本音でトーク編集長河田がセレクトした読者レビュー、シネルフレライターによるオススメ映画をご紹介します。

おすすめ映画関連情報の最近のブログ記事

mesoddo-p.jpg予告編⇒ http://www.youtube.com/watch?v=YjU7RlBrSuM
 【DVD】 3,990円(税込価格)
 発売元【セル・レンタル】:カルチュア・パブリッシャーズ
 販売元【セル】:ハピネット/【レンタル】:カルチュア・パブリッシャーズ

(C)2010 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURES - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - Tous Droits Reserves


 

 

(2010年 フランス 1時間49分)
  監督: セドリック・クラピッシュ『PARISーパリー』 『スパニッシュ・アパートメント』
 出演: カリン・ヴィアール『PARIS(パリ)』『しあわせの雨傘』 『デリカテッセン』
 ジル・ルルーシュ『この愛のために撃て』『PARIS(パリ)』
 オードリー・ラミー『PARIS(パリ)』
 ジャン=ピエール・マルタンス『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』


~社会派コメディ,ラブロマンス,それとも…~

フランスの本土最北端の港湾都市ダンケルクで工場が閉鎖される。フランスは,3人の娘がいる42歳のシングルマザーで,大勢の失業者の一人だった。フランス人であることを隠して家政婦の研修を受けるが,その大仰な外国人振りが滑稽であると同時に生きるための底力を滲ませる。労働者の悲哀を笑いで吹き飛ばすコメディのような爽快さが感じられる。だが,彼女がパリへ出て家政婦として働き始めると,ラブコメのようなトーンになる。
   スティーブことステファンは,35歳の独身だが,なぜか幼い息子アルバンがいる。個人で株式等の信用取引をして利益を得ており,金銭に不自由はないが,数字の世界にどっぷり浸かって人間らしさから遠ざかっていた。母親のバカンスでアルバンを預かるが,その世話も家政婦として雇ったフランスに任せてしまう。彼がフランスと接することで人間らしさを取り戻して恋に落ちる,というラブコメの定番を予想すると,あっさり裏切られる。
   世界的に貧困層と富裕層の格差が拡大している中で,セドリック・クラピッシュ監督もこれと無縁ではいられなかった。フランスとステファンは,互いに出会うまで生きてきた世界が全く異なる。そのズレが生み出す笑いを追及し,互いに理解し協力し合う関係が見える着地点を設定すれば,痛快な社会派コメディが生まれたかも知れない。だが,残念ながら,出口の見えない混沌とした状況がそのまま映画の結末に反映されてしまったようだ。
  ステファンが利害関係だけの人生に疲れたとこぼすシーンがある。また,メロディは,ステファンとかつて5か月暮らしたことがあり,彼が謝ってくれるのを待っている。彼に人間らしさが残っていると思わせる展開を見せる。だが,フランスは,勤めていた工場の閉鎖とステファンとの関係を知ったとき,予想外の行動に出る。監督は,大勢の人々の人間的な繋がりを示しているが,ステファンを断罪し追放して後味の悪さを残してしまった。(河田 充規)

(C)2010 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURES - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - Tous Droits Reserves

 

アジア映画の森――新世紀の映画地図
アジア映画の森――新世紀の映画地図

<監修>石坂 健治、市山 尚三、野崎 歓、松岡 環、門間 貴志
<編集>夏目 深雪、佐野 亨
<出版>作品社   

東は韓国から、西はトルコまで、多種多様な文化の中劇的に変化を遂げているアジア映画を概論と作家論で考察する新刊『アジア映画の森――新世紀の映画地図』が出版された。

東京国際映画祭「アジアの風部門」プログラミング・ディレクターの石坂 健治氏、東京フィルメックスプログラム・ディレクター市山 尚三氏らが監修を務め、多彩な執筆陣がアジア映画の森へと誘う。

各国の概論(1900年代前半から今に至るまで)が語られた後、作家について多彩な執筆陣が考察。取り上げられている作家も、ベテランから2000年代に日本で紹介された気鋭の若手まで多彩で、アジアで今押さえておきたい作家を知りたい人にはまさに必読書。

合間に挟まれるコラムで、作家間のつながりや影響、日本と絡めた映画考察なども盛り込まれ、まさに寄り道をしながら、西に向かう旅人気分になれることだろう。

アジアの最新映画事情が網羅され、かつアジア映画を様々なテーマから掘り下げた画期的な一冊。大阪アジアン映画祭にかかわる自分自身にもバイブル的存在となりそうだ。(江口 由美)