★『ハーブ&ドロシー
アートの森の小さな巨人』佐々木芽生監督インタビュー |
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『ハーブ&ドロシー
アートの森の小さな巨人』
(原題:HERB & DOROTHY)
ゲスト:佐々木芽生監督
(2008年 アメリカ 1時間27分)
監督:佐々木芽生
出演:ハーバート・ヴォーゲル、ドロシー・ヴォーゲル他
出演アーティスト:クリスト&ジャンヌ=クロード、チャック・クロス、ロバート・マンゴールド他 2010年11月13日〜渋谷シアターイメージフォーラム、12月〜梅田ガーデンシネマ、2011年1月〜シネリーブル神戸、2月〜京都シネマほか順次公開
・作品紹介⇒こちら
・公式サイト⇒http://www.herbanddorothy.com/jp/ |
公務員ながらコツコツと現代アートコレクションをつづけ、最後に全てのコレクションを全米の美術館に寄贈した伝説の夫妻のドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー アートの世界の小さな巨人』が11月13日東京を皮切りに、全国で順次公開される。
ニューヨークに22年間住み、本作が初監督作品となる佐々木芽生監督が来日し、本作を作ることになったきっかけや、ハーブ&ドロシー夫妻から学んだこと、そして人生を豊かに生きる秘訣をざっくばらんに語ってくれた。
■心臓が痛くなるぐらいに感動。これは「人間の持つ情熱の話」。
━━━ハーブ&ドロシー夫妻と初対面のとき、どんな感想をお持ちになりましたか?また、そこから映画を作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。
最初に二人の話を聞いたのは2002年だったんですけど、NHKの番組取材をしているときで、撮影用にワシントンのナショナルギャラリーに行ったんですね。クリスト&ジャンヌ=クロードの展覧会を取材したのですが、展示されている作品が全部ハーブ&ドロシーの作品だったんです。その二人がどういう人かを初めて聞いたときに、「そんなすごい人がいるんだ!」と思って、なんか心臓が痛くなるぐらいに感動というか衝撃を受けました。この二人の話をいつか、どんな形か分からないけれども、そのときはマスコミの仕事をしていたので、日本に紹介しようと思っていたんです。
その2年後の2004年、クリスト&ジャンヌ=クロードを囲んで表彰するパーティーにこの二人が来てたんですよ。周りのアート関係のオシャレな人たちの中に、あのおじいちゃんとおばあちゃんが普通の買い物帰りみたいな感じで来ていて、すごく場違いみたいなんですけど、見ているとその二人のところにみんなが引きつけられるように集まって、挨拶をし、本当にその場の中心になっているんです。その場のエネルギーが素晴らしかったんですよ。それで、やっぱりこれは紙の媒体じゃなくて、映像で見せると面白いんじゃないかなと思いました。二人に会って自己紹介をして、1週間後に招待してもらうまでにいろんなリサーチをすると、世界中のマスコミに扱われていたのが非常に表面的だったんです。郵便局員と図書館司書のすごく風変わりなアートコレクターがたまたま運良くこんなコレクションを築いちゃいましたみたいな感じだったんですよね。
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でも私はこの二人の話を聞いて感動したときに、これは人間の持つ情熱の話じゃないかと思ったんです。人というのはお金がなくてつまらない仕事をしていて、冴えない人生かもしれないけれど、自分の持つ情熱というのがあって、それにどんどん従っていくときに本当に豊かな人生になるんじゃないかと。人が幸せに生きるのは何か、生きていくってどういうことなのかをすごく考えさせられたというか。自分が本当に好きなことを決めてそれに従っていけるという大切さやパワーに感動したのかなと思います。
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■ストーリーテラーというか、このすごい人たちのすごい話を語りたい。聞いて、聞いてという感じ。
━━━最初は短編だったそうですが、どうやって現在の形になっていったのですか?
映画を撮ったこともないし、アートのことも全然知らないし、30分ぐらいのなら撮れるかなと思ってました。なるべくお金がかからないようにと自分でデジカメを回して、半年ぐらいすれば30分ぐらいできるんじゃないのと。そのうちにドツボにはまってしまったんですけど(笑)。いろんな人に話を聞いたり、取材するうちに、この二人はもしかしたら歴史に残るすごい人なんだということが分かってきて、私のヘタクソなデジカメでは追いつかないということが分かってきたので、最初は自腹を切ってでもカメラマンを雇って撮った方がいいということで、撮り始めました。
この二人の場合は、コレクターという人生はもう終わってたんですよ。だから、ふりかえって回想録という感じだったじゃないですか。普通回想録でドキュメンタリーって、本人たちが生きていたら座ってインタビューをとって、それに昔の映像とか古い写真とかをかぶせたり、関係者にインタビューをとったりすごくつまらなく仕上げるんですけど、二人がおじいちゃんおばあちゃんで、本当に前みたいにコレクションしていないといっても、いろんなところにチョロチョロ出ていく訳ですよ。そのチョロチョロしている感じがすごくかわいくて、それを生かしたいと思いました。
最初から過去と現在を織りなすような作りを考えていました。だから過去の話をしていてもすごくイキイキ、そんな古くさい話にならないように、今でも動いているという躍動感を出しました。4年間かかったのですが、最後の1年間は編集をしながら撮影をしたので無駄がなかったです。エリートっぽいドキュメンタリーはあまり好きじゃなくて、ドキュメンタリーもエンターテイメントじゃなきゃいけないと思います。今でも監督といわれてウッとなるけど、ストーリーテラーというか、このすごい人たちのすごい話を語りたい。聞いて、聞いてという感じで、それがたまたま映画だったという感じです(笑)
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■問題に思っていたことが、この映画のテーマでした。「ただ見てそれが自分の心に響くものがあるのか、ないのか。」
━━━ハーブ&ドロシー夫妻は作品に対して「ただ好きだから」ぐらいのコメントしか言わなかったと聞きましたが、そのあたりもう少し詳しく教えていただけますか。 |
ドキュメンタリーでアートコレクターの話を撮るときに、あなたのコレクションは?ということをきちんと説明できなければ成立しない。「だってきれいだから。」とか、「この作品いいじゃん。」とか言われても、何なの?みたいな感じで、これは困ったなと思ったんですね。結局ルチオ・ポッツィというイタリア人のアーティストに相談したら、「この二人は素晴らしいんだ。なぜアートを講釈つけて解説する必要があるんだ。」と。「これはビジュアルアーツなんだからとにかく見るということが大事なのであって、解説は必要ない。」
例えばリチャード・タトルが映画の中で、「あの二人は目から入ってきた情報を脳にもっていって講釈しないで、ハートにすぐに持っていくんだ。」と言います。普通は頭にプロセスしていろいろカチャカチャ考えますよね。そんなこと二人はしないから素晴らしい。それを聞いたときに本当に目から鱗で、本当に問題だと思っていたことがこの映画のテーマになったんです。
現代アートのことを全然しらなくて、たくさん勉強したんですけれど、一番二人と過ごして学んだことはそこでしたよね。それはアートに限らず小説でも映画でも何でもそうだと思うんですけれども、ただ見てそれが自分の心に響くものがあるのか、ないのか。それは良くても悪くても。心を開いてそういう作品と向き合うというのがアートにとって一番大事なことじゃないかと思うんですね。
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■「私たちはごく普通な人間なのに、この映画を見ると特別な人に見える。」
━━━ハーブ&ドロシー夫妻に密着していて一番驚いたことは何ですか?
やはり二人が、だんだんスゴい人だということが分かってきたことが、一番の驚きでしたね。こんなに小さくて普通のおじいちゃん、おばあちゃんが実はとんでもない人なんだということが。作品を初めて見終わったときにドロシーが「なんか私たち、特別な人みたい。」とか言って。「私たちはごく普通な人間なのに、この映画を見ると特別な人に見える。」とすごく感動してくれて、涙ボロボロみたいな感じだったので、それを見てすごく感動したんですけど。
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新作で美術館に行って子どもたちを撮影したときに、ガイドさんがある彫刻の前で「はい、みなさん今から1分間この彫刻をじっと見つめましょう。」と、子どもたちが必死で1分間じっと見てる。その目がハービーとおなじ目なんです。ハーブ&ドロシーは子どもと同じなんだと思います。
■有名だろうが無名だろうが関係ない。自分たちが好きだったらそれでいい。
━━━続編『Herb&Dorothy 50×50』を現在撮影中だそうですね。
この二人の作品は全米50の州に50作品ずつ分けて寄贈されているんです。一介の郵便局員と図書館司書が集めたコレクションを全米の美術館に残らず寄贈するというのはアメリカのアートの歴史に残るっていうスケールなんですね。彼らの寄贈を受けた後、コミュニティーにどういう影響を与えているのかという受けて側の映画です。
『Herb&Dorothy』には有名なアーティストしかでていませんが、実は全然無名のアーティストもたくさんいるんです。続編では無名のアーティストを紹介しようと思うんですけれど、無名のアーティストであっても彼らは親みたいな感じで、世界中の誰もその作家に興味がないときに、ハーブ&ドロシーは本当に真剣にいつでもそこの作品を観てくれる。有名だろうが無名だろうが何にも関係ない。自分たちが好きだったらそれでいい。アーティストたちも「ハービーたちがいなければ、とっくにアーティストを辞めていた。いてくれたからすごく励みになった。」と言いますね。
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■何も失うものがない自由な感じって本当に素晴らしい。
━━━監督の経歴を拝見すると、まさに映画のような激動の人生ですが、異国で学んだこと、そして日本の女性に夢を実現させるコツを教えていただけますか? |
日本の会社を辞めてインドに行ったときは、着ているものを売って、食いつないでいったんですけど、最後に何もなくなるんですよね。靴も売って、ジーンズも売って、何もなくなったときに、本当に自由になったんです。何も失うものがないから、この自由な感じって本当に素晴らしかったんです。それを思ったら何でもできると、インドの体験が根底にあると思います。そのとき会った人たちも本当におもしろかったし、人生ひっくり返されました。生きているだけでいいんです。それで十分なんです。
本当にいろんな人と仕事をしたけれど、日本人の女性は一番仕事ができるんですね。間違いなく、世界で一番。これから世界を動かすのは日本の女性だと思う。がんばってほしいです、心からそう思います。自分が幸福かどうかを決めるのは人や状況じゃなくて、全部自分の頭の中なので。本当に能力があるから、自分のできる範囲で生かしてほしい。たとえばみんなそれぞれが才能を持って生まれてきたと思うんですけど、その才能を世の中の人と共有できたときに、すごく大きな力になるので、それに気が付いてほしいですね。
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「やりたいことは全部やったし、まさか映画を撮るとは思わなかったけど(笑)だから、明日死んでも悔いはない。」と締めくくった佐々木監督。製作途中は苦しみの底にいることの方が多かったと本音も語りながら、「太子町で漁師とシーシェパードといえば飛んで行ってしまう!」とその行動力が本作の源になっていることは間違いない。インタビューの話同様、本作を観終わった後に、心豊かに生きることは特別なことではないことを実感することだろう。
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