が伝わってきた。次回はタイを舞台にした作品を考えているという富田監督、これからも生きた土地と人間の香りがする作品を生み出してほしい。