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 『サウダーヂ』富田克也監督、
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『サウダーヂ』富田克也監督、野口雄介さん(天野幸彦役)インタビュー
『サウダーヂ』
ゲスト:富田克也監督、野口雄介さん(天野幸彦役)

(2011年 日本 2時間47分) 
監督:富田克也
出演:田我流、鷹野毅、伊藤仁、まひる、ミャオ、野口雄介他

2012年2月11日〜シネ・ヌーヴォ、3月3日〜第七藝術劇場、3月24日〜新京極シネラリーベ、4月14日〜神戸アートビレッジセンター他全国順次公開。
・作品紹介⇒こちら
・公式サイト⇒
http://www.saudade-movie.com/
※ナント三大陸映画祭グランプリ「金の気球賞」受賞作
 地方都市、山梨県甲府市を舞台に、そこで生きる土方の男たちや、ブラジル人コミュニティー、そしてタイ人コミュニティーなどの派遣労働者たちがもがきながら生きていく姿を、土の香りがする映像とパンチの効いた音楽で焼き付ける『サウダーヂ』が2月11日よりシネ・ヌーヴォをはじめ関西の劇場で順次公開される。関西での上映に先駆け、富田克也監督、主人公天野の弟役として個性的な役柄に挑んだ野口雄介さん(天野幸彦役)に話をうかがった。
━━━本作の着想はどこから得たのか、今まで富田監督が作ってきた作品と『サウダーヂ』の関連性はあるのか、そのあたりの経緯をお聞かせください。
富田:
前作『国道20号線』では、いわゆる地方都市のバイパス、ロードサイドで、中心街が寂れて、ロードサイドに大型商業施設ができて、みんな車に乗って駐車施設のあるところに人が流れてしまう流れの中で、そのロードサイドにいる人々の映画を作りました。僕らの中で典型的になってしまった地方都市の風景みたいな、どこへ行ってもその風景が延々と続くといった作品です。

次に何を撮ろうかと考えたときに、今度はもう少し視野を広げて、ロードサイド云々ではなく、それを含んだ一つの大きな街を舞台に、街自体を舞台にしてみようと思いました。今の地方都市は、ここ十数年不景気だなんだということを含めて、空洞化だとか、疲弊した地方だとか延々と言われてきたわけですが、そういう言葉は聞きあきるほど聞いた訳で、それが実際ぼくらの目の前にどういう形で現れているのかを描きたかったのです。

僕の映画にはずっと僕の友人であり仲間たちがずっと主演をしてきてくれたので、基本的には身近な人間の生活の中から僕らはエピソードを拾いだして映画を作ってきたわけです。そんな土方の友人の話を聞いていると、土建業もバタバタと潰れていっちゃって、仕事がなくてヒイヒイ言ってる。僕らが学生時代というのは頭が悪くて勉強できなくても、悪さをしていても、土方になれば生きていける時代だったけれど、僕らが抱いていたものがついになくなり始めた。じゃあ土方を主人公にして土方の目線から切り込んで今の疲弊した地方都市を描こうという発想に至りました。そこから街全体を捉えるべくリサーチに入り、タイ人やブラジル人がいるということで、一つの地方都市を描くには日本人だけじゃなく、そういった色々な人が自然に入ってきました。

━━━今までは友人に主演してもらっていたとのことですが、本作のキャストはどうやって選んだのですが、?
富田:
2007年の年末ぐらいから1年に渡ってリサーチに行きました。リーマンショックがきて、そのあと北京オリンピックが終わって、鉄鋼の特需がストップして、ブラジル人たちが一斉解雇された。年も越せない、ブラジルに帰りたいけど帰れない。僕はちょうどそういう彼らのところに入り込んだわけで、そこから一緒に過ごす中で彼らの状況を見聞きし、「出てほしいな」と思う人にはどんどん声をかけて仲良くなっていったんです。
でもリサーチが1年にも及ぶわけですから『サウダーヂ』を作るまでにかなりの時間待たせてしまう。実際『サウダージ』を撮るときになったら、主演のデニスというブラジル人役の男の子に「もう帰らなきゃいけない。」と言われ、自分が地元なので彼の職探しをして、彼の仕事をみつけて映画を撮り終わるまではなんとかそこにいてもらうということもありました。タイ人の女の子も僕が入ったタイ人コミュニティーの中で知り合った人たちだし、前作までになかったことで言うと、野口君とか土方役の川瀬さん、まひるさんなどプロの俳優さんに入っていただいたことですね。

━━━撮影で一番大変だったのはどういった点ですか。
富田:
いわゆる一般商業映画のやり方の、企画から始まって資金集め、映画を撮るために集まるというわけでありません。ほぼ逆で、まずそこに人々がいてそれを撮りたいと僕らの方から実際撮りたい人たちに会いにいって、その人たちに合わせて撮るというやり方ですよね。映画に人々を合わせているのではなく、映画の方から合わせにいくんです。ドキュメンタリーというのはある種今起こっていることまでですが、それを元にして一歩先に踏み込めるのがフィクションで、だからフィクションにしかできないことをやりたいのです。

━━━富田さんが所属する「空族」は配給まで手がけられてますね。
富田:
20代前半の頃に今の中心メンバーがお互いにそれぞれ別の場所で自主制作を作っていて、僕が『雲の上』という作品を撮り終って、脚本を一緒に書いてる相沢も作品を撮っていて、この二本を同時上映しようということで、自主上映会をやり始めたんです。2003年ごろは今みたいにインディペンデント映画が劇場でかけてもらえるような時代でもなかったので、渋谷のミニシアターを一晩箱借りして二人の作品を合わせて同時上映を始めたんです。そのときに僕らが外に向けて名乗れる名前ということで空族と名付けました。それからずっとそのときのままいまだにやり続けています。

どこからかお金もらって撮っているわけでもないし、誰に頼まれて撮っているわけでもないから、結局好き勝手なことを撮るわけです。だからこそ僕らが自主制作映画でやるべき題材や内容があると思っていたし、一般商業映画で絶対作られないようなものを僕らが作った。そうすると簡単に配給はつかないわけですよ。だからあらゆることを自分たちでやるということになって、製作も配給も宣伝も自分たちでやってきました。自分たちだけでやってきたものが果たしてどれだけ世の中に受け入れられるかどうかは未知数だったわけです。『国道20号線』も配給会社に持ち込んだりもしましたが、門前払いでした。本当にそうなのかなと思っていたら、実際上映してみたら「いい」と言ってくれる人が色々なところに結構いたんです。今回も世間一般の理屈やシステムには乗らずに、どこかに自分たちが共感する仲間がいるだろうと思って上映活動を展開してきて、その仲間がみつかって『サウダーヂ』の興業が広がっていきましたね。

━━━プロの俳優である野口さんが、空族の映画の現場を体験してみていかがでしたか?
野口:
空族の現場というのは、フィクションであっても僕らにとっては本当なんです。空族の映画に惹かれるのは、カメラを向けたときに作るのではなくて、その土地が映っているんですよ。空族の撮る映画の中に僕が立つことはすごくチャレンジだったし、怖い部分もありましたが、ああいう独特の個性的な役をいただいたし、甲府は行ったことがなかったので、撮影前に何回かリサーチしました。本当に少ない日数での撮影だったんですけど、感想としてはめちゃめちゃおもしろかったです。空族の映画づくりのノウハウというか、フォーメーションがあるんですよね。自主映画といえば自分たちで好きな映画を撮っているではなく、自分らが撮りたいものを呼び込むフォーメーションは、間違いなく日本を代表する現場だと思います。

もう一つ空族がおもしろいのは富田さんは日頃仕事をしながら、週末に映画撮影をして、仕事もして、また週末集まって撮影して、それを毎週毎週やっているんです。大きな現場というのはみんな一ヶ月集まってごそっとやって終わりですが、今回の撮影を冷静にみてまた準備して、またそれに向けて準備して、週末に向けてまたテンションを上げていって、ちゃんと終わったら打ち上げやみんなで飯を食ったりするんですよ。僕にとっては新しい映画づくりに感じるし、逆に言えば自分たちの撮りたい映画を自分たちのペースで撮ることができる。となると空族の持っている制作体系というのは、すごくユニークで、それがあるからああいう力強い映画ができると思います。

━━━ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞されましたが、世界ではどんな反響がありましたか。
富田:
ロカルノでもナントでもそうなんですが、一番最初に皆が口をそろえて前置きとして言ってくれるのは「日本という国への認識を僕たちは改めたよ。」やはりそれは今までの(日本の)映画が通り一辺倒だってことですよね。日本というのは経済大国でお金持ちの国で、そこの域をでてない。しかも日本で撮られる映画といえば東京か、自然豊かな山の中といった形になってしまいがちで、あれぐらい中途半端でローカルな町が舞台になって延々とそこで繰り返す人々のストーリーをヨーロッパの人が目にすることもないです。だから当然驚いたと思うんです。さらに言うならばそこに移民というヨーロッパの人たちが日常的に抱える問題も絡んでいて、日本も自分たちと同じ問題を抱えている国ではないかという点で認識を改めたと。それを前置きとして言ってくれた上で、文化として映画が日常的に芽吹いていてそれを大切にしている人々なので、ものすごい鋭い意見はでました。

━━━特に、印象的だった意見は?
富田:
ナントに行ったときに現地の映画学校の編集の先生が「『サウダーヂ』の編集はミラクルだ。すべてのショットの替わり際に驚きがあった。あの編集はどうしてやったんだ。俺には想像もできない。」と誉められたことです。僕も編集ということに関してはかなり考え抜いてやったことだったので、フランスという映画の発祥の国の、映画学校のしかも編集の先生に誉められたのはすごくうれしかったですね。

━━━富田監督が今の日本のインディーズ映画について思うことを教えてください。
富田:
インディーズ映画のいい面と悪い面が当然あります。あらゆる人が簡単に映画というものを作れる環境になったのはいいことです。ただそれをやる上でやはり映画が映画として持っているべき力というのはあるはずで、撮影方法が簡単になったことでそれが失われることはあってはならない。歴史ある映画に肩を並べるべく拮抗していかなければならないと思っています。とはいえ、そういう映画だけが偉いという訳でもないので、そこはインディーズだからこそできるものをバンバン作ればいい。だからすごく難しいんです。
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 誰も描いたことのない地方都市の生々しい姿に肉薄し、国内外で観る者に衝撃を与えた富田監督の言葉には、自主制作映画でしか撮れないものを作るという気概に満ち溢れていた。
また、今回初めて空族の作品に参加した野口さんの現場体験談から、制作現場の熱気が伝わってきた。次回はタイを舞台にした作品を考えているという富田監督、これからも生きた土地と人間の香りがする作品を生み出してほしい。

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