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★『海炭市叙景』熊切和嘉監督インタビュー

(C)
2010佐藤泰志/『海炭市叙景』製作委員会

『海炭市叙景』 熊切和嘉監督(36)インタビュー
変わりゆく時代そのもの、
      日本全国の現状を生々しく捕らえた傑作〜


(2010年 日本 2時間32分)
監督:熊切和嘉
出演:谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、南果歩、小林薫、伊藤裕子、黒沼弘巳、大森立嗣、あがた森魚、東野智美、森谷文子、村上淳、西堀滋樹、中里あき

2010年11月27日〜函館先行公開、12月18日〜渋谷ユーロスペースにて全国順次公開
2011年1月8日(土)〜第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、 3月〜神戸アートビレッジセンター、近日公開〜高槻ロコナイン・プラスにて公開
*2010年12月18日(土)京都駅ビルシネマにてプレミア上映決定!!
公式サイト⇒
 http://www.kaitanshi.com/

 映画監督はいくつもの顔を持つ職業人である。中には小津安二郎監督のようにひとつの主題、ひとつの方法を生涯極め、世界に名を轟かせる名匠もいる。デビュー作にその監督のすべてが詰まっているという説はけっこう当たってもいる。一方、「犯人に告ぐ」の瀧本監督から「出来るだけいろんなもの、特に前作とは正反対のものをやったみたいもの」と聞いたことがある。それほど映画監督って多彩で不可思議な人種なのかもしれない。にしても、熊切監督の波乱万丈、千変万化は衝撃的、感動的ですらある。
 熊切監督の「海炭市叙景」を見てその思いを深くした。熊切監督といえば、デビュー作は「鬼畜大宴会」(97年)。この映画がどれぐらい凄まじい内容か、は見た人ならお分かり。凄まじいまでの残酷描写で度肝を抜いたこの作品がベルリン国際映画祭国際映画祭に招待され、タオルミナ国際映画祭ではグランプリを受賞。これが大阪芸術大学(芸術学部映像学科)の卒業制作というのだから恐れ入る。それほどの“偉才”監督はごく普通の大人しげな若者だったから2度びっくり。
――なぜ「海炭市−」を?
熊切監督 「最初は小説(佐藤泰志原作)に惹かれた。私は帯広出身なので、好きな役者を北海道へ連れて行きたかった。出だしの兄の下山をひたすら待っている妹(映画では谷村美月)から、ヒリヒリした悲しい出来事の予感がした。そんなに日の当たらないところに目を向けているのに共感できた」。

――88 〜 90年、バブル絶頂期のころの話だが
熊切監督 「原作は漁港と炭鉱のある街を描いている。今の時代を予感した内容は読んですんなり入れた。(バブルは)さほど意識しないで(映画を)作れた。オファーがあったのは2年前、函館に行った時に佐藤さんの小説を教えられ全集を購入した。出口のない小説。映画は分かりやすく救いを作ろうと思えば作れるが、ありのまま明暗を抱えて、それでも生きている…そんな人々の姿に引きつけられた。地味といえば地味だけど、ホントにそこに人が生きているという映画ですね。だから主役は町なんです」。
 ――函館には?
熊切監督 「函館に住んだことはないけど、行くたびに朝日を見ている。地元では、函館は錆びついたトタン屋根ですね。リアルな生活者の視点で撮れないか、と意識した。撮影前にアパート借りて住んだら、函館が好きになった。カメラ(近藤龍人)と2人で日の出を見に行った。見られなかったんですが、映画は皮膚感覚で見ていった。脚本家(宇治田隆史)とは、きれいごとにはしないように、と。だから後半、とっちらかっているけど、故郷に立ち帰るつもりで撮った」。
――函館市からも期待されてたと思うが
熊切監督 「地元の新聞に載りましたからねえ。プレッシャーはありました。こんな(町が主役の)撮り方は初めてだったが、その分、シンプルだと思う。気合で凝視しているような映画だと思う」。

――監督志望はいつから?

熊切監督 「中学時代からですね。子供のころから映画は好き。最初は漫画好きだったけど、漫画だと映画撮れないんで…。大学に入ってから短編映画撮った。“鬼畜大宴会”でグランプリもらったけど、いわゆるカルトムービーなので、確信はありませんね」。
 【海炭市叙景】
1990年に42歳で自ら命を絶った佐藤泰志の“幻の傑作”が原作。佐藤氏の故郷、函館がモデルの「海炭市」を舞台に、そこに生きる人々の姿を描いた群像小説で、佐藤氏の自殺で未完に終わった。全18の短編小説のうち、5つの短編を選んで宇治田隆史が脚本化した。幸福な時間を失い、町の変貌する様子をきめ細かく描いて変わりゆく時代そのもの、日本全国の現状を生々しく捕らえた傑作。
【STORY】
@「まだ若い廃墟」 海炭市の造船所が一尾閉鎖され、大規模なリストラに組合員たちは揺れ動く。ストの甲斐なく敗れた兄(竹原ピストル)は妹(谷村美月)は初日の出を見るために山に登るが、帰りは2人でロープウェイに乗るお金がなく、兄だけ歩いて降りることに。だが、下で待つ妹の前に兄はなかなか現れない。

A「ネコを抱いた婆さん」 70歳のトキ(中里あき)は産業道路沿いの古い家に住んでいた。地域開発のため、周辺の家々は次々と引っ越し、残るはトキの家だけ。市役所からは毎日のように立ち退きを説得に来るが、トキは断固として拒み続ける。

B「黒い森」 プラネタリウムで働く隆三(小林薫)は、厚化粧して飲み屋に勤める妻(南果歩)に頭を痛めていた。時々家を空ける妻を問いただすがそれは2人の距離を遠ざけるだけだった。

C「避けた爪」 父親から代々続くガス屋を継いだ晴夫(加瀬亮)は事業がうまくいかず、苛立っていた。再婚した元同級生の勝子(東野智美)が晴夫の不倫に気づき、嫉妬心から息子のアキラを虐待していた。ガスボンベをを足の指の上に落とした晴夫はアキラのアザに気づく…。

D「裸足」 長年、路面電車の運転手を務める達一郎は電車の前を通り過ぎる息子の博を見つけるが、息子は東京から帰って来ているのに父親と会おうとせずにいた。墓参りで鉢合わせした2人は帰りのバスで何年ぶりかの会話をかわす…。
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