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『小さな町の小さな映画館』舞台挨拶レポート
『小さな町の小さな映画館』舞台挨拶レポート
(2012.3.3 元町映画館)
ゲスト:森田恵子監督

(2012 日本 1時間55分)
監督: 森田恵子
協力:大黒座、蠍座、びばいシネマ、シネマ尾道

2012年2月25日〜シネ・ヌーヴォX、3月3日〜元町映画館、3月31日〜京都みなみ会館、4月14日〜シネマルナティック他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.chiisanaeigakan.com/
 町から映画館が次々に消えていって久しい。町の映画館といった光景がもはや貴重体験となりつつある今、商店街の映画館として一昨年誕生した元町映画館で、北海道にある映画館のドキュメンタリーが上映される。
  北海道の襟裳岬に近い人口1万4千人の浦河市にある大黒座。大正7年創業の93年目を迎える老舗映画館だ。廃館の危機にさらされながら、町の人や、大黒座を愛する人たちのサポートを得て、町になくてはならない存在として今も映画の灯をともし続けている。元町映画館公開初日となった3月3日上映後に本作の森田恵子監督が舞台挨拶を行った。その模様をご紹介したい。
■いつもと変わらない大黒座を撮る。
90周年になっても特に何もしていない、いつもと変わらない大黒座を撮ってほしいというところからスタートしました。2008年9月から撮影を開始したのですが、ちょうどそのときに上映していたのが『潜水服は蝶の夢をみる』で、私はとても好きな映画だけれど、ここで上映してお客さんが入るのかなと思っていました。

浦河は千歳から3時間かかる不便な港町ですが、ぺてるの家という精神障害者の生活拠点を95年に撮影したことがあるので、そこに大黒座があることは話に聞いて知っていました。たまたま大黒座を応援する映画を作ってほしいという依頼があり、私は埼玉に住んでいるので道内の方に頼んだ方がいいのではとお返事したものの、是非とのことで1年半ぐらい撮影していたんです。

■浦河の町の豊かさを再認識して、映画作りを続行。
ところが、依頼者の方がやめると言われました。すでに20人ぐらい浦河の町の人に話を聞いていて、浦河の町の豊かさを再認識したので、自分で映画を引き続き作ることにしました。国の助成金を急遽もらうことになり、その手続きをしたときに、助成の条件が映画館で2週間上映することだったのですが、大黒座の映画なのでそれはすぐにクリアできると。

■映画館はあって当たり前。「何が珍しいの?」と聞かれる。
どこも小さな映画館は大変です。浦河の人からすれば、映画館は生まれたときからあって、あるのが当たり前のものなので、私が撮っていると「何が珍しいの」と聞かれました。でも、地方で自分の住んでいる町に映画館がなくなった人はやはり寂しいとおっしゃっています。

■今の若い人に映画館ならではの体験を。
今の若い人には、映画館で映画を見ることを是非してほしいです。作品中で映画館主の奥さんである和子さんが「エイリアン2」を見て、外にでたらいつもの町の光景が広がって不思議な感じがしたと言っていましたが、そんな体験ができるのも映画ならではです。

シネコンと町の映画館は、ショッピングセンターと個人商店みたいなもので、町の映画館では店主の目利きや説明があります。そういう説明があったら、今まで見たことないけれど試してみようかなと思えます。それにスタッフの思いや気配りがあります。

こうやって、関西の人が北海道の小さな映画館の話を見ていただけるなんて、作った当初は思ってもいませんでしたが、偶然でも北海道の小さな映画館の映画を見ていただけて、うれしいです。

 舞台挨拶後は、場所を移して森田恵子監督を囲んでの食事会が開催された。この食事会には元町映画館スタッフや神戸映画サークルメンバーの方をはじめ、三木労音や三木町づくり協議会の方、そして愛媛より本作を上映予定のマネキネマの方など映画上映に携わるさまざまな立場の方が参加。舞台挨拶でも監督が触れた、若い人に映画体験をしてもらうにはどうしたらいいかといった話題や、学校現場で芸術鑑賞会の中に音楽、演劇関係は含まれても映画鑑賞の機会がなくなっている現実についても話が及んだ。

 森田恵子監督からは、本作や以前撮影した「ぺてるの家」で浦河の人たちと触れ合うときに、生まれたときからずっと町に映画館があること、精神障害者の拠点があることに慣れている町の人たちの精神的な豊かさを感じるとお話いただいた。短い時間ではあったが、監督を囲んで自らの映画実体験(「子供の頃は映画館のトイレの窓から忍び込んで映画を観た!」「学校鑑賞会を生徒会で運営し、アメリカンニューシネマの『イージーライダー』を上映した。」)も交えながら映画や映画館について語り明かした後は全員で記念撮影。映画館のドキュメンタリーが与えてくれた貴重な場に心から感謝したい。

 この日の舞台挨拶や食事会を通して、映画館がある町に住んでいることがいかに幸せなことであるかを実感した。若い頃の映画体験は、間違いなくその人の人生を豊かにする。その機会を逃している世代にどうやって映画を観る機会を与え、映画の魅力を伝え、実体験してもらうか。『小さな町の小さな映画館』で映し出された大黒座と大黒座を支える人たちから、映画という文化によって心の豊かさが育まれる姿を目の当たりにし、まさに奇跡を見たような喜びが湧き上がる。町の映画館にとって冬の時代が続くからこそ、自分ができることで大黒座を支え続ける人たちの真っ直ぐな気持ちが、新しい大黒座ファン、しいては町の映画館ファンを作っていくことを切に願いたい。

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