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★太平洋の奇跡 −フォックスと呼ばれた男−

(C)2011「太平洋の奇跡」製作委員会
『太平洋の奇跡 −フォックスと呼ばれた男−』
〜日米双方から描いた異色の戦争映画

(2011年 日本 2時間09分)
監督:/平山秀幸
出演:竹野内豊、ショーン・マクゴーウァン、山田孝之、井上真央、ダニエル・ボールドウィン、トリート・ウィリアムズ

2011年2月11日(金・祝)〜全国東宝系ロードショー
公式サイト⇒ http://www.taiheiyo-no-kiseki.jp/
 アメリカ人の原作で日本人監督による太平洋戦争映画というのは珍しい。一方的な日本側の歴史的事実だけでは描ききれないのか。舞台は太平洋戦争の激戦地サイパン。日米双方から描いた異色の戦争映画だ。

 1944年6月、陸軍歩兵第18連隊の大場栄大尉(竹野内豊)はサイパンに送られる。日本が統治し2万の軍がいる島に、圧倒的な兵力を誇る米軍が上陸する。日本軍は米軍の捕虜になることを恐れて民間人が崖から飛び降り自殺、玉砕命令を受けていた大場隊も次々と戦死していく。だが大場大尉は修羅場で日本の赤ん坊を拾って米軍に預けたことから、生きることを強く実感する。
大場はやくざあがりの一等兵、堀内(唐沢寿明)らと共同戦線を張り、島の最高峰タッポーチョ山に潜んで米軍への徹底抗戦を1年余も続ける。神出鬼没の部隊を率いる指揮官を米軍は“フォックス”と呼ぶようになる…。
 サイパン島といえば硫黄島やガダルカナルなどとともに玉砕=全滅という悲惨な歴史の島として知られる。だが、こんな徹底抗戦した部隊があったことは知らなかった。「日本軍は不利な条件を克服して実によく戦った」とアメリカ人が褒める。昨年のテレビドラマ「ザ・パシフィック」では3人の海兵隊員が太平洋各地の激戦地を転戦するドラマだったが、各地の激戦の島で米兵たちは日本軍の統制のとれた反撃に手を焼き、恐れを抱きもする。映画では古くはジョン・ウェインの「硫黄島の砂」(49年)から日本の戦いぶりが伝説的になり、クリント・イーストウッド監督による「硫黄島からの手紙」では日本人(渡辺謙=栗林中将)が主役になった。

 「太平洋の奇跡」では、サイパンで1年以上も山に籠もった大場大尉を、日本への留学経験もあるルイス大尉(ショーン・マクゴーウァン)は「死なせたくない」と思い詰める。戦場で命をかけて戦った兵士ならではの共感。日本人を殺すことを生きがいにする米兵の中で、彼は特別なのに違いない。
 現在から当時の兵士を云々することには意味がない。だが「生きて慮囚の辱めを受けず」という戦陣訓で多くの一般人が自殺に追い込まれたことは何度見ても無残のひと言。天皇中心の日本人の精神構造がどのように築かれてきたのかは長い歴史の問題。だが、大場大尉はその戦陣訓に違反して米軍に投降したのである。どのような思いだったのかは実に興味深い。

 竹野内はげっそり痩せこけて、役作りにかけていたのがよく分かる。だが、フォックスと呼ばれるほど目覚まし活躍したかどうか、映画ではよく分からない。日米双方から描くのはやはり中途半端の感は否めず、大場大尉には存在感が薄かった。

 今も戦争中のアメリカでは、昨今の中東戦線よりすでに結論が出ている太平洋戦争の方が描きやすいのだろう。戦争は敵味方双方とも人間性を失わせ、残酷さをむき出しにしエスカレートさせるという当然のことを改めて思い起こさせる。無残な戦闘の跡地で、大場大尉はひとり残された赤ん坊を助け、家の前に印を吊るして米兵にゆだねる。どのような場であっても人間の心を失わないことは難しいのだろうか。

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