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★『ダンシング・チャップリン』合同記者会見 (2011.3.15)

(C) フジテレビジョン/東宝/アルタミラピクチャーズ/電通/スオズ

『ダンシング・チャップリン』合同記者会見
ゲスト:周防正行監督、草刈民代


(2011年 日本 2時間11分)
監督:周防正行
出演:ルイジ・ボニーノ、草刈民代、ジャン=シャル・ヴェルシェール、リエンツ・チャン

2011年4月16日〜銀座テアトルシネマ、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショー
公式サイト⇒  http://www.dancing-chaplin.jp/
〜チャップリンへ愛を込めて、バレエの美しい表現世界への誘い〜

  『ファンシーダンス』(‘89)、『シコふんじゃった』(‘92)、『Shall we ダンス?』(‘96)、『それでもボクはやってない』(‘07)と、寡作ながらもそれぞれ大ヒットを飛ばす周防正行監督が今回挑んだのは、バレエ映画。ローラン・プティがチャップリンの映画に捧げたバレエ作品『ダンシング・チャップリン』を、ルイジ・ボニーノと草刈民代の有終の美を飾る作品に仕上げた。バレエという研ぎ澄まされた身体表現の極致を、芸術を極めようとする者の情熱と忍耐強さが結集して表現された作品といえる。本作は、第一幕〈アプローチ〉と第二幕〈バレエ〉に分かれており、途中5分間の休憩が入る。

 『Shall we ダンス?』で草刈民代を一躍世界の「タミヨ」にし、彼女のバレエダンサーとしての円熟期を支えた周防監督。彼の映像作家としてのこだわりは、バレエ作品『ダンシング・チャップリン』を映画化するまでの60日間を捉えた第一幕〈アプローチ〉によく表れている。中でも振付家ローラン・プティとの交渉はかなり神経を削ったようで、ロケーションを入れたい周防監督に、それなら協力しないと言い出すプティ。それから、途中でパートナーを代える草刈民代の苦渋の決断など、普段うかがい知れない製作現場の緊迫した場面はとても興味深い。そして、第二幕〈バレエ〉へ。本来全2幕20場ものを13場1幕に絞って映像に納めて、一気にバレエの醍醐味を堪能できる内容になっている。
 本作のキャンペーンのため来阪した周防正行監督と草刈民代の記者会見が開かれ、作品にかける想いを語ってもらった。

 ――― 『Shall we ダンス?』以来15年ぶりとなるお二人でのお仕事ですが、監督と女優としての印象は如何でしたか?
監督:今回はバレエという草刈民代が生きてきたフィールドに私がお邪魔する立場なので、事前によく相談しながらやりました。例えば、ダンサーは決められた時間に合わせてコンディションを作っていくので、映画のように不規則な時間では踊れないと言われ、スタート時間を決めて、それに合わせてスタッフも準備を進めていきました。そういう意味では、監督というより「どうすれば完璧な映画が撮れるか」と尽力するプロデューサーや助監督のようなパートナー的意味合いが強かったですね。
草刈:私の方は、私以外の出演者は外国の方で、しかも映画撮影経験のない方ばかりでしたので、舞台と撮影の違いや撮影に必要なことを説明して、出演者とスタッフの仲介役を担ってました。

――― 今回の撮影を通じて、夫婦として刺激になったことや変化したことは
監督:別にないです。今までもお互いの仕事をカバーし合ってきましたから、夫婦だからといって特別なことはありません。
草刈:よくその質問を受けるのですが、私達は専門分野での仕事をしてきているので、夫婦だからどうということはあまり考えたことはないです。創作活動する人間は理解し信頼し合うことが重要です。そういう意味では信頼関係を築く手間は省けたと思います。 創作活動をしている人は、もっと奥深いところで真剣に取り組んでいるのですから、夫婦だからどうという以前の次元で作品を観て頂くと、もっと楽しんで頂けるのではないでしょうか。

――― 「舞台中継にはしたくない」と劇中でも言われていましたが、そのために工夫したことは?
監督:バレエは舞台芸術なので、振り付けは基本的に正面客席に向かって作られています。最終チェックも真ん中の客席に座って調整されます。そこがベストポジションなんです。いくら映画のカメラは自由だといっても、バレエの表現の美しさや形の美しさを正確に捉えるのは正面真ん中から撮るのが一番。だけど、そこにカメラを据えっぱなしではバレエの世界をすべて捉えられない。空間が違う。劇場のようにバレエダンサーや観客の熱気や息遣いまで伝えることができない。もっともっとスクリーンの方から観客の心を捉えに行かなければバレエに集中させられない。そこで、ダンサーをアップで見たりとか、振付家が想定しない真上からのアングルとか、映画ならではのシーンでない限り、カメラは正面から動かないようにしました。
よくある劇場中継のように、通しで撮って後で編集するというやり方では、舞台のリズムではなく編集のリズムで見せてしまうことになるので、そうはしたくなかったのです。あくまでも、バレエの世界を損なわないように心掛けました。

――― ローラン・プティとロケを入れるかどうかで緊迫した空気になっていましたが、ロケや舞台装置などにもっとオリジナリティを出したいと思っていましたか?
監督:いえ、あくまでもこれはローラン・プティがチャップリンに捧げた舞台作品『ダンシング・チャップリン』の映画なので、映画監督の私がそれをどうやって撮るかで、一番重要なのは、ここでできあがった踊りをどうやって皆さんに伝えるかということでした。

警官が公園で踊るシーンとラストシーンの2箇所は希望通りに表で撮れました。セットも衣裳もほぼ舞台のままでしたが、『街の灯』の塀の長さだけは2倍にしました。チャップリンと盲目の女性の姿を追うために、塀を長くして移動車で撮影しました。それらはローラン・プティの了解を得てなかったので、完成してからパリにいる彼に見せに行く時は恐かったですねぇ。OKもらってホッとしたのか、翌日は熱を出して寝込んでしまいました(笑)。

――― ローラン・プティの作品世界について教えて下さい。また、今回何かやり取りはあったのですか?
草刈:今回の映画化については喜んで下さいました。
ローラン・プティの作品は、とても演劇的であり、なおかつ踊りでないと表現できない世界観を持っています。彼以降、演劇をバレエで見せたり、動きの面白さで踊りを作ってみたりする振付家が次々と出てきましたが、ローラン・プティはクラシックバレエからひとつ発展させたバレエ芸術の先駆者といえる振付家です。動き的には今の振付家のような複雑な動きは一切ないのですが、役柄や踊りのニュアンスとか状況を踊りによって表現できる人でなければできないバレエです。
私が彼の作品をプロデュースした理由は、踊りの表現とはこういうものだとすごく解りやすく、初めてバレエを観る人にも伝わりやすいクォリティの高さと面白さがあったからです。
今回の映画にもそれらはよく表現されていますので、新しいバレエ世界の可能性と、踊りの表現の面白さを感じて頂ければ、また見る世界も広がるのではないかと思われます。
――― 映画化したい!と思われた強烈なキッカケは?
監督:
ローラン・プティの奥様のジジ・ジャンメールさん(かつてのバレエ界の大スター)が、『ダンシング・チャップリン』はとてもいい作品なので映像化を考えなさいとルイジに言ったのがキッカケです。
しかも、「タミヨにぴったりの役だし、夫は映画監督なので」という訳で、ルイジが草刈に相談。チャップリンの役はルイジしか踊れない上に彼も60歳ですし、丁度草刈も引退を控えていたので、商業映画に出来なくても最低限記録映画としてしっかりとしたものを残そうと思いました。そこで、プロデューサーに相談したら、どうせなら商業映画を撮ろうということになったのです。
そもそも、『ダンシング・チャップリン』はローラン・プティがチャップリンの映画に捧げた作品なので、それを映画監督の私がもう一度映画にすることはとても面白いことで、挑戦しがいのあることだと思いました。彼らとの長い付き合いもあり、ルイジは草刈の引退公演にも出演してくれたし、これは映画化すべきだなと。草刈は引退公演直後から準備に入りましたので、結果として、単なる舞台映像の記録ではなく、商業映画にすることで、映画版『ダンシング・チャップリン』ができた訳です。
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★『ダンシング・チャップリン』舞台挨拶 (2011.3.15)
 夕方、朝日生命ホールにて行われた『ダンシング・チャップリン』舞台挨拶付先行上映会では、いち早く本作を鑑賞したお客様から上映後大きな拍手が沸き起こった。そして、本日のゲスト周防正行監督、主演の草刈民代さんが登壇、東京での被災にもかかわらず駆けつけてくれたお二人へ、さらに大きな拍手が起こった。

まず、最初にお二人からのご挨拶:
監督:この上映会を開催するかどうか迷いましたが、今自分ができることをしようと思い、チャリティーの上映会にさせていただきました。

草刈:この作品を観るのは昨年の3月以来ですが、前回見たときはまだ踊り手目線から離れられませんでした。表現する人たちの役割は何なのかを考えてみると、観ているときに何も考えないで没頭できるような作品が作れることではないかと。芝居や演技をすることで、みなさんに時間を忘れていただく表現者を目指していきたいです。

上映の感動覚めやらぬ会場で、本作を作ることになったきっかけから、最終的にこのような形(前半アプローチ、後半バレエの2部構成)になった経緯など、興味深い話が次々と飛び出した。

――― 本作を作ることになったきっかけ
監督:有名なバレリーナ、ジジ・ジャンメールさんが、ローラン・プティさんが振り付けをした『ダンシング・チャップリン』の主演、ルイジ・ボニーノさんに「いい作品だから映像化すべき。この作品は民代にぴったり。」と声をかけてくれたのがはじまりです。実はバレエの映像化はとても難しくて、舞台以上になることは難しいんです。でも今回は映画の王様チャップリンを題材にしたバレエなので、映像化するにはいいだろうと思いました。

草刈:最初は半信半疑でしたが、最後の踊りだけど、通常の踊りの仕事のように踊りきりました。

――― 前半がアプローチ、後半がバレエの2部構成になるまで
監督:全幕で2時間ちょっとを映像化するにあたって、映画としては長いだろうと判断し、どうやって映画でお客さんが飽きないように作れるかを考えました。全幕の中からチャップリンの映画とダイレクトに結びつく、たとえば『キッド』とか『街の灯』みたいなシーンを選んでみて、また、舞台だとヒロインの着替えのために他のメンバーが出演しているようなシーンを削って『ダンシング・チャップリン劇場用』を作ったのですが、今度は1時間になってしまって、これでは短すぎると。
そこで周りに言われたのが、「せっかくバレリーナの妻を15年間も観続けてきたのだから周防流のバレエの見方があるはずだ。」

実は、クランクインまでもずっとカメラを回していたのですが、スタッフからは「クランクイン前までが面白い。」と言われたんです。バレエをどう作るのかふつうの人は知らない。そこで1部をクランクインまでのアプローチにして、2部のバレエがより楽しめる要素をはからずしも盛り込む結果となりました。例えば、「公園で撮るならやらない」とプティさんから言われたが実際はどうなったのかとか、『黄金狂時代』のチャップリンがパンのダンスをするシーンを挿入することで、2部のバレエでプティが手の先にトゥ・シューズを入れて踊るシーンにつながっていたり、知っている人が踊るということで親近感を持って観てもらえると思います。もともと、この映画を作る条件が、初心者の人がわかりやすいようにドキュメンタリーを作ることだったものですから。

――― 撮影でのエピソード
監督:本作はキャストもルイジがフランスでオーディションをしたので、シナリオを書かなくてもいい、キャスティングをしなくてもいい初めての作品でした。でも通しで踊れるのは2回だけと最初から言われていたので、撮影現場の緊張感は非常に高かったです。撮影しているときは、ブレずに撮れているかを気にしていましたが、編集しながら客観的にみたときに、(草刈民夜さんが踊る)空中のバリエーションの場面で「きれいだな」と満足しました。今まで身内の踊るバレエは怖いと思っていましたが、今回は本当に撮ってよかったです。

――― 観客へのメッセージ
監督:本作を観て、バレエに馴染みのなかった人もバレエを知ってもらいたいし、またチャップリンの映画を観たことないような人でもチャップリンの作品を観てみようかと思ってもらえたら幸せです。
草刈:踊りを深く体感できる作品、踊りを観ることの楽しさをぜひ味わってください。

 舞台登壇前に、久しぶりに映画を客席の後ろから鑑賞したという草刈民代さんは、現役時代の踊り手目線ではなく「ぼおっと見られた」と語ってくれた。それがどういうことなのかまだ口で表現できる段階ではないと断りを入れながらも、今までとは別のスタンスで作品を鑑賞する新しいステージに立っていることを確信しているように見えた。
 バレエの魅力とチャップリンの魅力、そして舞台を作り上げる魅力、それら全てを限りなくシンプルに、最高のエンターテイメントとして私たちに見せてくれた夢のような作品。高揚した気持ちを胸に、会場を後にした。

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