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★ 大阪アジアン映画祭2010 取材レポート

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』 (Vengeance)
〜大阪アジアン映画際に香港ノワールの巨匠、
                  ジョニー・トーが出席〜


(2009年 フランス・香港 1時間48分)

監督:ジョニー・トー  
出演:ジョニー・アリディ、アンソニー・ウォン、サイモン・ヤム、ラム・シュ
★作品紹介はこちら→
 日本初上映となるアジア映画の注目作を一挙に上映する大阪アジアン映画祭が、3月10日から14日にかけて開催された。10日のオープニング・イベントには、香港映画界の巨匠ジョニー・トー監督が5月に一般公開される新作『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』を引っさげて来阪し、記者会見ならびに舞台挨拶を行った。

 本作は『ザ・ミッション/非情の掟』『エグザイル/絆』に続く復讐三部作の完結編で、ある組織に娘一家を惨殺された元殺し屋の男が、自身の生き様を賭けて報復に挑む姿をハードボイルドに描く。主演はフランスの有名歌手で、『列車に乗った男』では俳優としても知られるジョニー・アリディ。彼をサポートする殺し屋仲間にはトー作品常連の、アンソニー・ウォン、ラム・シュらが名を連ねる。

 監督はジョニー・アリディの起用について「実は彼の出演作を見たことがなく、彼が有名な歌手であることも後で知りました。アリディと初めに会ったのは彼の経営しているパリのレストランで、その時、レストランから出てくるアリディの背中に孤独を感じた。その姿が、もうすでに映画の役とシンクロしていました。彼は香港に来るのは初めてでしたが、非常に協力的で感謝しています」
 『ザ・ミッション/非情の掟』『エグザイル/絆』では、“脚本なし”で撮影したと言う役者泣かせのジョニー・トー監督だが、今回は“一応”脚本があったそうだ。しかし、こんなこぼれ話も。ジョニー・アリディが、アンソニー・ウォンの所へ「次のシーン、よく分からないんだけど」と相談に行くと「大丈夫、僕も分からないから!」と返されたと言う。すると「その話は事実です」と監督。「俳優は次がどうなるか分かりません。私だけが次のシーンがどうなるか知っているんです(笑)月明かりの下での銃撃戦も、その場その場で考えて撮っている。なかでも森の中のガンアクションはお気に入りです。」

 友情や絆をテーマにしたきっかけについては「日本で言う“仁義”を重んじる世界に魅力を感じる。私自身に取っては黒澤明監督の影響が強いです。他人を助けるにあたって何も見返りを求めない。約束はきちんと守る。仁義、道徳というのは私たちの身体の中にあると思っています。」

 最後には次回作について「実は今も撮影中で、次回作はガンアクションに関係のない映画です。今、香港の経済発展はとても早くて、前へ前へと進んでいます。その一方で、格差が生じている。土地がとても高くなっていて、勢いについていけない一般の人々は、住みにくくなった。そのような経済の問題をテーマにした作品に取り掛かっている」と語ってくれた。

(中西 奈津子)ページトップへ

チャウ

『チャウ』シン・ジョンウォン監督インタビュー

(2009年 韓国 122分)
監督:シン・ジョンウォン
出演:オム・テウン、チョン・ユミ 、ユン・ジェムン、ジョシア・D・リー

<STORY>
 10年間“犯罪ゼロ”の平和なサムメリ村である日、無残に引き裂かれた遺体の一部が発見される。当初は“バラバラ殺人”かと思われたこの事件。だが実は、巨大人喰いイノシシの仕業であることが判明する。ソウルからこの村に左遷されてきた血気盛んな警察官のキム(オム・テウン)は、次々と村人を襲うイノシシを捕獲するため、孫娘をイノシシに殺された元漁師のチョン(チャン・ハンソン)、チョンと確執のあるハンターのペク(ユン・ジェムン)、動物生態研究家のスリョン(チョン・ユミ)、ぶっきらぼうなシム刑事(パク・ヒョックォン)とともに山へ向かう。

 韓国の“モンスター映画”ということで、『グエムル-漢江の怪物-』のような作品かと思っていたら、いい意味で予想を裏切られた。『チャウ』には確かに巨大人喰いイノシシという“怪物”が登場するし、イノシシの猛追撃から必死で逃れようとするクライマックスのシーンなど、“パニックもの”としてのツボをきっちりとおさえているところも見所だが、実は、“怪物退治”をめぐって登場人物たちが繰り広げるドタバタ劇が中心になっているため、気が付けば怖がるどころか、笑いっぱなしだったのだ。そんな意外性が魅力の本作を作り上げたシン・ジョンウォン監督に、単独インタビューを行うことができた。

■「チャウ」とはどのような意味なのでしょうか?
 韓国の地方の方言で「罠」という意味です。動物を捕まえるときの、あの「罠」です。また、英語だと「一口で食べる」という意味があるので、この2つをかけています。
■ “人喰いイノシシ”というアイディアはどのようにして思いついたのでしょうか?
3、4年前から韓国で、イノシシが村に降りて来ることが多くなり、新聞やTVのニュースでも取り上げられるようになりました。イノシシが学校に入ってきたこともあり、そういうことからアイディアを思いつきました。

■もともと「怪物映画」を作りたいという夢はあったのでしょうか?
もちろん他の種類の映画も好きですが、怪物映画は小さい頃から好きだったので、作りたいという思いはありました。

■後半のパニック描写は『ジュラシック・パーク』を彷彿とさせるものがありましたが、参考にされたのでしょうか?
撮影に入る前に、グラフィック担当の者から「『ジュラシック・パーク』を参考にした」と説明を受けました。また、イノシシについてはCGを使ったり、実際に模型を作ったものもあり、場面によって違います。

■ サンフランシスコでロケをされたそうですが、サンフランシスコを選んだのはなぜですか?

サンフランシスコは基本的に気候の変化がなく、突然雨が降り出すといったこともないので、撮影がしやすいというのが理由のひとつです。あと、街から少し出るとすぐ横に森林があるのも魅力でした。韓国とかだと車で何時間も走らないと森林がないので…。また、以前からハリウッドの方と仕事をしてみたいと思っていたからです。

■韓国でもロケは行ったのですか?境目が全く分からなかったのですが…。
はい、両方で行いました。サンフランシスコへ行ったとき、森の木などを研究し、葉っぱなども韓国のものと比較してみると、とてもよく似ていたんです。周りの人にも違いが分かるか聞いてみると、あまり分からないと言われたので、これならいけると思いました。

■人を襲うイノシシは恐ろしかったですが、最後の方では子供のイノシシとの場面など、母性を持たせていますね。これは、人間が正当化されてしまうのを避けるためですか?また、主人公の妻が妊婦であったり、子供の人形を抱いた女性が登場する理由を教えてください。
まず、イノシシの描写についてですが、最大の被害者はイノシシであるということを言いたかった。村に降りてくるのも「生き残るため」であって、そういう意味を込めて作ったので、加害者ではなく被害者なんです。そして、子供や妊婦については、大自然というのは、女の人の母性につながるものだと思っているので、それを強調するために登場させました。

■本作の登場人物はみな個性的で面白いですが、特に、突然色んな場面に現れる謎の黒髪の女性が気になりました。何か狙いがあったのでしょうか?
あの役をされた方は、オーディションを受けに来られたんですが、すごくオーラがあり、印象に残りました。実際撮影に入る前までは彼女の出番はそんなに多くなかったのですが、即席で彼女のシーンが出来ていきました。撮影するたびにその魅力に気付いて、最後のシーンも、もともとシナリオにはなかったのですが、彼女がこの映画に別の「色」を与えてくれるのではないかと思い、彼女で締めくくりました。また、これもシナリオを全部書いたあとで新しく思いついたのですが、彼女は若い頃に夫に捨てられて、子供も亡くしてしまい、見る男の人全てが自分の子供だと思い込んでしまうという人物設定です。
■ キャスティングは最初から決まっていたのですか?
初めから、俳優を想定してシナリオを書いたわけではないのですが、主演のオム・テウンは「善徳女王」という時代劇で韓国でも売れて、今日本でもすごく人気があります。ですが、この作品に出演したときはまだ彼の人気が出る前だったので、そのときは、道を歩いていても誰も気付かないくらいでした。本当でしたら、チャン・ドンゴンやイ・ビョンホンをキャスティングしたかったのですが、なかなかスケジュールが合わなくて…。でもいったん撮影に入ると、オム・テウンはすごくいい人で、大変頑張ってくれました。とても仲良くなり、彼をキャスティングして良かったと思いました。でも、こういう話は韓国では絶対にしませんが(笑)

■ティーチインでも話されていましたが、漁師役のベテラン俳優が撮影中に怒り出してしまったそうですね。(その後、完成した映画を観て納得されたのだそう。)他の俳優さんたちとはどうでしたか?
イノシシの研究に熱心な女性の役を演じたチョン・ユミは、シナリオを読んで自分の考えとしっくり来なかったり、理解が出来ないと撮影に入らないタイプの女優なんです。本当に自分が納得いくと撮影に入るんですが、撮影中はそんなに時間もないですし、早く撮って次に行かなければならないので「自分の言う通りにしろ」と言ったこともありました。そういうトラブルもありましたが、解決した後は仲良くすることができました。それと、ハンター役のユン・ジェムンがとんでもない格好をさせられる最後のシーンも、本当はシナリオになかったので、彼は何も知らない状態だったんです。彼も結構ベテランの俳優なので私もちょっとびくびくしながら撮影現場に行ってみると、やはり機嫌が悪かったですね(笑)こんな話するの初めてですよ。韓国では俳優に関して本当のことをなかなか話せないので(笑)
■1作目でホラー、2作目(本作)でホラー風味のパニック・コメディを作られましたが、ラブストーリーなどに興味はありますか? 私は、岩井俊二監督の『Love Letter』がすごく好きで、あのような作品を撮りたいという気持ちもあります。1、2作目ともホラーの系統に入るので、次の作品も一応同じ系統のものを考えていますが、自分の中でこの系統の映画は3作目でいったん終わりにしようと思っています。その次は、恋愛モノとかも考えたりはしています。今自分は30代なんですが、40、50代になったときに、20歳前後の恋愛の感情とかを忘れてしまいそうな気がして。だから、その前までにはラブストーリーは1つ作りたいと思っています。
■ちなみに、次回作はどのようなストーリーなのでしょうか?
3作品目にも怪物が出ますが、怪物の種類も増え、『チャウ』のような田舎町が舞台のものではなく、都会を襲うというものを考えています。動物たちももう少し凶暴になってパワーアップします。

 インタビューをさせていただいて感じたのは、監督が作品同様に“意外性”のある人だということ。失礼ながら、少しコワモテの風貌とクールな表情から、時折垣間見える映画への静かな情熱。そして、ティーチインの際にも語られていた「環境破壊」に対する思い。本作がコメディー映画として素直に楽しめるものであることは間違いないが、その反面、イノシシの棲む場所や食べ物を奪っているのは私たち人間であり、その身勝手さや愚かさにもきちんと触れていることを伝えておきたい。

 また、この作品、観客の反応がとても良かったのが印象的だった。上映中、終始笑い声に包まれ、その“一体感”が心地良かった。こんなに面白い映画が映画祭だけの上映では本当にもったいない!是非劇場公開されることを願うばかりだ。

(篠原 あゆみ)ページトップへ

聴説

『聴説』(Hear Me)

(2009年 台湾 109分)
監督:チェン・フェンフェン
出演: エディ・ポン、アイビー・チェン、ミシェル・チェン

★作品紹介はこちら→
Q:台湾での聴覚障害者を取り巻く家族や社会について教えてください。
A:この作品を作るにあたって、たくさんの聴覚障害者のお宅を訪問させていただきました。そこで感じたのは、聴覚障害者の方はもちろん家族の方も悲しみや苦しみをともに背負っておられられるということです。そのことをこの映画を通じて社会に伝えたいと思いました。

Q:聴覚障害者の姉と妹が、水鳥を見ながら手話でお互いの気持ちを伝え合うシーンが、とても心にのこりました。あのシーンにこめられた思いをお聞かせください。

A:聴覚障害者のご家庭に伺っているうちに、少なからずご家族の方たちが自己を犠牲にしていることがあるということに気づきました。聴覚障害というのは目には見えない障害なので、自尊心の強い方が多く、家族はそのことにデリケートに配慮しながら世話をしなければいけないことがあります。そういうことを思いながらあのシーンを撮りました。
Q:若い人のラブ・ストーリーに基軸をおきながら、丁寧に家族の愛や思いが描かれているので、多くの人に愛される作品になったと思います。
 次に、この映画の撮影された街について教えてください。バイクで走るシーンがとてもよかったです。


A:台北の町には、便利なのでバイクはかかせないものです。路上をへびのように蛇行しながら走るシーンがありますが、あれもよく見られます。元気でかっこいいのですが、あぶないですよね。ティアン・クオのようなお弁当やさんもさかんで、バイクでよく配達をしています。ヤンヤンを乗せて、小さな路地を走っていきます。あの街には情緒あふれる小道がたくさんあります。それを知ってほしいと思いました。

Q:ヤンヤンが路上でパフォーマンスをするシーンがありますが。
A:あれも最近よく街で見かけます。文化の一つです。台北の町には新しい文化と古い文化が融合しあっています。いろいろな文化を取り入れながらよりよいものに発展していくエネルギーがあります。

Q:この映画を見てぜひ台湾に行ってみたいと思いました。
A:ぜひ来てください。食べ物もおいしいですから。

Q:映画の中のお弁当もとてもおいしそうでした。

A:あのお弁当屋さんは実在するお弁当屋さんで、上映の後、大人気になりました。映画の中でティアン・クオがヤンヤンのために作った「愛情弁当」に対する問い合わせが多くあったそうです。あれは本当にあるメニューではなかったのですが。

Q:楽しいエピソードですね。多くの台湾の皆さんに愛された作品だと思いますが、台湾で観客の皆さんの反応はいかがでしたか?
A:ええ、とてもスウィートでやさしい気持ちになるといわれ、多くの人がこの作品を好きになってくれました。また、障害者の方をマイナスイメージで捉えるのではなく、プラスのイメージで捉えてくれたことがとてもうれしいことです。障害者の方からも、この作品の監督だいうことで感謝されたりすることもありました。障害者を悲観的にとらえていたことがこの映画でイメージが一掃したといわれたこともあり、うれしかったです。

Q:日本での一般上映の予定はありますか?
A:最近、不況のためか、外国の映画を日本の配給会社は買いたがりません。今のところ、一般上映の予定はまだ決まっていませんが、家族愛や思いやりがテーマなの日本の観客のみなさんにも喜んでもらえる作品だと思うので、ぜひ上映してもらいたいと思っています。

 映画が上映された後の会場は温かい空気でいっぱいになり、さわやかな感動が 観客を包んでいました。観客との質疑応答のため舞台にあがったお二人に、観客の方々からも多くの質問が出されました。 ヤンヤンもティオン・クオも実在の人物であり、そのふたりのことが載っていた新聞記事をヒントにして作られたことやヤンヤンの姉は水泳選手という設定だけど監督自身は実は泳げないことなど、興味深い話をしてくださいました。プロデューサーのペギーさんは、「この映画をまわりの人たちにも伝えてください。ぜひ、力を貸してください」と最後に観客のみなさんに強く訴えました。
 チェン・フェンフェン監督は作品のイメージ通り、透明感のある自然体の美しい女性でした。ストレートでありながら繊細なものを感じました。プロデューサーのペギー・チャオさんからは作品を深く愛する情と熱意を感じました。そのおふたりのやさしさと情熱が映画祭の観客の皆さんに伝わったのでしょう。見事、今年度アジアン映画祭の観客賞に選ばれました。多くの人に愛される作品であり、一般上映にふさわしい作品だという声も多く寄せられていました。

(浅倉 志歩)ページトップへ

見捨てられた青春

『見捨てられた青春』(Squalor)

(2009年/フィリピン/91分)
監督:ジュゼッペ・ベード・サンペドロ
出演:デニス・トリロ、シド・ルセロ、アーノルド・レイエス、エドガー・アラン・グスマン
★作品紹介はこちら→
 フィリピン、マニラの貧民街を舞台に4人の若者たちが対面する夢と現実や苦しみ、悲しみを乗り越える姿を斬新な映像と音楽で描いた『見捨てられた青春』。
大阪アジアン映画祭での上映に伴い、監督のジュゼッペ・ペード・サンペドロ氏、製作のノエル・D・フェラー氏、主演で身重の妻を持ち出産資金のために苦肉の決断を下す青年役のエドガー・アラン・グスマン氏が来日し、3人揃ってシネルフレのインタビューに応じてくれた。
―初監督作品ですが、本作を作ることになったきっかけを教えてください。―
ジュゼッペ・ベード・サンペドロ監督(以下ジュゼッペ):フェラー氏とは前々から映画を作りたいと話をしており、そこからシネマラヤ(フィリピンのインディペンデント映画祭)コンテストに直前になって申し込みました。
ノエル・D・フェラー氏(以下ノエル):ジュゼット監督は、マニラで生まれ、マニラの大学に行き、マニラでずっと生きてきているので、いろいろなエピソードやマニラの街の現実をよく知っていました。作るべくして作った映画といえるでしょう。

―この作品を作るにあたってこだわったことは何でしょうか。―
ジュゼッペ:生活の現実を見せたいというのが一番の思いです。貧しさの中でも人々はしっかり生きている。前を向いて一歩踏み出しているということを描くことで、我々の思いを伝えたかったのです。映画で描かれていることはまさに現実に起こっていることです。
また、ミュージックディレクターやコンサート演出の経験から、自分自身のスタイルでスピーディーな展開を意図的に心がけ、若い人たちをたくさん起用しました。

―四人の魅力的な若い俳優が起用されていますが、配役の基準や経緯を教えて下さい。―
ノエル:最初のエピソードの主役、デニスはすごく人気がある人なので、このようなインディペンデントの映画には通常出ません。そういう人が出てくれるということは観客へのアピールにもなりました。三番目の俳優はお芝居で活躍しており、本作で主演男優賞ももらっています。エドガーさんの場合は、他にもこの役をやりたい俳優がいたけれど、あまり知られていない若手を起用したいと思っていたのです。彼のイノセントな部分に惹かれました。

―エドガーさんの役は幼妻の出産資金のためやむなく自分を犠牲にする難しい役でしたが、最初この役をもらったとき、どう感じましたか。―
エドガー・アラン・グスマン氏(以下エドガー):僕が登場するシーンの背景はマニラ市のキアポという貧しい人がたくさん住んでいる場所で、僕自身、そういうところに住んでいる人に同情や憐れみ、かわいそうだという思いがありました。また、監督にもそういうイメージで演じてほしいといわれました。
ノエル:貧しさは確かに厳しい生活の側面ではあるけれど、自分の生き方を選べないどうしようもない状況が、哀しいです。結局その後、エドガー氏扮する青年は、子どもも生まれて、田舎で新しい生活を始めたということになっているので、よかったと思います。

―みなさんのお気に入りのシーンを教えて下さい―
ジュゼッペ:一番記憶に残っているのはキアポ地区の地下道で撮影したことです。たくさん人が住み、密集している場所なので、撮影クルーがいて皆が構えるのではなく、撮影していると気づかれずに自然に演技して撮影したかったのです。カメラは距離を置いて、遠くから撮影し、生の姿を映したいと思いました。
ノエル:街の娼婦が「本を今でも読んでいるの?」と会話するシーンがあります。そういう商売をしている人もそんな会話をしているあたりが、フィリピンの日常生活を垣間見る気がして私はとても好きです。

エドガー:フィリピンのスーパースター、アイデレス・アラスさんのシーンです。私のエピソードの最後の方に「あなたにプレゼントよ。」とお金をあげるシーンの女性です。
ノエル:アイデレス役は貧しい女性の役ですが、いよいよお金に困りきったエドガー氏扮する青年が行商に来た時に助けようとします。貧しい人が貧しい人を助けるというのがフィリピンでは当たり前です。
ジュゼッペ:フィリピンではそれを、「バイアニハ(相互扶助の精神)」と呼んでいます。
―この映画を通じて伝えたいことは何でしょうか。―
ジュゼッペ:「生きていくことは苦しいし、悩むことはたくさんあるけれど、何とか生き抜いていくという思いがあれば、最終的には人生の勝者になることができる。」ということです。


エドガー:
マニラはすごく複雑で、色々な人がたくさんいます。そういう複雑な環境の中でも一人一人が一生懸命生き抜こうとしているのが、フィリピンの人たちなのです。

―日本ではインディペンデントと商業映画は分かれていますが、フィリピンでは商業映画俳優がインディペンデント映画に協力することはよくあるのでしょうか。―
ジュゼッペ:実際のところ、本作がはじめてです。私たちは両方の橋渡しをしたいというビジョンを持ってやりました。フェラーさんや私たちも商業ベースの人とツテがあって、持っていた人脈を通じて賛同が得られたのです。テーマはインディペンデントだけど、映画としての質はメインストリームの映画でありたいという思いがありました。

ノエル:インディペンデント映画といっても、観客が支持しないような映画もあります。本作は俳優たちがサポートし、観客も応援、共感してくれました。インディペンデントながら入場数もすごく多く、大成功を収めたことを私たちもとても誇りに思っています。映画の質として演技している俳優も編集もしっかりしたものをインディペンデント映画でできるということを見せることで、インディーだろうがメジャーだろうがきちんとした映画作りが可能だということが示せたと思います。
 6日間で撮影、200万ペソ(日本円で400万)で制作と、規模はインディペント映画ながら、メインストリーム映画界との橋渡し的役割を念頭に置いていたことが端々に伺えるエピソードの数々を我々は聴くことができた。彼らが伝えようとした「どんなに苦しい中でも生き抜こうとする力で、自らの人生を切り開く」ことは、人生の選択ができない苦しさの中でも生きている青年たちの姿を鋭い視点で切り取った本作は、間違いなくフィリピン映画の中で語り継がれる作品となるだろう。

  次回作は、シングルファーザーの物語を考えているというジュゼッペ・ベード・サンペドロ監督。本作のように6人の父親たちのエピソードを同時進行でクロスさせながら語る構想だそうだ。本作の日本劇場公開、そしてこれから作られる次回作を引っ提げての再来日を心から望みたい。

(江口 由美)ページトップへ

ホワイト・オン・ライス

『ホワイト・オン・ライス』 (White on Rice)
〜宇宙人のユーモア+渡辺 広+確かな演技力
                  =新しいコメディー〜

2009年/アメリカ/85分
監督・脚本:デイヴ・ボイル
出演:渡辺 広、裕木奈江、高田 澪、ジェームズ・カイソン・リー
★作品紹介はこちら→

 日本での公開を待ち望まずにはいられない! アジア初上映となった大阪アジアン映画祭の会場で、デイヴ・ボイル監督、主演の渡辺 広、裕木奈江に作品への思いをたっぷりと聞いた。

 タイトルの「White On Rice」は“米は白さから離れることはできない”というアメリカのことわざから。“ジミーの家族はジミーから離れることができない”という意味が込められており、噛めば噛むほど奥深い。
 監督が自分の家族をモデルに、脚本から手がけた作品。はじめはアメリカ人が主人公だったが、渡辺と出会い彼に脚本を合わせることで、新しいコメディーと称される作品を約1ヶ月で撮りきった。今アメリカでは、アジアン・アメリカン映画の人気が高まっており、本作は2009年ロサンゼルスアジア太平洋映画祭脚本賞をはじめ観客賞など、様々な映画祭でも高い評価を受けている。日本での公開を待ち望まずにはいられない。
 好きな作品・監督を問えば次から次へ答が挙がってくるほど、日本映画が大好きだと言う監督は、本作を尊敬する山田洋二監督の『男はつらいよ』のオマージュだと位置づける。かつ、自分の要素、つまりは日本でもアメリカでもない一人の男の話として撮りたかったのだそうだ。トーンのあるストーリーをB級作品で始めたかったと冒頭に配したのは、劇中作品『待ち伏せ』。吹き替えのアメリカ人の声優は有名どころにお願いするなど、こだわった。また、衣装は偶然ではあるが『ラストサムライ』のものなのだとか。
 そんな監督の印象を、渡辺が「自然体でやさしい目で日本人をとらえている。笑いのツボを押さえている」と評すれば、裕木も「海外での日本人コミュニティーをよく見ている。まさに海外で暮らすドルを稼ぐ日本人の話で、非常にリアリティがある」と、監督の観察眼、自称“宇宙人のユーモア”に絶大な信頼を寄せていたようだ。

 海外に活躍の場を広げている渡辺、裕木の二人は「こういうテイストの映画はアメリカのコメディーにもない。独特の味のある映画」と口を揃える。
 渡辺は、特に台詞が難しかったと言う。本作では日本語と英語が飛び交い、話す相手によって明確に使い分けられている。「英語だとオーバーに、日本語だと少し控えめに。その中間をいかに違和感なくやるか」。その高いハードルをみじんも感じさせないほどの完成度の高い演技力にはあらためて驚かされた。
 結木は、ハリウッドでは『硫黄島からの手紙』、『インランド・エンパイア』に続く3作目の出演となる。「今までの2本は、出番は少なかったが全て英語でプレッシャーが大きかった。今回は日本の役者さんが多かったし、監督も日本語ができるのでリラックスできた」と、その表情からは役を人間としてつくっていける喜び、充実感が見てとれた。「腐らないで熟成したい。ワインがいいですね。」そうつぶやいた、とびきりの笑顔が印象的だった。

 飄々と流暢な日本語で笑いを起こすデイヴ監督、穏やかな物腰で丁寧に言葉を選ぶ渡辺、躍動感溢れる受け答えとチャーミングな表情の裕木。3人の間に流れる心地よさは、作品の楽しさに勝るとも劣らなかった。

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