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『2番目の女』作品紹介

『2番目の女』 (The Second Woman)
〜人の心こそ,この世で一番ミステリアス〜

(2012年 香港,中国 1時間45分)
監督:キャロル・ライ
出演:スー・チー,ショーン・ユー,チェン・シュー,
    シー・メイチュアン,チャン・ナイティエン

姉フイシャンと妹フイパオの双子の姉妹を巡る映画だ。スー・チーが一人二役で姉妹に扮した。最初は外見だけでなく性格も2人の違いが明瞭になるように演じているが,次第に区別が曖昧になりミステリアスな色が濃くなる。監督は,イカ墨が流れ広がるシーンに姉の心の暗闇をイメージしていたと言う。イカ墨がどす黒い血のような感触で,何か悪いことが起きそうな予感がする。実際に姉の行為が原因となって姉妹の間に不和が生まれる。

妹は,舞台女優であり,同じ劇団の俳優アナンと付き合っている。ところが,姉がアナンと惹かれ合う気配を感じ,猜疑心に満ちた眼で姉を見る。そのシーンがホラー風で,姉妹の間に流れる不穏な空気を映すようだ。また,姉が体調を崩した妹に成りすまして舞台の代役を務めるが,その後で妹が「別人のようだった」と絶賛の拍手を浴びる。そのときの妹は驚き困惑した様子で,姉との確執を深めていく。なかなかサスペンスフルな展開だ。

広東オペラを舞台劇に改編した「紅梅記」が劇中劇として上演される。3年前に死んだフイシャンが彼女と瓜二つのチャオロンに憑依し,恋しいペイランに会いに来るという話のようだ。劇団の看板女優に扮したチェン・シューが劇中劇で一人二役を演じ優美な所作で魅せる。赤と白の衣装は情熱と清明を感じさせる。ペイラン役のアナンの前で,フイシャンがフイニャンと,チャオロンがフイパオとシンクロし,壮絶とも言える結末を迎える。

フイシャンがフイパオに付いて裏山に行った後,フイパオが戻ってきてフイシャンが行方不明となる。舞台での立ち位置,湖で発見された上着等を用い,もしかしたら逆かも知れないと思わせる。一方が他方に殺されたのではないかという疑問も浮かぶ。母親でさえ区別が付かないミステリアスな展開の中,クライマックスでは戻ってきた方が劇中劇のヒロインを演じる。妹と同じ男を愛した姉の心には暗闇が広がり,自身をも呑み込んでいく。

(河田 充規) ページトップへ

『2番目の女』キャロル・ライ監督インタビュー

 第7回大阪アジアン映画祭のコンペティション部門出品作品、香港映画祭上映作品となったキャロル・ライ監督の『二番目の女』。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2002で審査員特別賞を受賞した『金魚のしずく』、日本で劇場公開されたカリーナ・ラム、リゥ・イエ主演の『恋の風景』と女性監督ならではの繊細な描写に定評があるキャロル・ライ監督の最新作が海外初公開され、大いに会場を沸かせた。

双子の美人姉妹と二人が愛してしまった男をめぐるラブサスペンスを、現実と劇中劇を交錯させながら美しくもミステリアスに描いた本作。一人二役に加え、舞台劇でも二役をこなしたアジアンビューティー、スー・チーの熱演や、舞台劇もこなしシリアスな演技を披露したショーン・ユーの新しい魅力を堪能できる作品だ。

第7回大阪アジアン映画祭および香港映画祭のゲストとして来阪したキャロル・ライ監督に本作の着想や、香港映画界の今について話を伺った。

━━━本作の着想はどこから得たのか。
私には双子の友達がいるのですが、お互いの友達が間違えるので、最終的に二人とも間違えられても「そうよ。」と答えるようにしているという話を聞いたのです。その状況が面白いと思い、本作の構想が浮かんできました。
劇中劇を取り入れたのも、舞台の話と現実の話の二つがあって、舞台のストーリーが二人の状況に繋がっているので両者を融合させました。女優が何かを「演じる」ということが主題にもなっています。

━━━劇中劇は元々ある作品なのか。
『再世紅梅記』という越劇(広東オペラ)で、香港人なら誰でも知っている有名な作品です。古典作品なので、せりふ回しを現代風にアレンジし、北京語に変えています。

━━━スー・チーの一人二役ぶりが見事だが、出演するにあたってのエピソードは?
脚本を見せた時点で面白そうだと思ってもらえました。山口百恵が双子の姉妹を演じた『古都』(80市川崑監督作品)をスー・チーさんに見せ、こんな感じで演じてみてはどうかと打診したところ快諾してもらいました。

━━━どのようにして双子姉妹のキャラクターを作っていったのか。
もともと細かく姉妹の設定をしていました。姉は優しい性格で妹を大事にしているし、妹は奔放で野心が強い。スー・チーさんはトップクラスの女優で理解力も高いので、設定を読み込んでご自身でキャラクターをしっかり作り込んでいきました。

━━━ラブストーリーでのショーン・ユーのシリアスな演技が新鮮だったが、
ショーン・ユーさんは見た目は現代的ですが、時代劇にもマッチするルックスです。本作では時代物の劇中劇を披露するので、時代物の装束をつけてもかっこいい彼を起用しました。

━━━ 一貫してモノトーンな姉妹や劇中劇の衣装が印象的だが、衣装、美術に関するこだわりは?
本作では美術、衣装にもこだわっています。衣装担当には「シンプルで、かつ華麗な感じ」と指示をしました。キーカラーを赤、黒、ゴールド、白の4色に決め、そこからあまり離れることのないようにしました。

基本的には無地の衣装が多いですが、冒頭で姉が着用する花柄のワンピースが登場します。水中シーンにも使われているのですが、ここでは水の中でも写りのいいワンピースを衣装担当がわざわざ選んでくれました。

━━━今の香港映画界はどんな動きになっているのか。
今の香港映画界は大陸と合作の作品ばかりになっています。香港だけで作っている作品はほとんどない状況です。ジョニー・トー監督やイー・トンシン監督もしかりですが、香港市場が小さくなっているので、合作でないと成り立たないのです。また、大陸では審査があるので、どうしてもそれに合わせた描き方になってしまいます。

━━━大陸ではどんな映画が望まれているのか。
私もまだ模索中です。『2番目の女』は香港に先駆けて大陸で公開したので、すでにネットで評判が出回っており、高尚な趣味の方には受け入れられているようです。大陸の観客の大半は、まだ映画を見る水準が一定のところまで達していません。香港人だと音がいい、映像がきれいといった部分まで見ますが、大陸の人はまだストーリーとセリフに重きを置いていると思っています。

━━━最後に本作で監督が描きたかったことは?
女性の微妙な心理を描いています。そして常に誰かと比較してしまうような、人間としての微妙な心理を描いているのです。

(江口 由美) ページトップへ

『神さまがくれた娘』A.L.ヴィジャイ監督、ヴィクラム氏ディスカッション

『神さまがくれた娘』 (God's Own Child)
A.L.ヴィジャイ監督、ヴィクラム氏ディスカッション

(2011年 インド 2時間26分)
監督:A. L. ヴィジャイ
出演: ヴィクラム、サラ、アヌシュカ、アマラ・ポール、ナサール
 第7回大阪アジアン映画祭で見事グランプリとABC賞をダブル受賞したコンペティション部門出品のインド映画『神さまがくれた娘』。『アイ・アム・サム』にインスピレーションを得たというA.L.ヴィジャイ監督が、インドの名優ヴィクラムとタグを組んで描き出した壮大な父娘物語だ。
6歳の知能しかない主人公クリシュナをヴィクラムが全身全霊で熱演。前半はクリシュナがニラを愛情いっぱいに育てる微笑ましい姿が描かれ、後半は引き離された2人の苦痛と法廷での争いに焦点を当てている。重い題材を盛り込みながらも、自然豊かな村で歌って、踊って、ミュージカルのようなシーンもあり、映画がエンターテイメントであることを存分に心得ているインド映画らしい楽しさにも溢れている。
 クリシュナとニラの姿に感動の涙が溢れた上映のあと、ゲストとして来阪したA.L.ヴィジャイ監督、主演のヴィクラムが登壇し、観客とのディスカッションが行われた。
━━━ヴィクラムさんの知的障害者役が素晴らしかったが。
ヴィクラム:過去にも『Pithamaga(ピタメガン)』(03)ではセリフがなかったり、『Sethu(セトゥ)』(99)では事故で少し知恵遅れになった人物の役を演じたことがありますが、今回はセリフが多かったので、それを言うのが難しかったです。色々な障害者施設に行って、動きやセリフの言い方を勉強しました。
(クランクインして)最初の10日間ぐらいが経つと、私もクリシュナのことが好きになって、愛情を分け合うことができました。本作を見終わってから自分の娘に電話をしたというお客さんの声もいただきましたが、そんな優しいメッセージが溢れている作品です。

━━━多重人格や視覚障害など、普通の人とは少し違う役をすることが多いのはなぜか。
ヴィクラム:
私は自分と正反対の役をやりたいと思っています。現在、ヴィジャイ監督と撮影中の作品では目が見えない警察官役を演じています。でもクリシュナ役は今までで一番難しかったです。ヴィクラムの中には絶対にない部分を持ち合わせた役ですから。

━━━ニラとクリシュナが手遊びをするシーンはアドリブか。
監督:
ニラ役のサラちゃんは以前から知っている子でしたが、「この幸せな子は誰だろう。」というぐらいかわいい子です。レッドカーペットでも抱っこをするとサラちゃんは怒って、一人で立派にポーズをとるしっかりした面もありましたね。サラちゃんは日頃はヒンディー語を話しているのですが、本作ではタミル語で全てのセリフを言っています。全然違う言葉ですから、本当にすごいことです。細かいところも全て指示を出していますが、サラちゃんはそれに足した演技をみせてくれました。

━━━今後タミル語圏映画はどういう方向に向かっていくのか。
監督:
私たちの文化習慣や、子守歌からはじまる音楽は映画の要素として外せません。インド映画で歌と音楽は欠かせないものですし、我々は感情表現が激しいので、それらを使って表現しているのです。

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『神さまがくれた娘』A.L.ヴィジャイ監督、ヴィクラム氏インタビュー

観客とのディスカッションに引き続き、A.L.ヴィジャイ監督、ヴィクラム氏に二人が一緒に映画を作ることになったきっかけや、クリシュナの人物像をどうやって作り上げていったのか、さらにインタビューで話を伺った。

━━━ヴィクラムさんとA.L.ヴィジャイ監督が一緒に仕事をすることになったきっかけは?
監督:ヴィクラムさんは超多忙な人気俳優なのですが、3年前、ヴィクラムさんに時間ができたとき、すかさず「あなたがこの映画をやらないなら、私は監督を辞めます。」と強引にオファーしました。素晴らしい役者でないと撮れない映画です。電話でヴィクラムさんから「やりますよ。」と言われたときは奇跡が起こったと思いました。本当に夢が叶いました。

ヴィクラム:ヴィジャイ監督は、映画としてはこれで4本目なのですが、南インドの若手の中では一番実力がある監督です。彼の映画は映像がとても素敵だし、彼自身がとても純粋なので、作品の純粋さは彼のキャラクターからもきているんです。彼の前の作品を見て「若いのにすごいな。」と思っていたので、オファーが来たとき是非一緒にやりたいと思いました。一つ一つが大人っぽいニュアンスのある映像を盛り込まれた作品が作れるのは彼しかいないです。ヴィジャイ監督の次回作も是非やらせてくださいと言いました。役者が一人の監督とずっと組んで仕事をするのは微妙に難しいところがあり、普段はやらないのですが、彼の腕を信じているから、今も二人で撮影しています。

━━━ヴィクラムさんはA.L.ヴィジャイ監督をかなり評価しているようだが。
ヴィクラム:
彼の作品はそれぞれ全然違います。アクションも撮れば、真面目なものも撮りますし、本作のような映画も撮っています。3本目の映画は時代劇でした。時代劇を撮るのはとても難しいのですが、2ヶ月で撮影し、それが成功したというのも彼の実力を示していると思います。

━━━主人公クリシュナは心底ピュアな人物に仕上がっているか、これは監督のアイデアか、それともヴィクラムさんのアイデアか。
ヴィクラム:
ほかにも優秀な監督はいますが、彼らにはこの作品は撮れません。心の底からイノセントでないとこの作品は撮れないんです。小雀のエピソードや、信号が赤になるまで何があっても絶対に待っているとか、これらは本当に監督そのものです。絶対に間違いを犯さない。社会的に全てを考えた上で行動を起こす人なのです。
監督:クリシュナというキャラクターのアイデアはあったけれど、どうやって撮ったらいいのか分からなかったんです。どんな感じで、どういうジェスチャーでクリシュナを演じてもらうかも分からなかった。そんな中、ヴィクラムさん自身がこれらの宿題をもって様々な知的障害者のセンターを訪ねたりしながら、クリシュナの動きを全部自分で作り上げてきたのです。ヴィクラムが初めてクリシュナとしてシーンに出てきたときは、びっくりしました。自分が思い描いていたようなキャラクターそのものだったのです。
ヴィクラムさんがそうやってクリシュナを演じることで、重ねて次を考えられるようになりました。最初の10日間は私もパニック状態で、セリフをどうしようか迷っていたのです。でもヴィクラム自身がアドリブを言う場面(冒頭の女性弁護士と会話するシーン)を聞いた上で、私もセリフを考えたりしていきました。まさに二人で作ったクリシュナ像ですね。
━━━父と娘の間に流れる愛が本当にうまく描かれているが。
監督:
ニラ役のサラちゃんも、私が撮れたのは50%だけで、残りの50%はキャメラの後ろで起こっていたことなんです。ヴィクラムさんは自分の演技だけでなく、サラにもたくさんのことを教えてあげていました。キャメラの後ろで父親役のヴィクラムとたくさんコミュニケーションをとったからこそ、あんな素晴らしいニラを演じることができたんです。本当の父と娘の気持ちになって二人がキャメラの前に現れていました。

━━━本作では、インドの保護者法についても若干触れているが。
監督:
障害のレベルによってですが、親権について訴えられたら、最終的には法廷で決められてしまいます。クリシュナもチョコレート工場で働いてはいますが、教えられたことはできても、少し違うと対応できなくなってしまいます。 この状態で親権を持つのは難しいのが現状です。

━━━今のインド映画業界はどんな動きが起こっているのか。
監督:
インド映画といっても、いろいろな言語で作られているので、民族や習慣に近づいて映画を撮っています。全体でインド映画は年間800本以上作られています。インディー語やタミル語など様々な言語で作られており、技術的にもハリウッドには負けていません。タミル語の映画は内容がインディー語圏の映画よりも深いので、インディー語圏でタミル語映画のリメイクをされることもあります。インド映画産業全体でみても、すぐれた映画音楽家や監督やキャメラマンは、結構タミル語圏から生まれているんですよ。
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  インド映画界きっての名優ヴィクラム氏がその才能を認める若手注目株のA.L.ヴィジャイ監督とのまさに二人三脚で誕生した『神さまがくれた娘』。本作を経てさらに次回作へと映画を生み出すお二人が、映画のことを通じてお互いの素晴らしい点を次々と挙げる姿に、心底信頼し合っている様子が伺えた。日本語で「おおきに!」と挨拶するなど、サービス精神旺盛ながらもスターの貫録を見せつけたヴィクラム氏の来阪に、グランプリ受賞が大きな華を添えたことは言うまでもない。そして、インドから生まれた新しいゴールデンコンビの次なる作品にも大いに期待したい。

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